坂本龍一音響監修シアターで開催 タルコフスキー好きを公言するワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)新譜試聴イベントを体験
2023年10月8日 10:00
映画ファンの皆さん、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、通称OPNと呼ばれるアーティストを御存じだろうか。コアな音楽ファンから一目置かれる米国の音楽家であり、プロデューサーでもある彼は、本名のダニエル・ロパティン名義で、ソフィア・コッポラ「ブリングリング」(13)、ジョシュ&ベニー・サフディ兄弟「グッド・タイム」(17)、「アンカット・ダイヤモンド」(19)など映画音楽にもかかわり、「グッド・タイム」ではカンヌ・サウンドトラック賞を受賞。そして、生前の坂本龍一さんとも親交があり、その才能が高く評価されているアーティストだ。そんな華麗なるキャリアを持つOPNの最新アルバム『Again』の試聴イベントが9月28日に「109シネマズプレミアム新宿」で開催された。
「109シネマズプレミアム新宿」といえば、今年4月のオープン前から坂本龍一さんが音響監修をしたこと、常識を覆すラグジュアリーな館内設計で話題の映画館だ。今回、従来の2チャンネルステレオ信号を、ステレオ感を残したまま立体的超リアルに再生するプロセッシングシステム、SAION Super Real Effects(SSRE)という環境での初めての音楽試聴イベントで、待望のOPNの新譜とともにアーティストの演奏だけが浮き彫りにされる超リアルな空間も楽しめるという、何とも贅沢なシアターの使い方にも筆者の期待は高まった。
この日は、試聴の前後にトークが開催され、編集者で黒鳥社コンテンツディレクターの若林恵氏が聞き手を務め、音楽媒体ele-king野田努編集長、エディターの池田桃子氏が登壇した。OPNのキャリアや作風の変遷、取材時のやりとりなどのほか、「タルコフスキーが好きだと知られているけど、『一番好きな映画監督は誰?』と聞くとジェームズ・キャメロンだと。『ターミネーター2』を超える映画はないと語っていた」(若林氏)、「2010年頃のインタビューだとヘルツォークだと言ってましたね」(野田編集長)と、取材を通して知ったOPNと映画のかかわりについても言及された。集まったコアなファンたちが、試聴前の期待と不安、そして試聴後の印象を語るなどそれぞれの感想を共有していた。
試聴開始前の冒頭映像で、生前の坂本さんが姿を現し「最も信頼する音響エンジニアたちと作り上げた」と、ここが世界一音の良い映画館であることを確信を込めて語る。音楽、そして映画の世界に大きな遺産を残した巨匠のその眼差しと佇まいに胸が熱くなる瞬間だ。坂本さんはOPNの前作アルバム『Magic Oneohtrix Point Never』発表時に「本当に不思議な音楽。どうしたらこんな発想が生まれるのか、ダニエルの頭を覗いてみたい」とコメントしている。
そしていよいよ、OpenAI社の生成AI、ソニック・ユースのリー・ラナルド、ジム・オルークも参加しているという最新作『Again』日本最速の試聴タイムがスタート。通常の映画の上映とは打って変わって、館内の照明が落とされ辺りは一面の闇。おぼろげに光る通路のランプのみが確認できる状況となった。
メロディアスな弦楽合奏から始まり、ノイズ、エレクトロ、テクノ、アンビエント、ソフトロックなど様々なジャンルを横断する音の洪水に圧倒される。電子音を用いたコズミックな表現も印象的で、映像のない真っ暗な環境、スクリーン前方から押し寄せる、迫力ある低音域の振動が座席にまで伝わるような環境も相まって、OPNの豊穣な音表現の惑星を巡っていく宇宙船の乗員になった気分だ。
頭を空にして、純粋に音楽だけを楽しめる人も多いだろうが、映画ファンであれば、壮大なSF映画やロードムービーのような映像が喚起されるのではないだろうか。そして映画でなくとも、自身の日常や過去の何か断片的な記憶が脳裏に浮かぶような瞬間もあるだろう。坂本さん音響監修の劇場で、坂本さんが太鼓判を押すアーティストの圧倒的な世界観を体感するとともに、聴いている自分のイマジネーションも膨らむ稀有な体験だった。
もちろん一般的な家庭でこの劇場と同じ環境での再生は難しいが、自宅ではどんな聴こえ方で楽しめるのだろうか……とまた違った期待も高まる。その後、アルバム発売に先んじて公開されていた新曲で、OPNとの原案をもとにビデオアーティストのフリーカ・テットが監督した「A Barely Lit Path」のミュージックビデオがスクリーンで上映された。楽曲と共に擬人化された2人の衝突実験用ダミーの悲痛な物語にも目を奪われる。
OPN最新アルバム『Again』は、先鋭的な音楽ファンでなくとも、これまで聴いたことのない音楽、見たことのない映像を欲するような好奇心と感性を持つ人にぜひとも触れていただきたい作品だ。
『Again』は、CD、LP、デジタル/ストリーミング配信で発売中。国内盤CDにはボーナストラックが追加収録され、解説書と歌詞対訳が封入される。LPは通常盤(ブラック・ヴァイナル)に加え、限定盤(ブルー・ヴァイナル)、日本語帯付き仕様盤(ブルー・ヴァイナル/歌詞対訳・解説書付)の3形態。さらに、国内盤CDと日本語帯付き仕様盤LPは、Tシャツ付きセットも発売している。また、2024年2月28日(水)東京・EX THEATER、2月29日(木)大阪・梅田 CLUB QUATTROでの来日公演が決定。詳細は(https://www.beatink.com/)で告知している。
執筆者紹介
松村果奈 (まつむらかな)
映画.com編集部員。2011年入社。
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