アンカット・ダイヤモンド : 映画評論・批評

2020年2月4日更新

米インディーズの気鋭とアダム・サンドラー、刹那の輝きを放つ化学反応

パンチドランク・ラブ」「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」などで潜在的な実力を示しながらも、これまで賞といえばラジー賞とMTVアワードくらいしか縁のなかったアダム・サンドラー。彼が驚異的な憑依演技を見せる本作は、「神様なんかくそくらえ」「グッド・タイム」のジョシュ&ベニー・サフディ兄弟とのタッグが実現したNetflixとA24の共同配給作品だ。

サンドラー扮する中年男ハワードは、メガネに無精ひげの風貌からして怪しいニューヨークの宝石商。ギャンブル依存症で膨大な借金を抱えた彼は、妻との関係も破綻し、裏社会の借金取りにつきまとわれている。そんな崖っぷち男のもとに一発逆転のチャンスが舞い込む。粘り強い交渉の末に購入したエチオピア産のブラックオパールが届いたのだ。途方もない価値を見込むこの宝石を元手に、ハワードは人生最大の勝負に打って出る。

サフディ兄弟の前作「グッド・タイム」は、ロバート・パティンソン演じる銀行強盗犯が予測不可能なまでに行き当たりばったりの疾走を繰り広げる快作だったが、今回も全編がアクシデントのように蛇行し、異様なテンションのカオスが渦巻いている。四文字言葉が飛び交う会話シーンでは、いくつものセリフの発声がまともに被り、その混乱ぶりたるや凄まじい。ハワードは複数のトラブル対応に追われ、もはや破滅寸前の哀れな男だが、彼に同情する観客はひとりもいないだろう。何事もその場しのぎのハワードの辞書には、反省、謙虚、冷静といった言葉が載っておらず、あらゆる厄災は身から出た錆なのだ。

なぜか邦題は“ダイヤモンド”となっているが、物語のキーアイテムは鉱山から採掘されたそのままの状態のオパールの原石だ。宝石に縁のない筆者にはこれが本当に100万ドルの価値があるのかわからないし、劇中でもっともらしい根拠も示されない。しかし、それはたいした問題ではなく、ハワードがそう信じきっていることが重要だ。オパールをマクガフィン(プロットを動かす小道具)として活用したこのノンストップ・スリラーは、宝石とギャンブルの魔力に取り憑かれ、ユーフォリアに狂う男の悲喜劇なのだから。

そして、この映画は人生のあまりにも皮肉なめぐり合わせと、その奇妙な真理のようなものに触れた寓話でもある。ダイヤよりはるかに硬度が脆いというオパールは、夢や幸福のはかなさのメタファーにふさわしい宝石なのかもしれない。と、ここまで結末を仄めかしても、サンドラーの破れかぶれの迷走に目が釘付けとなる本作のエンディングの衝撃性は、きっとあなたの想像をはるかに超えているはずだ。

高橋諭治

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