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【「アンダーカレント」評論】誰もが皆、心の奥底に流れる何かを抱えながら生きている

2023年10月8日 08:00

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「アンダーカレント」
「アンダーカレント」
(C)豊田徹也/講談社 (C)2023「アンダーカレント」製作委員会

銭湯の湯船に張られた水面が揺らいでいる。それはまるで、“心の揺らぎ”に対するメタファーであるかのようなのだ。今泉力哉監督が「愛がなんだ」(2019)や「ちひろさん」(2023)でも組んだ脚本家・澤井香織と再び組んだ「アンダーカレント」(2023)は、豊田徹也の同名漫画を映画化した作品。真木よう子が演じる今作の主人公・かなえは、亡き父が経営していた銭湯を夫(永山瑛太)と切り盛りしていたのだが、ある日夫が失踪してしまう。彼女は途方に暮れ、夫の行方はもちろん、銭湯の経営に対しても気がかり。彼女の不安は、水面の揺らぎによって視覚化されているであろうことを窺わせるのである。

映画の冒頭では原作漫画と同様に、<Undercurrent>の意味が記されている。拡大解釈すると、それは“心の奥底に流れるもの”という意味になる。つまり、表面的に見えている考えや感情とは矛盾する“本心”が、この作品におけるテーマであるのだとタイトルに込めていることが判る。失踪した夫に代わって銭湯で働くことになる堀(井浦新)に対し、かなえは「自分のことを喋らない」と咎めるのだが、かなえもまた誰にも話すことが出来ない“心の奥底に流れる”葛藤と欲望、そして、秘密がある。人間は本心だけで生きているのではない。この映画はその是非を問うのではなく、人間というのはそういうものだと、優しい視線で人間のダメな部分を愛でている。問題が解決することが全てではないとする“救い”のようなものが、物語の“奥底に流れている”のも特徴だ。

この映画には、細部まで踏襲されている原作に対する愛がある。例えば、どじょう、あやとり、遊園地の回転木馬、そして、カラオケで熱唱されるダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「裏切り者の旅」。権利をクリアすることで、わざわざ劇中に使用しているのだから、当然、歌詞には意味がある。この歌を熱唱するリリー・フランキーが演じる探偵・山崎は、見た目がいい加減そうだが、実は切れ者だという設定。その姿は、<Undercurrent>を象徴する存在のひとりであることも窺える。そもそも、原作漫画で描かれる山崎の風貌は、リリー・フランキーにそっくりだったりするという可笑しさを伴いながら。

劇中には、かなえが湯船に沈んでゆく美麗なショットが印象的に描かれている。このショットは、原作漫画の表紙を踏襲したものであり、本作のポスタービジュアルにも採用されているもの。「アンダーカレント」という言葉と本構図のビジュアルを鑑みた時、連想させるのはビル・エヴァンスとジム・ホールによる1962年のアルバム「Undercurrent」のジャケット写真だ。タイトルの由縁には諸説あるが、当時の録音技術では再現できなかった“低音”が、湖底や海底の暗流を想起させたことに由来するとされている。長いガウンを着て水に浮かんでいる女性の姿を撮影したジャケット写真は、写真家トニー・フリッセルが1947年に撮影したもの。だが、アルバムのために撮影されたものではない。一方でこの写真は、ミレーの絵画「オフィーリア」を想起させると論じられてきた経緯もある。「オフィーリア」は“眠りと死”の象徴だとされるが、トニー・フリッセルが当時まだ珍しい女性写真家であったことにも“奥底に流れている”意味がある。

銭湯の湯船に張られた水面が揺らいでいる。それは、同じ形であり続けない、ひとつのところに留まらないことに対するメタファーのようでもある。この映画はかなえの物語であり、堀の物語でもあるというわけなのだ。本作には、かなえが犬を散歩に連れてゆく場面などで、河川とそこにかかる橋とが何度も繰り返し登場する。原作漫画では一度しか描かれないこの場所は映画の終幕を飾っているが、それはまるで、“あちら側”と“こちら側”を行き来する象徴であるかのようにも見えるのである。

(松崎建夫)

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