9月公開の注目映画を紹介 この秋に“感じて”ほしい、豊かかつ刺激的な3作品【ミニシアター支配人厳選】
2023年9月14日 09:00
暑い日が続きますが、暦の上ではもう9月。過ごしやすい日が多くなってくる“芸術の秋”の過ごし方を考える方も多いのでは?
そこで映画.comでは、いつものシネマコンプレックスとは違うミニシアターで、良作映画に触れる“ミニシアターの秋”を提案。ミニシアター支配人たちが厳選しておすすめする、9月公開の映画を聞いてみました。
映画製作を禁じられた監督による命がけの衝撃作から、俳優たちの演技がすさまじいラブストーリー、“スタントを使わないダンスシーン”にしびれるパリのダンサーの物語まで……。気になる作品をみつけてください!
政府から20年間にわたり映画製作・海外渡航を禁じられながらも、不屈の精神で映画を撮り続けるイランの名匠ジャファル・パナヒが監督・脚本・製作・主演を務め、自らを題材にして撮りあげた社会派サスペンス。2組のカップルが迎える想像を絶する運命を通し、イランに残る抑圧的な社会問題の現状を浮き彫りにする。
パナヒ監督はトルコで偽造パスポートを使って国外逃亡しようとしている若い男女を主人公にしたドキュメンタリードラマ映画を撮影するため、イランの国境近くの小さな村からリモートで、助監督レザに指示を出す。やがて、滞在先の村では、古い掟のせいで愛し合うことが許されない恋人たちをめぐるトラブルが大事件へと発展し、パナヒ監督も巻き込まれていく。
ジャファル・パナヒ監督を知らなくても、映画を観れば「熊」とは何かを知ることができます。すると不思議と監督のことを知りたくなるはずです。世界で最も勇敢な映画監督のことを。
「逆光」で監督デビューを果たした若手俳優・須藤蓮が、同作に続いて「ジョゼと虎と魚たち(2003)」などの脚本家・渡辺あやとタッグを組んだラブストーリー。須藤がケイ役で自ら主演を務め、「私の知らないあなたについて」の佐々木ありさがルミを演じた。
渋谷のバーやモデルのアルバイトをしながら暮らしている23歳の青年ケイのもとに、行方不明になっていた兄ユウタが故郷の海で自殺したとの知らせが届く。ユウタの葬儀でただひとり泣き続ける女ルミと出会ったケイは、ユウタに乱暴され激しい憎悪を抱きながらも交際していた彼女に強くひかれる。やがて渋谷でルミと再会したケイは彼女への思いをさらに強めていくが、あるとき、ルミの“全て”を知る。
何といっても主演のお二人の生々しく力強い演技は圧巻です。
人間の奥底のみならず舞台となっている渋谷の街や、故郷の海など、その土地に眠る欲望や破壊、暴力、再生といったものを巻き込みながら剥き出しに演技をする須藤さんと佐々木さんには、観客の私達も作品の深淵(ABYSS)に引きずり込まれるかの様です。
そして迫真の演技・骨太なストーリーとは裏腹に、独特で繊細な色彩の映像は更に作品の奥深くを体感できる素晴らしいものになっています。
「スパニッシュ・アパートメント」のセドリック・クラピッシュ監督が、挫折した若き女性ダンサーの第二の人生を描いたヒューマンドラマ。パリ・オペラ座バレエ団でエトワールを目指すエリーズは、夢の実現を目前にしたある日、恋人の裏切りを目撃して心が乱れ、足首を負傷する。医師から踊れなくなる可能性を告げられた彼女は、失意のなかで新しい生き方を模索し始める。
そんな折、料理のアシスタント係の仕事でブルターニュを訪れた彼女は、世間から注目を集めるダンスカンパニーと出会い、独創的なコンテンポラリーダンスが生み出される瞬間を目の当たりに。誘われて練習に参加した彼女は、未知なるダンスを踊る喜びと新たな自分を見出していく。
パリ・オペラ座バレエのプルミエール・ダンスーズのマリオン・バルボーさんが主演を務められており、クラピッシュ監督の目指した“スタントを使わないダンスシーン”が本当に素晴らしいです。特に冒頭15分はバレエ好きな方はもちろん、あまり見る機会がなかった方にも観て欲しい圧巻のシーンとなっています。挫折から再起を描くというとイメージされるような重く暗い話ではなく、ユーモアにも溢れ、共感できるところや考えさせられることも多い作品なので、幅広い層の方にお勧めの作品です。