「インスペクション」ミリタリー映画としての魅力は? 監督「軍隊を批判する映画でも肯定する映画でもない」
2023年8月10日 14:00

「ムーンライト」「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」といった革新的な作品を送り出してきた映画会社A24の新作「インスペクション ここで生きる」(公開中)。同作は、新鋭監督エレガンス・ブラットンが自らの“衝撃的な実話”を映画化した作品。人間らしい複雑な視点で自身の半生を“誠実”に再現したことで、全く新しい“ミリタリー映画”としての魅力も生み出されることになった。
ゲイであることで母に捨てられ、16歳から10年にわたってホームレス生活を続けていた青年・フレンチ(ジェレミー・ポープ)が、生きるために海兵隊への入隊を決意。ただでさえ過酷な訓練が待ち受ける環境において、ゲイであることが知れ渡ってしまい、さらに激しい差別にさらされてしまう。逆境の中、自分自身であること、そして他者と向き合うことを決して諦めないフレンチの姿が胸を打つ物語――なにより驚くべきは、本作が監督・脚本を務めたブラットンによる“実話”であるということだ。
本作は、フレンチら訓練生たちが海兵隊のブートキャンプで過ごす日々に焦点を当てている。教官たちの理不尽で厳しい訓練に耐え忍ぶシーンはあっても、そこだけを過度にクローズアップしているわけではなく、実は戦争シーンも登場することはない。描かれるのは、ブートキャンプを舞台に教官や訓練生たち、そして母親との関わりを通して成長していくフレンチの姿だ。

SNSでは「監督の実体験をもとにしてウソがない、とても誠実な映画」「誇張やステロタイプといったものと無縁な誠実な映画」とブラットン監督が“実際に見て、聞いて、体験してきた”であろうことが、画面から感じ取ることができる再現性の高さを評価する声が上がっている。
さらに、ブラットン監督は「軍隊を批判する映画でも肯定する映画でもない」と述べる。実際に壮絶な体験を強いられた場ではあったが、ブラットン監督にとっては、どん底だったホームレス生活から這い上がるために開かれた数少ない道のひとつだった。
そして、他人を守る能力と同じくらい“自分が重要だ”という教訓から「自信を取り戻させ、人生の目的を与えてくれた」場所だと明かしているように、とても複雑な視点をもって描かれている。わかりやすい社会批判や風刺に落とし込まない見せ方は、実際にその場所に身を置いたブラットン監督ならではの実直で血の通った人間らしい表現だと言えるだろう。

影響を受けたのは「フルメタル・ジャケット」「愛と青春の旅だち」「ジャーヘッド」といったミリタリー映画の傑作群。そのうえでブラットン監督は“海兵隊を目指す青年の成長物語”として、フィクションではなく、自身の“実話”というもっとも説得力のある形で本作を作り上げた。つまり、人間らしい複雑さをもった“誠実”なミリタリー映画なのだ。
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