役所広司、カンヌ受賞で「賞に恥じない俳優になりたい」 日本映画界への提言も
2023年6月13日 17:20
ドイツのビム・ベンダース監督の「PERFECT DAYS」(原題)に主演し、第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した役所広司が6月13日、東京・千代田区の日本記者クラブで記者会見を行い、「ありきたりですけど、賞に恥じない俳優になりたいと、今回は特に思いました」と受賞の喜びをコメント。恩師で俳優の仲代達矢への受賞報告の様子や、日本映画界への提言についても大いに語った。
主人公のトイレ清掃員の男、平山を演じ、見事に最優秀男優賞を手にした役所。俳優部門での日本人の受賞は2004年に「誰も知らない」で、史上最年少で同賞を受賞した柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる。
会見冒頭では、受賞式で飛び出した「賞が大好き」の第一声について、「賞をいただく直前に、ある女優さんが『男の人って賞が好きなのよね』っておっしゃって。それを受けてのジョークのつもりだった」と説明。「会場でもそんなにウケなくて(笑)。あのコメントだけが大きく報じられたので、今日はその説明をしようと思っていた」と笑いを誘った。
もちろん、受賞の喜びは格別。「発表の瞬間、監督をはじめ、その場にいたスタッフもものすごく喜んでくれて、僕自身感動しました。僕は幸せだなと」としみじみ語り、「夢のような仕事でした。コンペティション部門に選んでいただき、大きなおまけで、男優賞までいただいた」と振り返った。
作品が評価された理由を問われると、「たったひとりのトイレ清掃員の男を淡々と追っているなかで、社会と物語が自然に動き出す瞬間が表現されている」と分析。「お客さんが解釈する余地を残した映画になっているので、それぞれの感じ方をしてくれたのではないか。映画の力を感じさせる映画が完成した」と話していた。
帰国後、仲代に受賞の報告をしたといい「おうちにご挨拶に行きまして。仲代さん、玄関で拍手してくれました。仲代さんは『切腹』などでカンヌに参加していますが、『俺は、(賞を)もらえなかった』とおっしゃっていて。本当に喜んでもらいました」と満面の笑み。お土産にシャンパンを受け取ったことも明かした。
今年のカンヌ国際映画祭では、役所の受賞に加えて、是枝裕和監督の「怪物」が脚本賞はじめ2冠に輝くなど、例年以上に日本映画が脚光を浴びた。「是枝監督や、二ノ宮監督(「逃げきれた夢」の二ノ宮隆太郎監督)にもお会いした。国際映画祭で、日本の映画人と会えるのは、やはり誇らしい気持ちになりますね」と語った。
一方で、「商業的な成功も大切ですが、そればかり追いかけると、日本映画はやせていく。企画と人材を育成しないと、映画界自体が豊かにも、個性的にもならない」と警鐘を鳴らす場面も。自由な発想から生まれた「PERFECT DAYS」(原題)を引き合いに、「こうした映画作りは、日本映画にもいい例になるのかなと。自由に思いのままに撮れる場もあると、優秀な日本の監督、脚本家たちも力を発揮できるんじゃないかなと思う」と日本映画界への提言を示した。
今後の目標を問われると、「そうですね、67歳にもなりまして、そんなにたくさんの作品には参加できないと思いますが、ひとつひとつの作品に、命をかけて……。大げさかもしれませんが、これまで影響を与えてくれた尊敬する監督たちへの恩返しもしたいですし」と神妙な面持ち。「日本映画界には、すばらしい先輩がたくさんいらっしゃるので、そういう時代に少しでも戻れるように、映画界に貢献できれば」と決意を新たにしていた。
会見には、平山と奇妙なつながりを持つホームレス役の田中泯が同席し、「セリフはなくて、台本にも『いる』としか書いていない。ベンダースさんからも『踊ってほしい』という話でしたし、作品の“魂”の部分を任されたのかなと」と役どころを説明。「アート映画と紹介されるかもしれないが、この映画こそが普通の映画だと、人々に受け止めてもらいたい」とアピールしていた。
ベンダース監督が2020年から東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的に活躍する16名の建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同し、日本の公共トイレのなかに“small sanctuaries of peace and dignity(平穏と高貴さをあわせもった、ささやかで神聖な場所)”を見出し、役所が演じる主人公のトイレ清掃員の男、平山の日々の小さな揺らぎを丁寧に追った物語。カンヌでは、最優秀男優賞に加えて、キリスト教の団体が選出するエキュメニカル賞を受賞した。日本配給、公開は現時点で未定。
東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山(役所広司)。彼は淡々と過ぎていく日々に満足している。毎日を同じように繰り返しているように見えるが、彼にとってはそうではなかった。毎日はつねに新鮮な小さな歓びに満ちていた。まるで風に揺れる木のような人生である。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読み耽るのが、歓びである。いつも持ち歩く小さなフィルムのカメラで木々を撮る。彼は木が好きだった。自分を重ねているのかもしれない。あるとき彼は、思いがけない再会をする。それが彼の過去に少しずつ光をあてていく。
フォトギャラリー
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。