【「ウーマン・トーキング 私たちの選択」評論】言葉を交わし合うことの力。サラ・ポーリー監督の率直さ、公正さ、真摯さが輝く
2023年6月4日 20:00

サラ・ポーリーといえば「スウィート ヒアアフター」などの繊細な演技が想起されもするけれど、オールド・ファンにはテリー・ギリアムの「バロン」、そこでほら男爵の相棒役を務めていたかわいい姿がまずは浮かんだりもする。撮影当時9歳。“マッドな天才”の危険も顧みぬ演出の下、心身共に傷ついた――と、昨年、上梓されたエッセー集“Run Towards the Danger”でポーリーは振り返っている。同書で10代半ばに被った性的被害についても記している彼女は、告発した女性たちをしり目に、沈黙を守ってきた自分が今、漸く“そのこと”を言葉にし得て「ほっとした」、けれども「些か遅すぎたのでは、との罪悪感が今後もつきまとうだろう」とニューヨーク・タイムズ紙(22年2月17日)のインタビューで明かしている。
そんな発言にも見て取れるポーリーという人の率直さ、公正さ。10年ぶりの監督第4作「ウーマン・トーキング」を裏打ちするのも彼女のそうした真摯な資質と姿勢、そうして言葉にすること、物語ることによって人はなんとか傷を乗りこえ前に進めるだろうというまっすぐな信念だ。
ミリアム・トウズの小説に基づく映画には実際、共同体の蝕まれた日々に活路を探る女たちの言葉、言葉、言葉が生々しく息づいている。胸にわだかまる怒りを痛みを悲しみを言葉にし、物語ることで彼女たちは男たちの性的暴虐と向き合い、何をなすべきか、限られた時間の中で出し難い答えを出そうとする。
緊密な納屋での会話劇。その閉塞的時空からふっと翼を延ばすようにポーリーは映画を自然の中へ、光の中へと飛び立たせることもしてみせる。この世離れした宗教コミュニティの直面する問題が、世界の今と無縁ではないのだとリマインドするようにやってくる車(サイドミラーに映る運転手の顔が製作総指揮ブラッド・ピットに見えたのは錯覚か?)。そこで流れる「デイドリーム・ビリーバー」。その調べが決断の朝、未来をめざす女たちの行列を切り取る幕切れ後、繰り返される。葬送と縁深い聖歌「主よみもとに近づかん」もまた反復される。そうやって映画は安易に光を見出すことに自戒をこめる。一抹の不安を残す。黒味の背後の微かな雷鳴。雨音。そうして再び鳥のさえずりがやってくる。開幕の時、目覚めの朝と同じそのさえずりを耳にして、団結と希望の旅立ちはまだ夢の中、幻だったのか――と、ポーリーが周到に置いた問いが想われる。次の世代に希望を託したその後にそんな厳しい疑問符をも置いて、それでも言葉を交わし合うことの力を信じている。監督ポーリーの率直さ、公正さ、真摯さが改めてそこに輝いてはいないだろうか。
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