第76回カンヌ国際映画祭開幕 「お利口に振る舞うのは退屈」審査委員長リューベン・オストルンド、審査員の率直な意見交換を宣言
2023年5月17日 13:00
第76回、カンヌ国際映画祭が現地時間の5月16日に開幕した。
今年は開幕前から、フランス国内では不協和音が起こっていた。コンペティションのカトリーヌ・コルシニ監督の作品が、#MeTooがらみの噂で一旦保留になった後に復活したことは、パリ・コラムの枠ですでに取り上げたが、ジョニー・デップがルイ15世に扮したマイウェン監督のオープニング作品、「Jeanne du Barry」(アウト・オブ・コンペティション)について、一部のフェミニストからデップの起用に関して批判の声が上がったこともある。さらに開幕直前にフランスの女優アデル・エネル(「燃ゆる女の肖像」)が、マスコミに宛てた公開レターでカンヌについて、「レイピスト(過去に登場したロマン・ポランスキーやジェラール・ドパルデューを指して)を擁護する映画祭」と、糾弾したためだ。
だが、米ヴァラエティの取材に応じたディレクターのティエリー・フレモーは、これを事実に反する過激な意見と退け、デップに関しても、法廷で勝訴しているとして擁護した。蓋を開けてみればカンヌのクロワゼット通りには大勢のデップ・ファンが詰めかけ、審査員たちによる記者会見も滞りなく終了した。
今年の審査委員長は、昨年「逆転のトライアングル」で2度目のパルムドールを受賞したリューベン・オストルンド。彼を取り巻く審査員メンバーは、「TITANE チタン」でパルムドールを受賞したジュリア・デュクルノー、ポール・ダノ、ブリー・ラーソン、ドゥニ・メノーシェら計9名。オストルンドは記者会見で、いかにも彼らしい口調で、「お利口に振る舞うのは退屈。愚かであることを恐れず、思ったことを口にするべきだ。審査員全員が率直な意見を交わしあうべきで、誰一人として椅子に寄りかかって、ふむふむと人の意見を聞いているだけでは許されない。ある程度授賞の規定はあるものの、何か新しいことをやろうとすることも大切だと思う」と宣言した。
21作品が並んだコンぺティションの面子は、ケン・ローチ、アキ・カウリスマキ、マルコ・ベロッキオ、ナンニ・モレッティ、ビム・ベンダース、ウェス・アンダーソン、是枝裕和、トッド・ヘインズといった常連組から、カンヌの新しいお気に入りであるジェシカ・ハウスナーとアリーチェ・ロルバケル、コンペ初登場のワン・ビン、トラン・アン・ユン、カリム・アイヌズ、カンヌ初参加のジョナサン・グレイザー、カウテール・ベン・ハニア、ラマタ=トゥライェ・シーら。
傾向としては、やはりベテランのカムバックが目立つ。その分、ある視点部門では長編1作目の新人が目につくが、最近できたカンヌ・プレミア部門では、ビクトル・エリセ、北野武、マルタン・プロボらベテランがいる。さらにコンペティション外では、レオナルド・ディカプリオと再タッグを組んだマーティン・スコセッシの新作「Killers of the Flower Moon」、「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」、ロバート・ロドリゲスの「Hypnotic」(ミッドナイト)、ピクサーのクロージング作品「マイ・エレメント」など話題作が並ぶ他、監督週間部門にはクエンティン・タランティーノもサプライズ上映で登場する。
また開幕式では、マイケル・ダグラスに栄誉パルムドールが授与されるなど、全体的にアメリカ勢の存在も強い。
受賞結果は5月27日のセレモニーで発表される。ひと癖もふた癖もあるオストルンド率いる審査員団だけに、今年は何か予想外のことが起こるかもしれない。(佐藤久理子)
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