【「それでも私は生きていく」評論】生きるとは愛すること。そう堂々と主張する王道のフランス映画
2023年5月6日 18:00

フランスの高齢化問題を扱った映画が目立つようになったのは、老々介護を題材にした「愛、アムール」(2012)のころからだろう。「母の身終い」や「92歳のパリジェンヌ」、「すべてうまくいきますように」は、安楽死を選択する高齢者と家族の葛藤を描き、フランスの戯曲を元にした「ファーザー」は介護者と被介護者の両方の視点から認知症を描いている。
「それでも私は生きていく」の主人公サンドラ(レア・セドゥ)の場合は、認知症が進み自立生活が営めなくなった父の介護問題に直面する。哲学教師だった父ゲオルグ(パスカル・グイレゴリー)は、パリのアパルトマンで一人暮らし。恋人がいるが、持病があって同居は難しい。選択肢は介護施設のみだが、市内の施設は料金がバカ高く、公営ホームは待機者が多くて入れない。この状況は、二十万人以上が特養の入所待ちをしている日本とそっくりだ。さらに、急場しのぎで病院に入ったゲオルグが早々に退院を迫られるエピソードは、高齢者が90日以内の退院を強いられる日本の実情と重なる。
とはいえ、こうした介護の現実を訴えることが、この映画の本質ではない。変わりゆく父をみつめるサンドラを通して投げかけられるのは、「生きるとは何か」というテーマだ。それがよくわかるのは、サンドラが父のブックコレクションを整理する場面。「本人よりも本を見る方がパパを感じる。施設にいる人より書棚の方がパパらしいから」と、自分の娘に語りかけるサンドラ。彼女は、知性の塊のようだったゲオルグの中から彼らしさが失われつつあることに、喪に近い感情を抱いている。「施設にいる人」は確かに存在しているが、サンドラの知る父はそこにいない。生者と接しながら喪失感を抱くことの切なさを、ミア・ハンセン=ラブ監督は、サンドラの感情の揺れを通して観客に体感させる。
同時に、ハンセン=ラブ監督は、「それでもゲオルグは生きている」ことを強烈に印象づける。ゲオルグの生の証は、恋人に寄せる煩悩に近い愛だ。恋人の面会を心待ちにし、姿を求めて施設の廊下を徘徊するゲオルグは、みっともないほど愛に突き動かされている。それは、妻子ある男性との恋にのめりこむサンドラも同じだ。生きるとは愛すること。そう堂々と主張するこの映画は、まさにフランス映画の王道を行っている。
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