【世界の映画館めぐり】新潟県上越市・高田世界館 レトロな明治の洋館でロマンあふれる鑑賞体験
2023年4月30日 10:00
感染対策の規制の多くが撤廃され、今年は旅がしやすくなりました。映画.comスタッフが訪れた日本&世界各地の映画館や上映施設を紹介する「世界の映画館めぐり」。今回は新潟県上越市の高田世界館におじゃましました!
3月後半に開催された 第1回新潟国際アニメーション映画祭の取材を担当した筆者、初めての新潟出張(訪問)が決まってから、以前から気になっていた高田世界館に足を運びたいな、帰りに立ち寄れたらいいなあ、と気軽に考えていたのですが、ルートを検索すると、最寄りの高田駅は新潟駅から143キロ、私鉄に乗り換えの各駅列車でも、また乗り換えなしの特急を使っても片道約2時間かかります。はい、新潟県の広さをなめていましたね。
当日はちょっとした小旅行気分で早起きして新潟市から上越市へ。車窓から日本有数の米どころである新潟の田園風景を楽しめます。数日間アニメとPC漬けだった私の目は、早春の北国の景色に癒されました。次に買う米は、奮発してコシヒカリを選びたいと思います。ちなみに東京から上越市は長野経由の方が近そうです。
高田は徳川家康の六男、松平忠輝公の居城だった高田城があった城下町で、現在も古い町並みを残しています。高田世界館のある旧市街は、道沿いの木造の建物それぞれに設置された、雁木という冬の大雪時に導線を確保するための長い庇(ひさし)が続いており、独特の雰囲気を醸しだしています。季節のお花が飾られていたり、ちょっと腰かけられるベンチがあったり……住民のみなさんがこの美しい町並みを大事にしているのが感じられ、統一感ある軒下を歩くと、まるで時代劇の世界にタイムスリップしたかのような気分に。
映画のセットのような風景を楽しみながら、到着したお目当ての高田世界館。入り口には古い映写機のディスプレイがあり、テンションが上がります。1日3作品の入れ替え上映で、この日は「RRR」「バニシング・ポイント」「ケイコ 目を澄ませて」と、時間が許せば全作見たい傑作揃いのラインナップ。私はアメリカン・ニューシネマの異色作「バニシング・ポイント」を鑑賞しました。
高田世界館は、1911年 (明治44年) に芝居小屋として開業し、1916年 (大正5年) に常設映画館としての営業がスタート、現在は国の登録有形文化財や近代化産業遺産に指定されている日本最古級の映画館です。歴史的変遷と、取り壊しの危機を乗り越え、市民や映画ファンによる保存活動が始まり、2009年からはNPO法人「街なか映画館再生委員会」が運営しています。その沿革と歴史は 公式HPに記載されていますので、ここでは割愛しますが、是非ご確認ください。
上映時間10分ほど前に入場。エントランス入り口を開けると、すぐに券売所があります。今回、この記事のために写真を撮りたかったので、支配人の上野迪音さんにご対応いただきました。映画を見る時間がなくても、上映時間外に入場料500円で建物見学が可能だそうです。
入り口を開けた瞬間に、こういう場所って、映画やドラマの中だけじゃなかったの? と言いたくなるような異空間が広がります。筆者も昭和終盤生まれのレトロな人間ですが、この劇場の歴史が自分の亡き祖父母以上なのでこれ以上適切な語彙が思いつきません、すみません。どうぞこちらの写真でお楽しみください。
筆者が入場したタイミングに、「RRR」を鑑賞していたカップルが興奮気味に出てきて感想を語り合っていました。都会のシネコンのIMAX上映ももちろん素晴らしいものですが、映画に出てくるような映画館で見る、世界的大ヒットインド映画って最高じゃないですか? 映画鑑賞は体験なんだなあ……と改めて感じました。
上野さんのご好意で、映写室も見学しました。1950年代に製造されたという古い機材を目の当たりにすると、100年以上前から映画を愛する技師さんが、ここで働いていたんだなあ、と思うと胸がいっぱいです。現在、通常営業時はDCP上映とのことですが、時々フィルム上映の実施もあるのだとか! 頭の中に「ニュー・シネマ・パラダイス」のテーマが響きます。
スタッフや市民のみなさんの手で、さまざまな改修が施されたという館内は、目を引く赤い椅子、2階からの眺望、木組みの天井など、建物そのものに見どころがいっぱい。2012年公開の映画「シグナル 月曜日のルカ」のロケ地にもなったそうです。1階にはストーブがあり、一面真っ白な雪の日に、こんな映画館で1日過ごすことができたらいいなあと、再訪時の期待が膨らみます。
この日は2階席から鑑賞しました。やはり、建物が変わると以前観たことのある映画でもちょっと特別な気分です。「バニシング・ポイント」のラストも知っていましたが、あの疾走感とかっこいい音楽、流れるように変わっていくアメリカの風景……今自分がどの時代のどこにいるのかわからなくなる感覚を楽しみました。
1階、2階合わせて180席。こちらでは、インド映画のマサラ上映や、その他作品でも座談会やトークなど、各種イベントも行われており、劇場貸出しもしています。ある時は異国風、ある時はレトロな日本と、作品ごとに異なる雰囲気を感じられそうです。入り口付近に設けられた物販や作品紹介コーナーも、スタッフさんの映画愛を感じるディスプレイでした。
お隣にある喫茶店「世界のトナリ」にも立ち寄り、美味しいコーヒーとケーキをいただきました。こちらの内装も、映画館に合わせたようにレトロでゆっくりとした時間が流れます。コンセント完備なのがうれしい。今度は1泊+αで、高田城址公園や小川未明文学館めぐりなど、散策と映画とセットで楽しみたいですし、これから訪れる方にも、高田の町ごと楽しむプランをおすすめしたいです。
「世界の映画館めぐり」新潟編、実は続きがあります。次回はなんと佐渡。高田訪問の翌日に佐渡島に渡りました。日本最大の離島、佐渡にはどんな施設があるのでしょうか? 近日公開です、お楽しみに!
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