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【「生きる LIVING」評論】カズオ・イシグロは、脚本家としても一流だった

2023年4月1日 22:00

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「生きる LIVING」
「生きる LIVING」
(C)Number 9 Films Living Limited

黒澤明橋本忍小国英雄の共同脚本によって生み出された、黒澤明監督の「生きる」(1952)は代わりを必要としない作品である。それは、日本国内は勿論のことながら、海外で実施された歴代映画ランキングにおいても上位にランクインしてきたという、これまでの確固たる国際的な評価が存在するからだ。そのことを裏付けるかのように、ハリウッドでは幾度となくリメイクの企画が噂された末に、頓挫を重ねてきたといういきさつもある。一方で、松本人志主演のドラマ「伝説の教師」第8話では、余命を悟った人物を、役所の職員から高校生に置き換え、「生きる」にオマージュを捧げながら、見事な再構築が実践されていたという例もある。この時、志村喬が歌った「ゴンドラの唄」を、ブランコに揺られながら口ずさんでいたのは、黒澤明監督の孫にあたる黒澤優だった。つまり、再映像化に際しては、少なくとも斯様な敬意が必要なのだと思わせるのである。

オリヴァー・ハーマナス監督による「生きる LIVING」(2022)の物語は、「生きる」の舞台とほぼ同時期にあたる1953年に設定。「生きる」が公開当時の“現代”を描いた作品だったとすれば、「生きる LIVING」は“過去”を描く作品だという大きな違いがある。歳月を経た2020年代から1950年代を俯瞰することによって、「あの時代から社会は何も変わっていないのではないか?」と、官僚主義に対する悪しき普遍性を感じさせている。それゆえ今作は、変わらない現実に対して、観客が悲憤するような作品になっている点が重要なのである。脚本はノーベル賞作家であるカズオ・イシグロが担当。基本的には「生きる」の脚本を翻案しているのだが、上映時間が「生きる」よりも40分も短い。それにも関わらず、映画の中盤以降で主人公が癌で亡くなるという構成を踏襲させながらも、物語の印象がほとんど変わらないのである。そもそも、映画の舞台が日本からイギリスに移っているだけに見事だと言える。

細かい変更点はある。例えば、アレックス・シャープ演じる若い役人の役割に重きが置かれていることや、エイミー・ルー・ウッド演じる若い同僚がクレーンゲームで獲得する兎のおもちゃの出所。時にモチーフなどを変更しながらも、物語の転機が変わらないという秀逸な省略を実践しているのだ。カズオ・イシグロは、既に「上海の伯爵夫人」(05)などで脚本を手掛けてきたという経緯がある。加えて、「わたしを離さないで」(10)など自身の小説が映画化されてきたという経緯もある。彼が一流の作家であるだけでなく、脚本家としても一流であることは、本作が第95回アカデミー賞で脚色賞の候補となった点にも表れている。

もうひとつ、秀逸な変更がある。カズオ・イシグロはスコットランド民謡の「The Rowan Tree」=「ナナカマドの木」を、先述の「ゴンドラの唄」の代わりに採用しているのだ。これは、日本語の歌を英語の歌に代えたという単純な変更ではない。「ゴンドラの唄」が自身の余命を歌詞に投影させていたのに対して、「ナナカマドの木」は今際を覚悟することで、自身の故郷や親族などに想いを馳せているという違いがあるのだ。この変更によって、主人公が人生を振り返ることをより際立たせている。思い返せば、小説「わたしを離さないで」では回想形式で余命のあり方を描き「人生の最後をどう迎えるのか?」という命題を提示していた。また、映画化もされた小説「日の名残り」では、老境の執事が「あの時、ああしていれば」と戻せない時間に対する悔恨を綴っていた。回想と悔恨、そして限られた時間の命。奇しくもカズオ・イシグロの小説には、「生きる」との親和性があったというわけなのだ。

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