最恐ホラー「呪詛」はどう生まれた? ケビン・コー監督が徹底解説 製作時の“怪現象”も明かす【独占インタビュー】
2023年3月18日 12:00
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ホーホッシオンイー シーセンウーマ
この言葉をご存じだろうか? 「台湾史上最も怖い」と称された台湾ホラー映画に登場する呪文である。
タイトルは「呪詛」(Netflixで独占配信中)。日本でも観たことを後悔するかのような感想がSNSを賑わせていた。
ファウンドフッテージの手法を盛り込みながら描くのは、恐ろしい呪いから娘・ドゥオドゥオを守ろうとする母親・ルオナンの運命。台湾では2022年の映画興収No.1大ヒットを記録し、台湾映画史上興収No.1のオリジナルホラー映画となった。Netflixでの世界配信開始後、数日の間に全世界の非英語映画ランキングトップ10入り。日本でもNetflixランキング1位を獲得している。
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本作を創出したのは、台湾出身のケビン・コー監督(柯孟融)。ケビン監督は「日本のファンに感謝を伝えたい」という思いから、都内で行われた特別上映会(2月28日開催)に出席。映画.comは、イベント直前、国内メディア初となる単独取材を敢行した。
取材場所となったのは、住所非公開となっているお化け屋敷「凶遡 咽び家(きょうそ むせびや)」。ケビン監督は自らのキャリアや「呪詛」の成り立ちだけでなく、次回作の方針についても明かしてくれた。(取材・文/映画.com編集部 岡田寛司)
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1983年生まれ、現在39歳のケビン監督。どのような経緯で映画業界に入ることになったのだろうか。
「実は学生時代、マスコミュニケーションを専攻していました。その頃から映像を撮っていて、ホラーがとても好きだったんです。当時、DVビデオカメラを使って、短編作品を撮りました。タイトルは『鬼印』(2004年)。自分で出演も兼ねていて、完成した作品をネットにアップしたんです。YouTubeもない時代でしたから、別の映像共有サイトにあげました。そこから『鬼印』に注目が集まり、監督の道に進むことになったんです」
その頃は「台湾国内において、“台湾映画がビジネスにならない”時代」だったそうだが、同時に「若い監督に作品を撮らせてみようという流れがあった」とのこと。
「当時は『僕の恋、彼の秘密』(原題:17歳的天空/監督:D・J・チェン)がヒットしていて、それまでになかったような『若い監督にチャンスを与えよう』という流れが生じました。自分の短編も同じタイミングで話題になったので、監督になる機会に恵まれたんだと思います」
ところが、すぐに監督の道を歩み始められたかといえば、そう上手くはいかなかった。
「『鬼印』を撮ったのは、大学1年生の頃。映画会社の方に興味を持ってもらい、さまざまなビジネスの話をしにきてくれたのですが……おそらく、その時は『まだまだ“子ども”だな』と思ったんでしょうね(笑)。まずは、予告編の編集などを担当することになったんです。ちなみに『クイール』『嫌われ松子の一生』『花とアリス』の台湾版予告を作ったのは、私なんですよ。そのような経験を経て、さまざまな分野で仕事をもらうようになりました。監督としての仕事をもらえるようになったのは、大学を卒業した頃でした」
大学卒業後、「絶命派対(原題)」で長編デビュー。その後、多くのCMやMVを手掛けつつ、18年に「脱単告急(原題)」、20年にはピーター・チーとの共同監督作として「ハクション!」を発表している。
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幼少期から“怖いもの”が好きだったというケビン監督。
「今でも憶えていますが、ハロウィンにまつわるものが好きでした。ハロウィンの時期は、おもちゃ屋さんに行くと、人をびっくりさせるようなおもちゃがあったり――そういうものが小さい頃から好きだったんです。家にもお化けにまつわる物語の本がいっぱいあって、それをずっと読んでいましたね。怖くてひとりで眠れなくなってしまうこともありました。ですから、中学1年生の頃までは、両親と一緒に寝ていたんです(笑)」
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子どもの頃は「とても内向的な性格」だった。
「友達と気軽に話したり、打ち解けることができなくて……でも仲間に入りたいという思いはあったんです。だからこそ、ずっと周囲を観察しているような子どもでしたね。どのようなことをすれば、どういう反応を示すのか。そんなことを常に観察しながら、感じとっているような子どもでした。改めて振り返ってみると、恐らくその経験は、自分がホラーを作る際の大事な養分になって残っているのだなと思っています。人の反応を引き出すために、何をすればいいのか。それをセンシティブに感じとる。そういったことを小さい頃に養っていたんです」
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では、ここから「呪詛」の話に入っていこう。同作は、2005年2月、台湾・高雄市鼓山区に住む家族に起こった“怪事件”からインスパイアを受けている。あまりにも複雑怪奇であるため、ここでは割愛するが、調べれば調べるほどおぞましく、そして謎めいた事件である。まずは同事件と作品の関わりについて尋ねてみた。
「当初『呪詛』は短編で作ろうとしていました。まず初めに考えたのは『見た後、必ず呪いにかかってしまう』というもの。そして『怖くて見たくない。しかし、見ずにはいられない。それでも見ることができない』といった中毒性がある作品にしようと思っていました。こういう作品を作るためには、どういうものを参考にしたらよいのか。そんなことを考えながら、新聞記事などで、実在の事件を探り始めました。その時、高雄(台湾・高雄市)で起こった事件を知りました」
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事件のニュースに触れた際、芽生えたのは「これ以上追求したくない」という感覚だった。
「台湾人であれば、同じような感覚を抱くと思います。私は題材を探し続ける映画人です。そんな仕事をしているにもかかわらず『これ以上深入りしてはいけない』と思ってしまう。この感覚こそが、求めていた中毒性のポイントだなと思いました。ですから『呪詛』には、この感覚といくつかの要素を取り入れようとしました。映画をご覧になってみればわかるのですが、実際の事件とはそこまで似ている部分はありません。あくまで、深入りしたくないという感覚、それを生んだ要素の一部(宗教、神の存在)をオマージュとして取り入れています。実際の事件はあまりにもシリアスすぎて、そのまま使うことはできなかったんです」
「呪詛」の特徴としてあげられるのは、ファウンドフッテージ。いわゆる“フェイク・ドキュメンタリー”の手法を貫いているという点だ。
「最も重視したかったのは、観客がきちんと物語の世界観に入り込めること。そして、一方通行ではない、双方向での交流ができるようにしたかったんです。つまり、本作を観た時に、観客はリアルに感じる。想像を実体験として感じとることができる映画体験を目指しました。特に重要な要素となっているのが、呪いが拡散していく“呪いの手紙”のようなもの。POV(ポイント・オブ・ビュー=主観視点)でやらなければ、そのリアルさが伝わらないと考えました。リアルと想像がミックスされ、何が本当のことかわからなくなる……そういうものを表現したかったのです」
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もともとは、携帯(=スマホ)だけで撮影した作品にする予定だった。
「実際に携帯で撮って、画質も音も悪いような……そういう形で物語を表現しようと考えたのですが、色々な方が出資してくれることになった時『そのやり方ではダメではないか?』という結論に至りました。『フェイク・ドキュメンタリーやPOVではない方式でやってみるのはどうだろう?』という意見も出ましたが、最後には自分のやりたい事を貫きました。そのうえで、どうすれば観客が見やすくなるか、理解しやすいかという、商業映画としての観点も模索することになりました。ご覧になっていただくとわかると思いますが、劇中にはPOVではない映像も含まれています。ただ、そのような“別視点”の映像は、2シーンしか入れていません」
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異彩を放つシーンの意図について尋ねてみることにした。それはドゥオドゥオに不気味な手が伸びてくるという場面。ここでは、映像を繰り返す「リプレイ」が採用されている。いわゆる「おわかりいただけただろうか……」である。
ケビン監督が口にしたのは、TBS系列で放送され、心霊現象や都市伝説などを扱ったバラエティ番組「USO!?ジャパン」。
「そういった類の番組をたくさん見ているんです。奇妙な箇所をリプレイする。それを表現したいと思い、本作で採用することにしました」
話題は、本作で描かれる「宗教」について。「登場する宗教は創作したもの」としたうえで、秘話を語ってくれた。
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劇中で信仰の対象となっているのは「大黒仏母」。現在のビジュアルとなるまでには、紆余曲折があったようだ。
「本作は、まず最初にさまざまなコンセプトがあり、そこから物語を作り上げていったという製作過程となっています。実は当初、母娘のストーリーではありませんでした。ですから、その際の『大黒仏母』は、女性ではありません。そこから母娘の話に決まったことで、『大黒仏母』に、妊娠をしている母親のイメージを重ね合わせることにしました。おびただしい数の文字が書かれていますが、これもかなり後半になってから設計したものです。話の流れに沿って、ビジュアルを創り上げていった形になります」
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恐怖を感じていたのは、観客だけではない。撮影に参加したスタッフも――。
「インターンとして参加していた若いスタッフが、台本を読んでから参加してくれたのですが、帰宅後、頭が痛くなってしまったそうです。その状況をご両親が心配されて『次は行かせません』と……。それくらい怖がっていました」
ホラー映画の撮影には、実際の怪奇現象がつきものだ。本作でも理解しがたい出来事が生じたらしい。
「撮影が終わって、音響効果を仕上げているタイミングのことです。タイのサウンドスタジオで音楽をミックスしていました。エンディング楽曲は女性が歌っているのですが、そこに自分たちが入れた覚えのない男性の声が入っていました。その声は最終的にはカットしています。怖いものは好きなのですが『本当に恐ろしい現象が起こっているのか?』という“信じていない気持ち”というものもあるんですよね。本当に怖い出来事なのか、それともただの機械の故障だったのか……。例えば台本を書いている時のこと。何も操作していないのに、画面上に文字がずっと打ち込まれていました。『マウスでも壊れたのかな?』と思いましたが、もしかしたら……と。そういう小さな出来事はたくさんありました」
上記の発言に付随して、ひとつだけ記述しておこう。今回のインタビュー音源を聴き直してみると、ところどころに奇妙なノイズが生じていた。そして、とある箇所では、まったく聞き覚えのない“呻き声”が録音されていたのだ。ボイスレコーダーの故障か、それとも……。
ケビン監督は、大のJホラー好きでもある。最も好きな映画は「着信アリ」。そして、特別上映の舞台挨拶でも明かしていたが「翻訳された『2ちゃんねる』のホラースレを読むのが大好き」だそうで「特に就寝前に読むのが好き」とのこと。
とりわけ大ファンだというのが、ホラー漫画家・伊藤潤二の作品群だ。なかでも「合鏡谷にて」がお気に入り。「呪詛」の劇中に登場する“絶対に入ってはいけない地下道”に置かれている多数の鏡は、「合鏡谷にて」へのオマージュなのである。
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「呪詛」は、台湾公開後、Netflixで世界中に広まった。これは劇中の展開にも関わることだが、それによって恐怖(と呪い)が一層拡散されたように思える。Netflixでの配信は「コロナが大きな原因でした」と振り返る。
「世界中の劇場が大変な状況に陥っていました。もともとは一般的な映画と同じように、世界中の劇場でかけたいという思いがあったんです。ところが、コロナ禍を経て、観客と映画、観客と映画館の関係が大きく変わりました。それと同時に、家での視聴環境を整える、つまりテレビを大きくする人、スピーカーを買いそろえる人がいたりと、本当にさまざまなことが変化しました。ちょうどチャンスがあり、Netflixに提供することになったのですが、結果的に、皆さんが家で見ることの恐怖を感じてくれたのだなと思っています。これは自分も想像していなかった点。スマホの画面で観る。タブレットで観る――“劇場で観る”怖さの性質とは、異なったものが生まれたのかもしれません」
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では、気鋭のホラー監督が“最も恐怖を感じたこと”とはなんなのだろうか。
「人生において最も恐怖を感じたこと……2つあるんです。1つ目は、昨年父が病気になってしまったこと。これは未だに自分の中できちんと消化することができていません」
2つ目は、愛犬Black Noseにまつわること(なお「呪詛」エンドクレジットの冒頭に「この作品を我が家の天使に捧げる(In Memory of Black Nose)」という一文が挿入されている)。
「(Black Noseは)亡くなる3カ月位前からずっと病気でした。だんだん弱っていく姿を前にしながらも、どうすればいいのかわからなかった。何もできない。どうしたらいいのかわからない。でも、だんだんと衰弱していく。次第に命が消え去っていく様子が一番怖かったです。Black Noseと向き合った3カ月間の気持ちというものは『呪詛』にも取り入れています。つまり「ドゥオドゥオ=Black Nose」のようなイメージです。大切にしていたものを、絶対に失いたくない。でも“お別れ”を言わなければならない。そのような心情を映画に込めました」
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最後に聞きだしたのは、次回作の情報だ。「呪詛」の続編に着手するという噂も流れたが、真相はどうなのだろう。
「『呪詛』を撮り終えた後、次は“子どもにまつわる作品”を撮りたいと考えていました。ドゥオドゥオ役のホアン・シンティンに演じてもらい、『呪詛2』のような作品にする。当時はそう考えていました。ですが、その後色々考えを巡らせるうちに、とても良いコンセプトが見つかったんです。そのコンセプトは自分の中ではとても素晴らしいものだと思っていて、『呪詛』の内容を引き継ぐよりも、そのコンセプト単独で製作する方がいいのではないかと考えるようになりました。この作品に関しては、Jホラーの方とコラボレーションをしたいと思っています。具体的な手法は模索中ですが、次作の“呪い”に関しては、日本に由来があるものとしています。キーとなるのは“邪悪な神”。“呪い”というものは、そのような邪悪な存在が発生させるものです。『残穢(ざんえ) 住んではいけない部屋』でも、そのようなことが表現されていますよね。邪悪な神様によって生み出されたマイナスのエネルギーが鍵になってくるんです」
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