【「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」評論】マルチバース×カンフーの天馬行空な脳内“カオス”体験に感涙する
2023年3月5日 10:00

こんなにも“カオス”なアクション・エンターテインメント映画は見たことがない。昨今流行りのマルチバース(多元宇宙/平行宇宙)の設定でありながら、その発想や想像力、映画表現の可能性を広げた映像が今までになくぶっ飛んでおり、初めての体験、脳内スパーク(衝撃)を味わうことができるだろう。映画を見ながら自分が他の世界(別次元)へジャンプをしてしまわないように気をつけて欲しい。
本作のヒーローは、家族の問題やコインランドリーの赤字経営に頭を悩ます普通の中年女性であるのが画期的だ。そんな彼女が、全宇宙にカオス(混沌)をもたらす強大な悪を倒せる存在というのだから奇想天外な展開が待っている。しかも、生活に追われて疲れ果てていたその女性エヴリンを演じるのが、約30年前、ジャッキー・チェン主演の「ポリス・ストーリー3」(1993)で鮮烈なアクションを披露したミシェル・ヨーである。彼女が主演ということであれば期待が高まる人もいると思うが、マルチバースにカンフーアクションが掛け合わされる展開に、香港映画ファンならずとも歓喜しないわけにはいかない。
さらに、優しいだけで頼りにならないエヴリンの夫ウェイモンドを演じたのが、1980年代の大人気作「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」(1984)や「グーニーズ」(1985)で、天才子役として一世を風靡したキー・ホイ・クァンである。この2人の共演というだけで胸アツになる世代、映画ファンは多いはず。長い間俳優業から離れて助監督やアクション指導をしていたクァンが、本作で復帰を遂げたことは非常に感慨深い。中年になった彼が息をのむカンフーアクションを決める姿に、「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」でスクリーン内を飛び回っていた姿がオーバーラップし、それだけで目頭が熱くなる。
違う選択をしていれば今とは違う人生だったかもしれない、いま生きている世界の自分は本当の自分ではないのではないかなど、人生において、そんな思いが誰しも一度は頭をよぎったことがあるのではないだろうか。本作の監督・脚本を手掛けたのが、「スイス・アーミー・マン」(2016)で話題を集めたコンビのダニエルズ(ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート)。奇抜さだけでなく、本作が多くの人々の心をとらえているのは、バカバカしさとともに、21世紀の移民の物語を通して家族愛や、多様性を描いているからだ。そして、天馬行空のごとく主人公たちが多くの多元宇宙に行き来し過ぎるあまり哲学的な思想の探求にまで到達し、いま生きている世界の人生を見つめ直すことになる。
加えて、ダニエルズが影響を受けた多くのアジア映画や日本映画、SF映画へのオマージュも散りばめられている。別次元のエヴリンとウェイモンドは、ウォン・カーウァイ監督の名作「花様年華」(2000)のマギー・チャンとトニー・レオンのようだ。ヨーも出演し、アジア系キャストをメインに描いたラブコメディ「クレイジーリッチ」(2018)がハリウッドで製作され、ヒットしたのに続き、本作が熱狂的に支持されたことは、映画史的にも非常に重要な意味を持つ。ヨーやクァンを知らなくても、脳内を刺激されながら、うっかり涙している自分に驚くことだろう。
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