「LGBTQという言葉がなくなるといい」 男性同士の恋愛描く「エゴイスト」にゲイ当事者は何を感じたか? 出演者に聞く
2023年3月1日 07:00
鑑賞した人はわかってもらえると思いますが、主人公・浩輔(演:鈴木亮平)が居酒屋で、ゲイの友人たちと飲み会を楽しむシーンが強く印象に残っていませんか? あるいは、その恋人・龍太(演:宮沢氷魚)が、多くの男性たちに“買われる”場面も……。
実のところ、上記シーンの鈴木亮平&宮沢氷魚以外のゲイ役キャストは、異性愛者の俳優ではなく当事者――つまりゲイの人々を起用しています。しかも、なかには両親にカミングアウトしていない人もいたのだそう。
映画に出ることは、すなわち自分が何万人もの目に品定めされることでもあります。それでもなお、彼らが出演を決断した理由はなんなのでしょうか? 「エゴイスト」がLGBTQコミュニティに与える影響とは? 出演した4人のゲイ当事者や、松永大司監督に対するインタビューを通じて意義深いテーマを浮き彫りに……とかいう社会派な記事にする腹づもりでしたが、いざ取材を終えて、記事を書き始めて、やめました。うまく言えないのですが、話を聞いていると、大事なところはなんかそういうことだけでもないな、と思ったからです。
では、彼らは何を語ったのか? ゲイ当事者キャストと松永監督へのインタビューは1時間30分におよびました。むちゃくちゃ面白かった。そして気づきや学びも多くあった。これは、私たち映画.comが変に結論づけず、ユーザーの皆様に“感じとってもらう”ほうがいいかも……というわけで。弊社では通常あり得ない“インタビューほぼ全文掲載”でお届けすることにしました。たっぷりとご堪能ください。(取材・文・構成/映画.com編集部・尾崎秋彦)
14歳の時に母を亡くした浩輔(鈴木亮平)は、田舎町でゲイである本当の自分を押し殺して思春期を過ごし、現在は東京でファッション誌の編集者として働きつつ自由気ままな生活を送っている。そんなある日、浩輔は母を支えながら暮らすパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)と出会う。浩輔と龍太はひかれ合い、時には龍太の母も交えて満ち足りた時間を過ごしていく。母に寄り添う龍太の姿に、自身の亡き母への思いを重ねる浩輔。しかし2人でドライブの約束をしていた日、龍太はなぜか現れず……。
松永大司監督:今作の監督。俳優として映画「ウォーターボーイズ」などに出演した後、映画監督に転身し、「ピュ~ぴる」「トイレのピエタ」「ハナレイ・ベイ」などを発表。役者の素質を引き出す手腕や演出術が特に高く評価されている。
ドリアン・ロロブリジーダ:主人公・浩輔の友人役で、居酒屋での飲み会や、ケーキ屋のシーンなどに出演。普段はドラァグクイーンとして活躍しているが、今作ではほぼノーメイクで登場している。原作者の高山真さんと仲がよかったため、出演オファーを快諾した。
ヨウ:同じく浩輔の友人役で、居酒屋での飲み会のシーンなどに出演。普段はダンスや舞台などの表現者として活躍しており、今作出演を「新しい挑戦になる」と感じ即決した。声がとてもいい。
コウタ:同じく浩輔の友人役で、居酒屋での飲み会や、ケーキ屋のシーンなどに出演。普段はバー勤務。劇中では「彼氏と婚姻届を書いた」など数々のエピソードを披露しているが、実体験をそのまま語っている。別れた元カレとまだ同棲中(2023年2月16日現在)。
ジュン: “売り専”(ゲイ向け風俗店のこと)で働く龍太(宮沢氷魚)を買う客役で出演。男性同士の絡みを披露し、今作における重要な役割を果たした。普段は自身が売り専として働いているが、ゲイであることを両親などにカミングアウトしていない。「売り専をリアルにできるのであれば」との思いで出演を決断した。
――私自身、本編を鑑賞して1週間ほど経ちます。鈴木亮平さんや宮沢氷魚さん、阿川佐和子さんのドラマが印象深い一方で、やっぱり思い出すのはゲイの飲み会のシーンだったり、ジュンさんと宮沢氷魚さんの絡みのシーンだったりします。
一同:ええ~!?
ドリアン:よくわからないんですよ、私たちが映画のなかでどう“効いているのか”が。だって演技してないんだから。あまりにも当事者すぎて、自分が映ると「イヤ! うるさい!」ってなる。
ヨウ:あんなに出てくるのに(笑)。
ドリアン:(鈴木亮平と共演した)居酒屋のシーンとか、エチュードとか本番、長かったよね!? 監督が「はい、とりあえずしゃべって~」って始まる。
――特に居酒屋のシーンは、本番はどれくらい長く撮影してたんですか?
ドリアン:4時間くらいやってなかった?
――もう普通の飲み会じゃないですか。
松永監督:本番は1回で25分くらい回しました。それを1日で4テイクくらいやっています。
――セリフは台本があったんでしょうか? それともアドリブですか?
松永監督:台本はほぼなくて、基本、自由にやってもらいましたね。ただ「説明ゼリフや、わかりやすいセリフは言わない」というルールだけつくりました。例えば最初の飲み会シーンで“浩輔は身体を鍛えないといけない”“誰かいい人を紹介してほしい”。それを直接的に説明せず、好き勝手話すなかで自然と導き出されるような会話を、亮平さんや当事者のみんなにお願いしていました。それ以外は自由で「はい、スタート」。
コウタ:めっっっちゃ自由でした。
ドリアン:緊張もしなかったね。ただ浩輔というゲイの友だちと、新宿三丁目とか二丁目とかで飲んでくっちゃべって、みたいな感じ。
松永監督:でも、これが本当に楽しかったんですよ。本当に。(面白い発言が)玉手箱のように出るわ、出るわ。シーンの口火を切る人は決まっていて、コウタなんですね。自分のエピソードを話してもらって、25分間本番を撮って、カット。で、コウタに「今言ったのと違うエピソードを話して」とお願いすると、次の本番でまた別の話をしてくれる。毎回毎回、違う“自分の話”。バリエーションがすごい。
ドリアン:しかもさらにすごいことに、全部の話が面白いんですよね。
松永監督:すごくないですか?
――シンプルにすごいです。
コウタ:なんか~その、今まで生きてきて、自分のそういう話をひけらかす場所がなかったんで、ひけらかすことが楽しくなっちゃって(笑)。なので、もうちょっとやってたかった。
ヨウ:もう何時間でもやってたかったよね。
松永監督:居酒屋のシーンのリハーサルをやってるときに、その場にいるスタッフ全員が、このシーンは絶対にいいものになる、と確信した。みんな(ゲイ当事者キャスト)がむちゃくちゃ面白かったし、能力を感じた。そもそも「自由にやってください」でやれるんですね、それがすごいなと。だからこそ、スタッフは自然と彼らをリスペクトができたんだと思います。
――当事者のみなさんが出演する場面はどれも印象的なんですが、今作のクランクインがコウタさんとドリアンさんと鈴木亮平さんの“ケーキを食べるシーン”だったと聞いています。あの自然な面白さがクランクインだったとは……!
松永監督:普通、プロの役者でも緊張するもんじゃないですか、クランクインって。それを、この人たちは、まあ~普通でしたよ。
一同:(笑)
ドリアン:特にこの人ね!(コウタを指さしながら)
松永監督:ほとんどアドリブですからね、ケーキのシーンのセリフ。
コウタ:でもなんか、「登った」って僕のセリフがありますが、あれも何個もパターン撮ってるんですよね。
ジュン:へ~、他のパターンもあったんだ。
コウタ:そう。そこで僕が何を言ったかは忘れちゃったんですが、自分のなかで「決まった!」と手応えがあったパターンもあって。でも、本編ではそれじゃない「登った」が使われてた(笑)。監督のなかでは、「登った」が決まったんだなって。
ドリアン:これはね、監督を目の前にしての批判です。文句です。
一同:(笑)
松永監督:撮影初日の、最初のシーンに撮って、やっぱりここでもスタッフは手応えを感じたと思うんですよね。実は今回のスタッフって、ほとんど全員が初タッグなんです。だからスタッフも「松永ってどう撮るんだ?」って不安だっただろうし、僕も不安なわけですよ。それであのケーキのシーンを撮って、コウタやドリアンがのびのびしているのをみて、スタッフみんな「この映画はいける」と感じたと思います。
一同:へえ~!
松永監督:だって、全然変わってないんですから、みなさん。
ドリアン:あ、「撮影初日の、カメラの前でも全然緊張してねえ~」って?
松永監督:そうそう。
コウタ:セックスの話ばっかりしてたよね。
ドリアン:してたよね~。
――4人が出演された経緯も四者四様です。製作陣として、ゲイ当事者のキャストにどのように接していましたか?
松永監督:まず、ゲイ当事者の方々に映画に出演してもらううえで、いちばん大切なことがありました。今作に出てもらうことは、すなわち周囲に自分がゲイだとカミングアウトすることになる。それは(LGBTQ+Inclusive Directorとして参加した)ミヤタ廉さんを通じて伝えてもらい、それでも出てくれる方に出演していただきました。
当事者のみんなの力がないと、作品は説得力や力強さに欠ける気がしました。例えば(男性同士のセックスシーンを演じた)ジュンがいなかったら、作品が成立していないんです。だからこそ、スタッフ、役者も含めて、みんなが当事者キャストに対してリスペクトをもっていました。「出演させてあげている」ではなく、「出演してもらっている」という。
ドリアン:確かに、「出してやってる感」はひとつもなかったですよね。
松永監督:でも、その意識を現場で徹底したわけではなく、(上述のリハーサルのように)自然と発生していたのが印象深いです。彼らはただのエキストラじゃなくて、映画に絶対に必要な存在だと、スタッフみんなが本能的に感じていた。だから絶対に邪険にしなかった。
ドリアン:製作開始の段階から、ゲイというものに丁寧に向き合っていただいているというのは、そこかしこから感じられました。例えば「ちょっとオカマちゃん呼んできて」みたいな現場はほかにたくさんあるだろうし、自分もエキストラとして雑に使われたこともあります。でも、この作品のスタッフのみなさんは、自分たちの話をちゃんと聞いてくれようとするし、だから自分たちも真摯に応えようとする、そんな現場でした。
――“必要不可欠”という意識やリスペクトで作品ができあがっていることが、スクリーン越しにもよく伝わる映画でした。ほかに印象深いシーンはありますか?
松永監督:ジュンくんが、宮沢氷魚演じる龍太を“買う”シーン。やっぱりあそこで当事者のジュンが出演していて救われたのは、一番は氷魚なんですよ。当事者たちの空気を知っている人が目の前にいて、Intimacy choreographer(インティマシー・コレオグラファー)のseigoさんもいる。そのシーンと対をなすように居酒屋のシーンがある。それぞれがゲイの世界であり、それぞれが説得力をもって描かれている。
(出演してくれたことは)感謝しかないですよね。簡単なことじゃない。怖くなる瞬間ってあると思うんですよ。だってカメラの向こう側、スクリーンの前にはいっぱい観客がいるんだから。役者はそういうときに、よく見せようと思って自意識が出てくる。……まあ、ここにいる人たちは“みんなよく見せたい”の塊なんですけど。
ドリアン:まあ~! ご挨拶だこと!
松永監督:(笑)。でも彼らは(ゲイであることで)常に社会の目と向き合っていると思うんです。友だちといるとき。働いているとき。普段から人の目を意識している気がします。劇中の浩輔がそうであったように。
ドリアン:監督の言う通り、家族の前とか、職場とか、普段から「よーいスタート!」がかかってるみたいなもんだからね。
松永監督:僕が前に撮った「トイレのピエタ」で、主演してもらった野田洋次郎(RADWIMPS)が似たようなことを言っていて。「僕は芝居が初めてだけど、ライブで何万人の前で歌う。多くの観客の前では、嘘は見抜かれることを知っている。だから僕は映画のカメラは怖くない」と。
芝居は初めてだけど、見られることに関しては、洋次郎はアドバンテージがあった。それはゲイ当事者のみんなも同じで、何かの目にさらされていることを意識してきたわけです。だから、僕らの現場で怖いものがないと思います。今回、僕は洋次郎の言葉を思い出していた。――本当のところ、どうかはわからないけど――自由にいて、明るく話してるみんなを見て、「今まで、いろいろと大変な思いをしてきた、だからそれが今この現場では強さとして発揮されているのだろうな」と思った。だからこそ、僕の映画に力を貸してくれて、本当にありがとうと思ってます。
ドリアン:あのときすすった泥水はムダじゃなかったのね。
松永監督:でも考えると、鈴木亮平と宮沢氷魚がすごかったのは、みんなと渡り合ってたことだよね。
ヨウ:そんな“強敵”みたいに(笑)。
松永監督:もっとキャリアとか経験がなかったら、みんなの自由さに飲み込まれてたかもしれない。
ドリアン:ちょっと慣れてないゲイの人が飲み会に来て、黙っちゃうみたいなことあるけど、それと似た話かも。
一同:あ~、あるある!
ドリアン:みんなしゃべるからね~。むちゃくちゃ早い大縄跳びみたいな。
――僕、この後テープ起こしするのが怖いです。一体何時間かかるんだ……(※インタビュー時間は約1時間30分でしたが、テープ起こしに6時間かかりました)。とはいえ、逆に言うと、変に演技に慣れちゃうと、この魅力は出なかったということでもありますよね。そう考えると、今しか撮れない映画だったんですね。
松永監督:ですね。「自分がこういうふうに映ってるんだ」と知ると、次は変な下心が出てくるかもしれない。
ドリアン:本当よ。だって私、ケーキのシーンで白目むいて食べてるのよ。本当にヤダ、あれ!
一同:(爆笑)
ドリアン:本当にヤダ! 「あは~ん、ほいひい(おいしい)」って白目むいてるの。本当に悔しい! 友だちから「ざまあみろ」って言われたわ。
ヨウ:次はドリアンさんの白目に注目して観ますね(笑)。
――共演の多かった鈴木亮平さんとはどう接していましたか? プレミア上映会の舞台挨拶では、鈴木さんは「何も知らない僕に、当事者の方々がいろいろ教えてくれた」と言っていましたが、どういったことを伝えたんでしょうか?
ドリアン:亮平さんと初めて会ったとき、「(原作者であり主人公のモデルである)高山真という人物を教えてほしい」とお願いされました。私は高山さんととても仲がよかったので。亮平さんは、本当に役柄や対象のリサーチを真摯にされる。「大河俳優です!」というのもまったくなくて、カメラの前でも後ろでも爽やかなナイスガイ。実際に撮影に入る前に、「ゲイの飲み会ってどんなもんだろう」を体験する飲み会もあって、来てくれたんですが、そこでもすごくフラットだったよね。
ヨウ:フラットどころか、下からへりくだってきてくれてる感すらありました。それが最初びっくりしました。話していて、みんな経験があると思うんですけど、僕らを腫れ物に触れる感じで、オブラートに丁重に丁重に包んで接する方もいるんですよね。それは気遣いとしては嬉しいんですけど、ちょっとこっちも気まずくなっちゃう。
でも亮平さんは違って、普通の人と人という丁寧さで接してくれたんです。最初に会ったときにすぐにわかった。ちょっと言葉を交わしただけで、普通に話すことができる、と思った。純度の高い目で僕らと向き合ってくれていた。だから僕たちも、普通に話せたんじゃないかなと思います。
コウタ:本当に観察力がすごいよね。最初に飲み会でお会いしたときと、リハーサルのときと、本番のときで、亮平さんの浩輔を演じる完成度がそれぞれの段階でぜんぜん違うんですよ。
ドリアン:リハーサルのときは、つくったゲイ感があったんだよね。口調だけ、みたいな。それが、本番では「いるいる! こういうゲイ!」に変わった。
コウタ:オネエっぽくなる瞬間を“ホゲる”とか、手だけオネエっぽくなるのを“手ホゲ”って言ったりするんですけど、それが、こういう人いる!ってくらいナチュラルにホゲるんですよ。
ジュン:あと観てるこっちも、「(彼らはリアルでも)普通に友だちなのかな?」って思ったよ。
コウタ:錯覚するくらい亮平さんがナチュラルなんですよ。本当にゲイの友だちといる感覚。で、完成した映画を初めて観させてもらったときに、久しぶりに亮平さんにお会いしたんですが、めっちゃ男で(笑)。あ、やっぱりゲイじゃなかったんだ……って。
一同:(笑)
コウタ:ゲイ要素が1ミリもなかったので、「……だよね!」ってなりました。
ドリアン:あたりめえだろ(笑)。
ジュン:スタジオの初顔合わせに行ったら、顔合わせの直後に、「この後、男性同士の絡みの流れを見せてもらいたい」と言われて。そこでスタッフさんと監督と、亮平さんと氷魚くんもいて、男性同士の絡みの流れを見せる、というところからスタートしました。
一同:へえ~!
松永監督:動きの確認をするためのリハーサルですね。
ジュン:その後の休憩で、亮平さんはずっとすごく真摯に質問してくださった。僕は何を答えたらいいんだろう?とちょっと戸惑いましたが、亮平さんに「僕が知らない世界を演じるので、どういう人がいるのかを知りたい」と言われて。
――その際に伝えたことで、亮平さんに“伝わった”と感じたことは、どんなものがありますか?
ジュン:例えば、ゲイとオカマとオネエは違います、と伝えたことですかね。ゲイは一般男性として社会で生きていて、女装する人もいます。その中間にオネエや、ビジネスオネエとして生きている人もいます、だとか。そういう点から言うと、亮平さんのゲイの演技はまったく大げさではないですよね。
ドリアン:そうだよね、カリカチュアライズしたゲイの演技……「やっだぁ~!」みたいな、ではないよね。でも、そもそも高山真さんは、本当にクセのあるエスプリの権化みたいな人間だったんですよ。だから高山真をそのまま演じようとすると、すごくカリカチュアライズしたゲイになる。そこを亮平さんは、彼がどんな存在だったのかを私にすごく質問してくれたうえで、リアルなゲイに見えるように演技してくれたんだと思います。
――宮沢氷魚さんとの、いわゆる“絡み”について、ジュンさんにお聞きします。現場にはIntimacy choreographerのseigoさんや、LGBTQ+Inclusive Directorのミヤタ廉さんもいて、ジュンさんや氷魚さんらが負担にならないよう配慮があり撮影されたと聞いています。撮影の雰囲気はどんなものでしたか? また、演じてどう感じましたか?
ジュン:実は、僕も芝居をしているという意識はあまりなくて。ただ男性同士の性行為をその場でしている、という印象です。僕はサービスを受ける側、提供する側のどちらも経験したし、リアルには見えると思います。
ドリアン:リアルに見えるというか、リアルなんだもんね。
ジュン:そう。ちなみに僕が現場に入ったときは、氷魚くんから声をかけてもらったんです。「今日、よろしくお願いします」って。「よかったら、お土産もありますよ」って。その一言があるかないかで、自分の心持ちが違ったと思いますね。救われたというか。監督も「モニターの横で観てな~」と言ってくれて、氷魚くんが廊下を歩くシーンとか、ずっとseigoさんたちと観ていて。その状況が、僕もこの映画に携わってるんだ、とすっと入れた。そのきっかけが氷魚くんの挨拶からだった。
――今作では、ほかにも男性同士の絡みが多く描かれています。今後、インティマシーシーンにおいて、現場で演者の負担にならないように調整したり、シーンの演出に深く関わるIntimacy choreographerは、重要性を増してくると思いますか?
ジュン:とても必要な存在ですよね。配慮や調整をしてくれる方や、そして僕のような“経験をした人”が入ると、嘘じゃないものが作品としてできる、という感覚が現場でもありました。
松永監督:正直、Intimacy choreographerを“形だけ取り入れる”撮影現場も、今後あると思うんですよ。Intimacy choreographerに協力してもらうことで“作品としての保証”のようなものを手に入れられますから。でも、僕が強く思うのは、本当に必要だと心から思っている現場じゃないと、入ってもらう意味がないということ。形だけでは意味がないんです。それって結局、リスペクトの話。こういう人たちに協力してもらわないと、我々は本当の表現ができない、恐ろしいことになる可能性があると本気で思わないといけない。
逆に言えば、そういう思いがあれば、あまり間違えたことにはならない。“入れるかどうか”じゃなくて、“必要かどうか”をみんなでちゃんと考えるべきなんです。僕らは必要性を本当にすべての局面で感じていた。「いればいいだろ」じゃない。
ドリアン:企業とかも、形だけのレインボー施策ってたくさんありますよね。LGBTQ向け、みたいな。でもだいたいがポーズでしかない。同じような話ですよね。
――この作品が、LGBTQコミュニティや、ゲイコミュニティにどんな影響を与えると思いますか?
ドリアン:すごく大きい影響ですよね。今までゲイのコミュニティや当事者を描いた作品で、製作陣や監督が当事者じゃない作品って、どうしてもゲイを消費していることが多かったんです。そして当事者はどうしても「消費されたな」と感じてしまう。そう思うことがあまりにも多いので、消費されることに慣れてしまってもいる。
でもこの「エゴイスト」という作品は、製作開始からコミュニティへのリスペクトがあって、これだけ当事者が出演していて、しかも丁寧に描かれている。本当に、クィア映画として「エゴイスト」前、「エゴイスト」後というくらいの作品になると思っています。
ヨウ:完全に同感です。ゲイの人たちがどう思うかは、お客さんに披露されてからわかりますが、周りの人たちに細かく感想を聞いて回りたいですね。
コウタ:当事者として観たときに、小っ恥ずかしい同性愛の作品って結構あるなと思っていて。そうではなくて、「エゴイスト」は例えば彼氏と一緒に観に行ったとしたら、ちょっと気まずくなっちゃうくらいリアルなんですよ、全部が。それくらいめちゃくちゃいい意味でお互いの感想を共有しづらい同性愛の作品って、本当になかった。
ドリアン:新宿二丁目に飲みに行ったりする人たちは、「『エゴイスト』どうだった!?」って話したりするだろうね。重苦しい感想になったりもすると思う。でもそれも、本当にリアルを描いているからこそ。賛否両論、毀誉褒貶あると思うけど、それが正解だと思う。
ヨウ:ちゃんと、いろんな意見が飛び交いそうですよね。
ジュン:当てはまる人が多い映画ですよね。僕はこの映画を売り専として観てるので、氷魚くん演じた龍太の体力のしんどさもよくわかる。ソファで寝ちゃうよね、とか。昼働いて、夜売り専というと、僕も恋人とまったりしてるときは甘えたいし、逆に体力があるときはコーヒーを淹れてあげたい。そういうふうに、登場人物の1人1人に、それぞれの観客が感情移入できると思う。そして自分は親にゲイとカミングアウトしていないけれども、この作品を通じて、僕はゲイとして幸せに生きているとわかってもらえるとも思ってます。
ヨウ:僕は、ゆくゆくはLGBTQという言葉自体がなくなったほうがいいと思っていて。というのも、LGBTQって最近出てきたものですよね。その言葉を掲げた研修とかが会社などでありますよね。でも研修を重ねれば重ねるほど、扱い方が難しいという印象になる。面倒くさいと思う人も増える面もあると思います。
最初にLGBTQという言葉をつくってくれた人は、僕らを守るためにつくったんだと思うんです。こういう言葉を作らなければいけない社会の現状があって、でも最終的には――まだまだ先の話かもしれないけれど、LGBTQというくくりがなくなって、人と人がお互いを対等な個人として接するようにならないといけない。この映画を観て、ごく自然なことなんだなと考えるような人が、きっと増えるはずだと思います。
――世間が自分たちに対して誤解しているな、と思うことはどんなことがありますか?
ヨウ:ジュンさんがさっき言っていたように、やっぱりゲイとオネエについては思いますね。ゲイであれば、みんながみんなオネエ言葉を使うと思っている人も多いです。あとはゲイの人同士は、みんな仲がいいと思われてる。
ドリアン:あ~、めっちゃそれある。「友だちにタカヤっているんだけど、知ってる~?」。知らねえよ。
ヨウ:「今度会わせるよ!」。いや、いいって!
――うわ~、すみません、たしかにこれ、「自分が絶対に言うわけがない」とは断言できないですね……。無意識に言っちゃってるかもしれない。
ヨウ:別に嫌じゃないんですけどね。でも何か誤解が生まれてますよね。
ジュン:ゲイのなかにも、女の子受けするゲイもいるし、男の子受けするゲイもいる。ゲイにだけしか対等にしゃべれないゲイもいる。当然、いろんな人がいますよね。
コウタ:僕、今お店(ゲイバー)で働いているんですけど、ストレートの女性や男性が来てくれたときに、しきりに「私は全然偏見ないから!」って言ってくることがあります。2時間店にいるなかで、何回言うんだよってくらい。
一同:めっちゃわかる!
ジュン:「オネエ言葉じゃないんだ」って言われたりね。
ドリアン:「ゲイとかそういうの、大丈夫だから!」とか。
ヨウ:そうそう! 「ゲイの友だち、欲しかったんだよね」とか言われたりしますよね。俺らが「ヘテロ(異性愛)の友だち欲しかったんだよね」と言うのと同じですからね、それ。
コウタ:まあ、その人たちなりの優しさや気づかいなんだと思うんですが、僕らは何も特別じゃないのに、ゲイは特別なもので、それに対し「私たちは線張ってませんよ」と言うことで、僕らが楽になると思ってる人が意外と多いんですよ。
ドリアン:我々って“ゲイ”で一括りにされがちですが、ただ男が好きってだけで、それ以外は生まれも育ちもみんな違うんです、当然。それこそヘテロセクシュアルのみなさんが全員違うように、我々も全員違う。
この「エゴイスト」という作品がすごく良いなと思うのは、自分はこの格好しちゃってるのであれですが、いわゆるオネエ言葉じゃないゲイが、普段どおりに出ていること。考えてみたらエポックメイキングですよ。どうしてもエンタテインメントのなかでのゲイって、奇抜なものを望まれるし――私はそれを逆手にとって生きているんですけど――オネエじゃないゲイって、これからもっと作品に出てくるべきだし、ゲイ=オネエじゃない、と知ってもらえるきっかけになるとも思う。
ジュン:僕はこの映画で、売り専への見方が変わるとも思います。そういう職業があるって、そもそも知ってる人も少ない。15年前とかは、自分が売り専であることは隠さないといけなかったわけですよ。人間以下、みたいなふうにみられるから。でもこの映画を通じて、そういう職業があるとわかってもらえるかもしれない。そうしたら、僕たちも仕事としてもっとちゃんとできる。
――映画を通じて自分たちを知ってもらう。政治的な演説ではなく、映画というエンタテインメントで表現することで、観客への伝わり方はまた違う。そうした意味で「エゴイスト」は意義がとても深いと私個人は思います。本日はありがとうございました!
・居酒屋のシーンは台本なし。「説明ゼリフは言わない」などのルールだけあり、あとは自由。
・ケーキのシーンが作品の撮影初日だった。
・ドリアンはケーキを食べるシーンで白目をむいている。
・現場には当事者に対するリスペクトがあった。その理由は、製作陣に「当事者の力を借りないと作品が完成しない」という意識があったから。
・ゲイであることは、ある意味“人生を演じるということ”。常に他人の目を意識して生きているから。
・鈴木亮平は“役作りの鬼”の真骨頂を発揮している。
・当事者キャストから鈴木亮平に伝えたことは、「ゲイとオカマとオネエは違う」など。
・Intimacy choreographerは「必要な存在」。ただし、「形やポーズだけでは意味がない」。
・「エゴイスト」は賛否両論で“正しい”作品。恋人と観に行くと「気まずくなる」くらい迫真でもある。
・「エゴイスト」は、ゲイを一方的に消費しておらず、「当事者コミュニティへのリスペクトがあり、丁寧に描かれている作品」。なおかつ、オネエ言葉じゃないゲイが多く出てくる意味で画期的な作品でもある。
・これまでエンタテインメントでは、ゲイが「奇抜なもの」として描かれがちだったが、「エゴイスト」はそうではなくゲイのリアリティを伝える側面もあった。
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