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巨匠チャン・イーモウは“生きていく限り学び続ける” 新作「崖上のスパイ」を語り尽くす【アジア映画コラム】

2023年2月12日 11:00

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「崖上のスパイ」
「崖上のスパイ」
(C)2021 Emperor Film and Entertainment (Beijing) Limited Emperor Film Production Company Limited China Film Co., Ltd. Shanghai Film (Group) Co.,Ltd. All Rights Reserved

北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数280万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”、そしてアジア映画関連の話題を語ってもらいます!


中国の巨匠チャン・イーモウは、古希に入ってからも、精力的に作品を発表し続けています(毎年ほぼ1作を発表中!)。そのうちの1本「崖上のスパイ」(2月10日公開)は、初の“スパイサスペンス”作品になりました。

これが“初”とは思えないほどの素晴らしい完成度。中国本土でメガヒットとなり、約230億円の興収を記録しています。

そして、今年の旧正月には、中国南宋の英雄・岳飛の時代を背景にした最新作「満江紅」の興収が、既に40億元(約780億円)を突破(2月8日時点)。自身最大の興収記録を大幅に更新しました。

今回は「崖上のスパイ」の日本公開を記念して、チャン・イーモウ監督にメールインタビューを実施しました。このインタビューでは、こんなことを仰っています。

「活到老、学到老」

これは中国のことわざ。直訳すると「生きていく限り学び続ける」となります。常に新しいことに挑戦し続けるチャン・イーモウ監督。映画に対する熱意、愛、好奇心……敬服の念に堪えません。是非ご一読ください。


画像2(C)2021 Emperor Film and Entertainment (Beijing) Limited Emperor Film Production Company Limited China Film Co., Ltd. Shanghai Film (Group) Co.,Ltd. All Rights Reserved
――まずは、本作の企画経緯を教えていただけますでしょうか?

友人から「崖上のスパイ」の脚本を頂いたんですが、とても良いと感じました。ちょうどその頃、なかなかいい脚本と巡り合っていなかったので、喜んで引き受けました。

脚本選びに関して、私はランダムに選んでいます。特に“この方向性で選ぶ”というものはありません。良い脚本は、いつも出合えるわけではありません。ある意味、運です。私にとって、脚本選び、あるいは映画のテーマを決めることは、特に長期的な構想があるわけではなく、ネットショッピングのように、いいモノが見つかれば、すぐ“買います”ね。

――今回は、初のスパイものとなりました。21世紀に入ってから、中国の映画・ドラマ界では「スパイサスペンス」が不動の人気を誇っています。この最も人気なジャンルに対して、どう思われますか?

スパイものに関しては、あまり時代は関係ないと思っています。身分を変えること、屈辱に耐えること、ミステリー、サスペンス、さらに逆転劇……スパイに関する作品は、永遠に人気があると思うんです。それこそ時代に合わせて、ずっと良い作品が生み出されてきたわけじゃないですか。だから、スパイサスペンスの作品がずっと好きだったんです。今回は、良い脚本と出合ったことで「すぐに撮りたい」という気持ちがありました。

本作に関しては、これまでの「スパイサスペンス」とは少し異なり、“生きる”ということを描く作品だと思っています。ソ連で特殊訓練を受けた男女4人のスパイチームが、飛行機から降りた途端に、敵の罠にはまってしまう。では、これからどう生きるか――そういう物語です。

中国では「置之死地而後生」(訳:死地に置かれてこそ生きられる)ということわざがあります。ある意味、本作にぴったりな言葉ですよね。また「困獣猶闘」という言葉もあり、こちらは「追いつめられた獣はなお闘う」という意味です。私は、苦難に立ち向かう際の無力感、運命的なものが大好きです。大きな時代を生きる小さな人物。そんな物語は本当に面白くて、魅力があります。他人のために自分を犠牲にするということは、とても感動的なものです。

画像3(C)2021 Emperor Film and Entertainment (Beijing) Limited Emperor Film Production Company Limited China Film Co., Ltd. Shanghai Film (Group) Co.,Ltd. All Rights Reserved
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――物語やキャラクター設定も、非常に魅力的で完璧でした。脚本作りについて、具体的に教えていただけますでしょうか。

脚本のチュアン・ヨンシェンさんは、以前「」というドラマを作りました。中国ではとても有名な作品です。彼は、本作も「」と同じような空気感にしたかったようです。だから、このような脚本になっています。ある意味、前日譚のような感じです。

私は“生き残るための葛藤”が一番大変なことだと思っています。だからこそ「敗北を勝利に変える時」が、観客も、私も非常に熱くなる。これも「スパイサスペンス」の魅力の一部です。

もちろん、物語の進行やアクションは、登場人物がちゃんと立たないといけない。キャラクター描写は、やはり一番大事なことです。
――資料によれば、極寒の環境の中で、178日間も撮影を行ったそうですね。最も寒かった日は、マイナス40度と書かれています。そうとう大変だったのですね。

確かにかなり厳しい撮影環境でした。人も機械も凍ったら大変なことになります。でも、今は色々な技術がありますので、問題なく撮影を終えることができました。

俳優たちは、深い雪の中を進むことになりました。そこではバランスをとることが難しく、毎回違う歩き方になってしまいました。しかし、雪中シーンを撮影するうえで、足跡というのは非常に重要です。でも、現地でのリハーサルはまったくできませんでした。演じてくれた皆さんは自分の勘を信じて、歩くシーンに挑んでいました。当初は“経験不足”のため、かなり良い景色が何回も無駄になってしまいました。

“雪が降り続くシーン”というものは“雨が降り続くシーン”よりも難しいのです。“雪が降り続けている”という効果を生み出すためには、人工降雪機が必要です。それも俳優の顔に影響を与えず、地面を汚染しないような良質な雪が必要です。自然汚染のことも考えなければいけませんでしたし、数日後、自動的に溶けないといけない。本当に大変でした。

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――“雪”はとても重要な要素だと思いました。雪のシーンに対しては、強いこだわりがあると聞いています。

中国では、昔から雪を描く詩が多かったんです。例えば「忽如一夜春風来,千樹万樹梨花開」という唐の詩人・岑参による名詩があります。これは春の風と白い梨花で雪の美しさを表現する内容です。日本の文化にも、中国の文化と共通する部分が多いので、おそらく雪を描く俳句も多いのではないでしょうか?

物語において、雨や雪、霧が生じると、画面は自然と詩的になると思っています。作品の魅力も一層アップする。本作の吹雪には「残酷な自然の環境」が感じられると思いますが、ある種の「人間性の試練」という意味も含まれています。

――役者陣も豪華ですね。

今回のキャスト陣は、今の中国における“最も良い役者”だと思っています。ハイペースなメロドラマでは、登場人物の心を表現することが極めて重要です。巨大なプレッシャーにさらされた人々の喜びや悲しみ、さらに厳寒の中での感動、意志……これはプロの俳優でなければ出せないものです。皆さんの演技は本当に素晴らしく、映画に華を添えています。

ユー・ホーフェイとチャン・イーはとてもいい俳優ですし、熱心で、素晴らしい努力家です。2人とも独特の演技力を持っています。彼らとは何度も一緒に仕事をしているので、お互いのことをよく理解しています。

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――ここ最近は、コンスタントに新作を発表されています。新たな黄金時代に入っているような印象です。「崖上のスパイ」も、中国公開当時、監督の興収記録を更新してメガヒットとなりました。今現在の心境を教えてください。

私は常に新しいジャンルに挑戦していきたいと考えています。中国の昔のことわざに「活到老、学到老」(訳:生きていく限り学び続ける)というものがあります。どの映画も“学びのプロセス”です。

かつて80歳の黒澤明監督が「私はまだまだ映画作りを勉強している途中です」というようなことを言っていました。その光景を未だに覚えています。 観客はそれをユーモアだと感じて笑っていましたが、今にして思えば、あれは本心だったのでしょう。

――近年では、アジア各国の“映画交流”も増えています。今後、日本の俳優と一緒に作品を作る機会について、どのように考えていますか?

ここ数年、コロナによって世界は大きく変わりました。それでも映画人同士の交流や学びが増え、一緒に夢を追いかけられるようになれればと思っています。

日本の映画人たちとは、良い交流やコラボレーションがありました。若い頃、憧れだった高倉健さんと「単騎、千里を走る。」でご一緒したことがありますが、これは一生忘れられない経験。今でも高倉さんに会いたいと思っています。

今後も日本の映画人たちとの交流やコラボレーションを続け、中国と日本の人々が友好的であり続けることを願っています。

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