田中大貴監督作「PARALLEL」ジュネーブ・ブラック・ムービー・フェスティバルで上映 Q&Aで質問が相次ぐ
2023年2月6日 19:00
田中大貴監督の長編デビュー作「PARALLEL」が、ジュネーブ・ブラック・ムービー・フェスティバルのオフィシャルセレクション作品に選出され、1月27日と28日の2夜にわたって上映された。映画祭に参加した田中監督より、映画.com独占のレポートが到着した。
同映画祭は、アフリカ諸国の映画の上映を目的に1991年に誕生し、現在は革新的な映画を幅広く紹介する映画祭として知られている。上映されたジュネーブ市内の映画館「Spoutnik」は、「まるであなたの映画(「PARALLEL」)みたいな映画館ですよ!」(同フェスティバルのディレクターのMaria Watzlawick氏)と表現されるようなカラフルなネオンが輝くユニークで風変わりなミニシアター。両日とも遅い時間からの上映にもかかわらず、友人同士で訪れる若い男女や、熟年夫婦まで幅広い世代が来場し、客席は満席になった。
「PARALLEL」を推薦した同映画祭プログラマー(Bastian Meiresonne氏)は、上映前に「若くて才能溢れる彼を日本からポケモンボールに入れて連れてきた!」と田中監督を紹介し、会場を盛り上げた。観客からの大きな拍手で迎えられた田中監督は「皆さん、こんにちは! 本日は映画を観にきていただき、ありがとうございます。この作品には少し暴力的なシーンもありますが、最後には今まで味わったことのないような感動を味わえると思います。今日は最後まで映画を楽しんでください!」と挨拶した。
上映後にQ&Aが行われ、観客から次々と質問があがった。まずは「観客の反応はスイスと日本で違いはありましたか?」と問われた田中監督は、このように答えた。
田中監督「日本の場合、応援上映や発声上映といった特殊な上映じゃない限り、なるべく声を出さず、静かに映画を観る場合が多いのですが、スイスの観客の皆さんは、上映中に様々なリアクションや声を出してくれることがすごく新鮮でした。上映した2回とも、日本では笑いが起きないようなシーンで笑い声が聞こえてきて、受け取り方の違いを間近で感じられてとても楽しかったです。また、海外では作品がつまらなかったり、気に入らないと途中でも観客が帰っていくと事前に聞いていたので、上映後に一体何人残ってくれているだろうと心配していましたが、皆さん最後まで映画を観てくれて本当に嬉しかったです」
日本文化や日本人の価値観に興味を示す質問が多かったそうで「この作品を作った背景に、日本社会への危機感や不安がありましたか?」という質問も。
田中監督「この作品を作る時に、テーマとして“心の傷”と、人間が持つ“変身願望”について考えることになりました。誰しもが大小様々だとは思いますが、心の傷を抱えて生きているはずです。僕が生きている日本では自分の気持ちを押し殺したり、表と裏の顔を使い分けたりと、自分の心の傷から目を逸らして“仮面”をつけて日常を生きている方が多いと感じています。その歪みから虐待やパワハラ、誹謗中傷が起こり、悲しい事件が何件も起こっています。今回通訳を担当してくれた方から、スイスでは心理カウンセラーに通うことが一般的で、心の傷を抱えることは何も特別なことではないというお話を聞きました。現在日本は生活をするのに大変な国になってきていると思いますが、一人ひとりが自分の心と身体を大切にして、少しでも自然体に生きていけるようになったらいいなと改めて思いました」
また「時計じかけのオレンジ」「ヴィデオドローム」、「殺し屋1」などの三池崇史監督の作品から影響を受けているかと尋ねられるひと幕もあったそう。Q&Aが終わった後も田中監督に個別に感想を伝え、質問をしにくる観客が列を作るなど、「PARALLEL」への強い興味や関心が感じられる上映となった。
作品は、田中監督が製作・脚本・撮影・照明・編集・特殊造形・VFXを兼任し、“傷を抱えた少女”と“アニメの世界に行きたい殺人鬼”の恋愛模様を描く、異色のスプラッター×ラブストーリー。本作が長編映画初主演となる楢葉ももな、田中監督の前作「FILAMENT」に続いて芳村宗治郎が出演。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021でグランプリ、インディーズ映画の登竜門である第15回田辺・弁慶映画祭で映画.com賞を受賞した。昨年9月16日から10月6日までテアトル新宿で開催された「田辺・弁慶映画祭セレクション2022」内で劇場公開され、現在拡大単独公開を目指して準備を進めている。
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