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「エリック・ロメール監督との思い出」パスカル・グレゴリー、メルビル・プポー、深田晃司監督が語る

2022年12月4日 18:44

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深田晃司監督、メルビル・プポー、パスカル・グレゴリー(左から)
深田晃司監督、メルビル・プポー、パスカル・グレゴリー(左から)

今年30回目を迎える「フランス映画祭2022 横浜」で12月4日、「エリック・ロメール監督との思い出」と題したマスタークラスが開催された。ミア・ハンセン=ラブ監督の最新作「ワン・ファイン・モーニング(仮)」で共演し、エリック・ロメール監督の数々の作品に出演した俳優パスカル・グレゴリーと「夏物語(1996)」に主演のメルビル・プポー、ロメールから多大な影響を受けていると公言する深田晃司監督が名匠について語った。

グレゴリーは、アンドレ・テシネの「ブロンテ姉妹」(77)を見たロメールから電話をもらったのが、最初の出会いだったそう。「事務所に行き、一日中映画の話をしたり、日中に何をしているのか聞かれたり、当時80年代で私も若かったので、夜遊びの話を聞きたがったり……そんな話をしました。ロメールはお茶をよく飲んでいて、“不味い”お菓子のスペキュロスが大好きで、その袋が事務所のあちこちにありました」と振り返り、その後、パスカル・オジェとの舞台「Catherine de Heilbronn(原題)」への出演をオファーされたのが、ロメールとの仕事のスタートとなった。

「ロメールとの会話では、政治的なことを含めて、私そのものを語ることが彼が作る人物像に役に立っていたようです。『海辺のポーリーヌ』でのセリフが、私が事務所で言った言葉だったことがありました。彼は彼自身を、いわゆる芸術家ではなく、職人であり、自分の技が好きだと言っていました。友人たちとのバカンス中に映像を撮る――そんな感じでプロではない人たちと一緒に映画を作り上げていきました」(グレゴリー)

プポーは女優のアリエル・ドンバールの紹介でロメールに対面した。「僕が音楽をやっていると知り、より興味を持ってくれたようです。やはり事務所で、お茶とともにスペキュロスが出てきました(笑)。ロメールはロックは聞かなかったようですが、音楽の話をしました。既にお若くはなかったですが、自分のプロジェクトの話に若者のように興奮したりと青年のようでした。とても青い瞳で、相手を貫き通すような視線を持つ人。(ロメールの製作配給会社)レ・フィルム・デュ・ローザンジュというヌーベルバーグの神殿に来たような気分でした」と出会いを振り返る。

「夏物語」
「夏物語」
(C)1996 Les Films du Losange

深田監督が「以前の来日時にプポーさんにお話を伺った時、演技をする上で、ロメールの癖を取り入れたというのが印象的でした」とコメントし、話題は「夏物語」でのエピソードに。

「私の(ロメール作品の)出演は『夏物語』のみなので、シナリオは既に書かれていて、ガスパールの人物像に私が合っていたのです。ガスパールはロメール自身の考え方が入っており、思春期後の混乱、孤独感や内面を吐露します。ですから私からインスピレーションを得て作られた人物ではないと思います」

「私はガスパールはロメールの自伝的な役だと感じていました。ロメールの行動や態度に特異なところがあったので、彼を真似たらいいと思ったのです。思春期の男の子のような感じや、知的なインテリのような感じ、自分のアイディアに興奮するアーティストであったり。しかし、その後のインタビューでロメールを真似たと言ったら、怒っていましたが(笑)」(プポー)

グレゴリーが主演作「木と市長と文化会館 または七つの偶然」(93)について「映画史上一番低予算で撮影したのではないでしょうか。配給が決まるまで俳優に(ギャラは)支払われなかったですし、私の友人の城で撮影し、食事も自分たちで支払うという、アマチュア映画そのもの。でもそれをロメールは望んでいた」と語るように、低予算、小編成のスタッフで作られるのがロメール作品の特徴だ。深田監督は、現場での様子をふたりに尋ねた。

「ロメールは人工的な技術を嫌っていて、カメラの存在を観客に知らせたくない人なので、普段はまるでカメラがないように撮影します。切り返しなど人工的なカメラワークも嫌がりました。『海辺のポーリーヌ』では、撮影監督が移動撮影を望んだので、その時は掃除係の方が乗っていた、シートを取り外せるシトロエン2CVの中を空にしてカメラを入れ、みんなで車を押して撮影しました」「彼は大体夕方になると撮影を終えたその日の分の編集をします。その後、近くの街まで自転車で編集した35ミリフィルムを持っていき、パリに送ってもらうのです。そういう作業を毎日進めていて、本当に映画が好きで作っている感じがしました」(グレゴリー)

「『夏物語』は、みんなで同じ家に住み、助監督もいません。ロメールが俳優たちに翌日の撮影時間を伝えたり、サンドイッチを配ったり。夜はみんなでVHSでラッシュを見たり。でも画家のように、自分の思うままのものを作るまで妥協しない人でした」(プポー)

「緑の光線」
「緑の光線」
(C)1986 Les Films du Losange

そして話題は、日没前に一瞬だけ見られる太陽光をタイトルにした「緑の光線」(86)に。「『緑の光線』は聞いた話だと、光線を撮る為に何日も撮影に時間をかけたそうですが、最終的には作ったと聞いています。やはり人工的な技術を使うのは嫌だったのではないでしょうか」とグレゴリーがコメントすると、プポーは「数年後、『夏物語』を撮っているときに緑の光線が見れそうな日がありました。ロメールはみんなを連れて、光線を撮って、『緑の光線』のラストを差し変えようと意気込んでいました。けれど、結局撮れずにがっかりして、その日はワインをたくさん飲んで、夜通しダンスをしていました」と明かした。

ロメール監督の現場はワンテイクを好んだ“節約型”だったと証言するふたり。

「彼は十分に準備を重ねます。フィルムが高かったので、節約していたのでしょう。スペキュロスも1つしかもらえません(笑)。予算節約型ですね。その一方で、予想外のアクシデントも期待していました。『夏物語』の階段でのシーンでは偶然凧が上がって喜んでいました。冗談は抜きにして、シナリオをしっかり書いて、その通りに、シンプルに自分の書いた話を進めて行きたい人でした」(プポー)

「なるべく低予算で物語を語り、撮影します。節約することによって、自分の求める作品作りができる人。その後、有名になってお金に困らなくなっても、節約型の作品作りをしていました。コスチュームが必要な「O侯爵夫人」など時代物の作品3本にはお金が掛かっていますが、映画の理想として、たくさんの人や物を使わないという人でした」(グレゴリー)

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グレゴリー、プポーともに多くの著名な監督と仕事を重ねているが、ロメールとの仕事を経験し、学んだことを問われると、「俳優はこうあるべきだというビジョンを学びました。他の有名な監督と仕事をしても、ロメールとは全く違います。普通の映画はそれぞれの職域があり、自分の範囲を超えることをやってはいけないということになっていますが、ロメールの現場はみんなが何でもやって、それぞれが映画を作る為に頑張っている意識がいいなと思うのです。ロメールのおかげで自分はスクリプトの才能があることに気づきました。ロメール映画に出ていると自由になれるんです。他の現場で助監督に『そろそろ出番です』なんて言われると、自分が出るタイミングはわかっているよ、と腹が立ってしまいます(笑)」とグレゴリー。

プポーは「ロメールは自分のインスピレーションをしっかり持っている賢い人。彼の強みはセリフ回しが上手で、シナリオが本になったり、演劇にもなっています。話の筋を展開させる構造的なものがしっかりしている。最近ウッディ・アレンの映画に出ましたが、低予算で、ワンテイクで終わるところなどがロメールに似ています。そこでロメールと仕事をしたことが役立ちました。しかし人生でそういう人に20回も会うことはないでしょう」と振り返る。

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最後に、ロメール監督の作品が時代を超えて愛される理由をそれぞれが語った。

「映画史上とてもユニークな人で、彼以外の他の監督がみんな似ているように見えてしまいます。もちろん才能溢れた偉大な監督はたくさんいますが。彼の特異性は、彼にしかできない作品を作ったこと。撮影の仕方、予算の使い方、映像に対しても、語るものに対しても未来的でした」(グレゴリー)

「彼は偉大なアーティストです。ロメール映画を見た人は、見る前と違う世界を生きることになると思います。彼の映画は、今の若者にも関心を持たれるような作品です。それは彼自身が永遠の思春期で、子どものような部分があるからでしょう」(プポー)

そして、この日の聞き手に回った深田監督は「私自身がエリック・ロメールに憧れて映画を作り始めた人間で、未だにロメールだったらどうするのだろうと考えますし、撮影に行くときには、ロメールの映画をパソコンで見ながら現場に向かったりします」と、今でも大きな影響下にあることを明かし、「映画の現代性というのは、製作年度と関係ないということを感じます。ロメールの映画の新しさは、題材の目新しさということではなく、ロメールの世界や人間を見る視線が現代的で新しいので、いつまでも古びないのだと思います。ロメールの作品は20世紀の映画であり、21世紀の映画であると思います」とロメール作品の魅力を改めて強調した。

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