「人生と引き換えはイヤ」望まぬ妊娠をした大学生の苦悩と戦い ノーベル文学賞受賞作家の自伝的物語を映画化「あのこと」本編映像
2022年12月1日 15:00
今年のノーベル文学賞を受賞した仏作家アニー・エルノーが自らの体験を基にした小説を原作とし、第78回ベネチア国際映画祭の金獅子賞を受賞した映画「あのこと」の本編映像の一部が公開された。作家を目指す主人公の大学生が、医師から妊娠を告げられるシーンだ。
舞台は、1960年代、法律で中絶が禁止され、処罰されていたフランス。望まぬ妊娠をした大学生のアンヌが、自らが願う未来をつかむために、たったひとりで戦う12週間が、全編アンヌの目線で描かれる。監督は、本作をきっかけに世界中から注目された女性監督オドレイ・ディワン 。アンヌは子役時代に「ヴィオレッタ」の娘役を怪演し、本作でセザール賞を受賞したアナマリア・バルトロメイ。
公開された本編映像は、労働者階級の家庭に生まれながら、頭脳明晰で将来が期待されている女子大生アンヌの人生が一転する重要なシーン。生理がこないことに不安を抱き、思い切ってかかりつけの病院で検診を受けるアンヌ。次々と投げかけられる医師の質問に、一瞬たりとも表情を崩さず嘘を交えながら答えるが、医師はあっさりと「妊娠してる」と告げ、アンヌは動揺する。「何とかして」と詰め寄るアンヌに医師は、「無理な相談だ。私以外の医師でも違法行為になる」と中絶処置をきっぱり断り、さらに、追い打ちをかけるかのように「最悪の事態も起こり得る。毎月のように運を試して激痛で亡くなる女性がいる」と違法な中絶手術の危険性を突き付ける。
映画の舞台である1960年代のフランスでは、人工妊娠中絶は法律で禁止され、何らかの処置を受けた女性、それを施した医師や助産婦、さらに助言や斡旋した者までに、懲役と罰金が科せられていた。世の中は中絶という言葉すら発することのできない空気に満ちており、人々は“あのこと”と暗に表現するしかなかった。映画の中でも直接的な言葉は使われず、アンヌが経験していることはタブーであることを示している。
誰にも助けを求めることができず、ひとりで自分の未来を守る方法を探っていくアンヌについて、ディワン監督は「彼女は戦争に向かう兵士なのです彼女には世界を相手にする準備ができている。地に足を着け、まっすぐ前を見つめ、反逆者としての地位と、社会から重荷を背負わされることの意味を受け入れなければならないから」と説明している。
「あのこと」は、Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開。
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