東京国際映画祭ジュリー・テイモア審査員長「ザ・ビースト」「第三次世界大戦」の日本公開に期待
2022年11月3日 10:30
第35回東京国際映画祭、が11月2日に閉幕。クロージングセレモニーの会場となった東京国際フォーラムでは、審査委員長のジュリー・テイモア(演劇・オペラ演出家 映画監督)をはじめ、シム・ウンギョン(俳優)、ジョアン・ペドロ・ロドリゲス(映画監督)、柳島克己(撮影監督)、マリークリスティーヌ・ドゥ・ナバセル(元アンスティチュ・フランセ館長)ら審査員陣が会見を行った。
今年の東京グランプリ/東京都知事賞作品は、ロドリゴ・ソロゴイェン監督の「ザ・ビースト」に。テイモア審査委員長は、「われわれが選んだ作品に誇りを持っています。それぞれの作品を楽しく拝見しましたし、受賞しなかった作品も素晴らしい作品ばかりでした。文化が異なる作品であっても、物語を楽しむことができました。今回、このようなすばらしい作品に出合えたのは、いわゆるハリウッドの商業性の高い作品ではなく、このような作品を集めてくれた映画祭のディレクターの方々のおかげ。世界中の方が悲しみや喜びを分かち合い、表現する。異文化の作品に触れることができるという多様性を絶対になくしてはいけない。仮に理解できなかったとしても、世界中のこのような物語に目を向けるのは大切だと思います」と振り返る。
また「ザ・ビースト」が評価された理由について「すべての要素が素晴らしいからグランプリをとったということもあるが、この作品に関しては主演女優も素晴らしかった。『1976』の女優さんも素晴らしく、今回は彼女が賞をとることになりましたが、音楽も撮影も脚本も演出も、内容もすべてが感動しましたし、心動かされる作品でした。次点としては『第三次世界大戦』。監督が来日できず残念でしたが、本当にワイルドな作品で、『パラサイト 半地下の家族』や『ゲット・アウト』『チャップリンの独裁者』のような映画で驚かされたんです。イランでホロコーストの映画が撮影されて、現場の作業員が収容所のエキストラに無理やりさせられるという状況があって。非常に珍しい作品ですし、両作品とも素晴らしかったので、ぜひ日本でも配給してもらいたい」と呼びかけた。
その後は受賞者たちの会見を実施。「アジアの未来部門」作品賞を獲得した「蝶の命は一日限り」のモハッマドレザ・ワタンデュースト監督と、コンペティション部門審査員特別賞を受賞した「第三次世界大戦」に出演する女優マーサ・ヘジャズィが会見。ワタンデュースト監督は「日本の方から賞をいただくということはわたしにとってはとても意味があること。われわれにとって日本には憧れがあり、芸術、文学、詩、絵など、イラン人と日本人は、奥深くでつながっていると思う。だから日本で賞をいただけるのはありがたいこと。よく友だちは商業的な作品を作った方がいいよと言うんですが、自分としては、自分の心から出てくるものを作りたいと思っている。だからこの賞をいただいて、自分の道は正しいのかなと思いました」と晴れやかに微笑んだ。
続くマーサ・ヘジャズィは、テイモア審査委員長を魅了した本作について「この映画の魅力的なところですが、この映画にはグローバルに通用するテーマがあります。ですから、どこの国の人間であっても、どんな文化で育っても、どの国の人でもこの映画と関わりを持つことができる。そこがこの映画の魅力だと思います」とコメントを寄せた。
観客賞を獲得した「窓辺にて」の今泉力哉監督も登壇。主演を務めた稲垣に対して「実はまだ直接やりとりしていないんですけど、スタッフを通じて本人の耳に届いていると思いますし、力になっていればと思っています」と挨拶。現在はコロナウイルス感染により療養中で、同作の公開記念舞台挨拶は欠席となるが、「コロナというのは自分もかかったことがありますが、誰が悪いわけでもなく、仕方のないことなので。初日に本人がいないわけですが、だからといって残念というのも違うと思います。自分も体調を崩して初日挨拶の登壇をやめたこともありますし、休むことがいけないことだとも思わない。健康第一で、ゆっくり休んでもらって。具合が良くなったらまたご一緒したいと思います」とエールをおくった。
さらに観客賞を戴冠したことに関し「映画を作っていて、自分はスタッフやキャスト、関わっている方への感謝もありますけど、脚本を仕上げている時も、撮影の時も、仕上げの時も、楽しさよりも苦しさを感じるというか。ほとんどの作り手に比べて現場があまり好きじゃなく、苦しみながら作っているんですが、お客さんに観てもらったり、喜んでもらったり、という時のために作っている。それで次の作品を作る力となっている。だから観客賞というということで、素直に喜びたいと思います」と語った。
さらに最優秀芸術貢献賞を獲得した「孔雀の嘆き」のサンジーワ・プシュパクマーラ監督は「非常にうれしく思っています。小さい時から知っている映画祭であり、おそらくスリランカの映画が国際的な映画祭で賞を受賞するのは初めてのことじゃないかと思います。そういう意味でも、スリランカの映画界にとっても大きな意味がある賞だったんじゃないかなと思います」と喜びのコメントを寄せた。
会見後には、テイモア審査委員長が報道陣の取材に応じた。今回の映画祭を終え、「アジアのいろいろな地域の作品が選出されていて、プログラミングディレクターの市山尚三さんによって、さまざまな視点を知ることができる映画祭だなと思いました。いわば映画スター中心ではない。それこそケイト・ブランシェットやロバート・デ・ニーロ、クエンティン・タランティーノもいない。監督や出ている俳優たちも知らない方が多かったですが、そういう環境はワクワクしましたし、そういう中から才能を見いだすということは、本当に素晴らしい体験となりました」と振り返る。
映画祭期間中は常にエネルギッシュで、パワフルな姿が印象的だったテイモア審査委員長。そのエネルギーの源は何なのか。「やはり情熱を持っているからでしょうね。自分が手がけている芸術になぜ取りかかるのかといえば、情熱を持っているからだと思うんです。例えば『第三次世界大戦』や『ザ・ビースト』『孔雀の嘆き』といった作品は、本当にわれわれを揺さぶるような作品だった。いろいろな問題を普遍的な形、映画的な形でわれわれの前に描きだしてくれる。そしてわたしたちの思考と心を開いてくれるものでしたよね」と語りかけ、「わたしの座右の銘は“人々を誰も考えもしないところに連れていきたい”ということ。みんなが知っているところに連れていっても何も面白くないじゃないですか」と力説する姿は最後までエネルギッシュだった。
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