ペドロ・アルモドバル監督が「パラレル・マザーズ」で内戦に触れるのはなぜ?
2022年10月27日 17:00
ペドロ・アルモドバル監督最新作「パラレル・マザーズ」のトークショー付き試写会が10月25日、都内で行われ、コラムニストの山崎まどか氏、「NeoL」編集長の桑原亮子氏が登壇。物語の核となるテーマを語り尽くした。
本作は、同じ日に母となった2人の女性、ジャニス(ペネロペ・クルス)とアナ(ミレナ・スミット)の数奇な運命と不思議な絆、この困難な時代における生き方を描き、さらにアルモドバル監督の中で年々、重要となっていったテーマ「スペイン内戦」も織り込まれている。
山崎氏は「アルモドバルが母と娘をテーマにした作品は多くて。ペネロペが主演した作品でいうと『ボルベール 帰郷』などがあって。その時は娘役が多かったと思うんですが、そんなペネロペも、『ジュリエッタ』の頃から母親の方にシフトしてきたというのが印象的。今回はそれを受け継いでいる感じかなと思いました」と切り出し、「ペドロ・アルモドバルはペネロペを大きな女優に育てようというイメージがあったと思う。若い頃はかわいらしかったけど、最近はアンナ・マニャーニやソフィア・ローレンのような、ヨーロッパの大人の女性というか、中年としての女優を意識した作りになっている」と指摘。
桑原氏も「この作品は『オール・アバウト・マイ・マザー』の頃には構想があったそうで。その時には監督の中では、(若い母親役の)ミレナ・スミットの役を演じさせるという気持ちだったと聞きましたが、今では(年上の母親役の)ジャニス役になった。そこも含めて2人の歴史が感じられる作品かなと思いました」と話した。
また、本作の主人公ジャニスは、スペイン内戦で犠牲になった曾祖父の骨を掘り起こし、愛するモノの尊厳を守る場所に埋葬するということに強い思いを抱くキャラクターとなっている。
その点について、山崎氏は「アルモドバル作品はメロドラマの形式ができあがっている。そこに政治的なことが出てくるのは意外ですけど、実はアルモドバルは内戦に触れるところが元々ある。老境における心境の変化もあると思いますが、それ以上に彼が今の世界の情勢を無視できないということもあると思う。彼は独裁政権の傷を負った国に生きたわけですよね。この映画のラストシーンには、ロシアのウクライナ侵攻で起きたことを思わせるものがあり、グッとくるものがありました。本作は(本国公開から)1年遅れて公開となりましたが、今見ることに意味があると思う。家族の物語として、他人事ではないのだと。個人の歴史と国の歴史はイコールであると感じさせる作りになっているなと思いますね」と語っていた。
「パラレル・マザーズ」は、11月3日から公開。
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