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【「LAMB ラム」評論】今年一番奇妙な映画だった。アイスランド映画界が生み出した超問題作

2022年9月24日 09:00

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「LAMB ラム」
「LAMB ラム」
(C)2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY, RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JOHANNSSON

タル・ベーラが製作総指揮に名を連ね、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で受賞、A24が北米での配給権を獲得した超自然スリラー。昨年10月に全米公開され初登場7位にランクイン、アイスランド映画史上最高のオープニングを記録した話題作。

アイスランドの人里離れた土地で羊牧場を営むイングヴァル(ヒルミル・スナイル・グズナソン)とマリア(ノオミ・ラパス)。ある日、夫婦が飼っている羊の一頭が、人間とのハイブリッドを産み落とす。二人は亡き子に因みアダと名付け、家族として育て始める。

まずは奇抜さに気を取られるが、本作に登場するアイスランドの風景が、とにかく素晴らしい。深い霧の谷あい、鈍く広がる空、幽玄さ漂う山肌。青を基調にした硬質で仰角多めのシネスコ画角。北欧の厳しい自然と、ポツンとたたずむ一軒家の対比が絶妙だ。

バルディミール・ヨハンソン監督は「LIFE!」「オブリビオン」「プロメテウス」などがアイスランドで撮影された際に、特撮や照明の現地スタッフとして参加、コーディネーター的な役割も担っていたと思われる。アイスランドを知り尽くした監督が選り抜きしたロケ地は、映画に深い説得力をもたらしている。

「最初にアダの造形を思いついた」という監督の着想をもとに共同脚本を手がけたショーンは、ビョークのバンド仲間を経て今はアイスランドを代表する詩人・小説家。ロバート・エガースの最新作「The Northman」の脚本も手がけている。偶然とはいえ、舞台の景観や宗教の存在、動物の描き方、子の不在、女性の自立など、エガースのデビュー作「ウィッチ」との共通点も少なくない。ヒロインの名前マリア、預言書エレミヤ書からの数字「31-15」、善き羊飼いなど、キリスト教的なモチーフを背景に忍ばせた脚本は、プロローグと呼応して思いもよらない異世界へと誘う。

その中で、謎の核心ながらも心和むのがアダの存在。低いアングルから草原を歩く後ろ姿は非現実的な可愛らしさ。愛くるしくリアルな造形は、10人の子役、4匹の子羊、特製スーツを合成して作られたという。アダが着ているのがウールのセーター、というのは監督の皮肉か。

かつてサラエボの大学でヨハンソン監督が講義を受けたタル・ベーラやアピチャッポンも、生き物をテーマに独自の描き方をした作品をアーカイブに持っている。それを踏まえると、監督の生まれ故郷を舞台にした羊と人間の物語という枠組みは、当然の成り行きのようにも思える。ちなみにそのアイスランドの羊は、1,100年ほど前に種が持ち込まれて以来、他と一切交配していない世界でも希少な純血種として有名。そのことを知ると、アダの異端ぶりがより際立って感じる。

(本田敬)

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