ロマンポルノ・ナウ「愛してる!」愛のレスポンスにマジに感動して泣いた【二村ヒトシコラム】
2022年9月24日 22:00
作家でAV監督の二村ヒトシさんが、恋愛、セックスを描く映画を読み解くコラムです。今回は、日活が1971年に製作を開始した「日活ロマンポルノ」50周年記念プロジェクトの一企画「ROMAN PORNO NOW(ロマンポルノ・ナウ)」のもとで製作された3作から、白石晃士監督の「愛してる!」について二村さんならではの視点で作品を語ります。
ロマンポルノのナウ(現在)という、なんとも意欲的な企画で日活が我々に見せてくれたのは、こじらせた女性の自意識による恋愛の痛さと、そこからの回復を描いた「手」、クソみたいな社会制度からの抑圧や(自分の中にもある)差別感情が苦しい女と女が、セックスと愛情の未来を探す「百合の雨音」、そしてSMいんちきドキュメンタリー「愛してる!」の3本。どれもなかなかに難しいテーマ設定です。
「愛してる!」について個人的な感想を書きます。白石晃士監督の堂々たる平常営業、いつものオカルトいんちきドキュメンタリー(なのに笑って観ていると、だんだんマジで怖くなってくる。ホラー映画の定石に慣れてない観客も怖さや不安を楽しめる)とほぼ同じ手法で作られた、SMいんちきドキュメンタリーであった。
しかしロマンポルノ黄金期の傑作「ラブホテル」だって言ってみれば相米慎二の平常営業だったわけで、才能ある監督だったら大いにその監督のいつもの映画をやってくれてよく、エッチな場面さえ多めに入っていれば(そして、もちろん映画として面白ければ)あとは何をやったって許されるのがロマンポルノなのです。
地下アイドルの世界より、さらにもう一階か二階地下にあるSMの世界。そこに呑みこまれていく主人公を説明的に描くのではなく、いつも通りカメラまで主人公もろとも異界に呑みこまれていく。やがて現実世界のフレームまでもがズレて、壊れはじめていく(おもに高嶋政宏によって壊されていく笑)(他にも濃すぎるゲスト出演者たち。一部のプロレスファンも、もちろん『コワすぎ!』ファンも必見です)のを笑いながら観ていると、SMプレイに真剣に興じる登場人物たちが男性も含めて全員あまりにも可愛らしいので、だんだんとこっちもエロい気持ちになってくる。 神妙な気持ちにもなってくる。
それにしてもロマンポルノ黄金期のSMとは、だいぶ「SMとは何か」という概念が変質したものだ。この映画が奇を衒っているのではなく、じっさい現代のSM愛好者たちが変わってきているのだ。「愛してる!」は、そこを正確に描いているように感じる。支配は支配であっても、情念でベッタリ執着したりされたりの破滅願望ではなく、りりしさや美しさにツンデレ的に支配されて愛されたい。安易に欲情する前に承認欲求と、どれだけ自分が「がんばれるのか」という自傷のナルシシズムを満足させておきたい。近年の多くのマゾヒストが抱く、きわめて今日的なSM観ですね。
僕は昔のロマンポルノのよくないところ、ていうか当時はそれが求められたのだろうが現代では通用しないであろうところは、凡庸なレイプや無理強いのセックス、そしてレズ作品における男女セックスの場面が無駄に多すぎることだとかねがね思っていたのだが、「愛してる!」にはそういうのがない。
恋愛ドラマでありながら性的な興奮そのものが最終的に立ち上がり、欲望や依存に忠実な「どうしようもない人間たち」が肯定される。そこがとても良かった。SMでしか愛しあえない、SMだけで愛しあう二人。セクシャル・マイノリティを主人公にしながら肩に力が入っていない娯楽作。通常のセックスの場面は一切ないにもかかわらず、これは僕にとっては間違いなくロマンで、ポルノだ。
いんちきドキュメンタリーでしか語りえない真実の言葉があるとでも言いたげな監督のぬけぬけとした悪ノリと、出演者の真摯さに、ねじ伏せられてしまいました。しかも笑って観ながらエッチな気持ちにもなってきたと思ったら、ラストでは不覚にも感動していた。よくやるわという呆れの感動ではなく、すなおに、その愛のレスポンスにマジに感動させられてしまったのです。今回のロマンポルノ・ナウ、3本ともエロいシーンで僕は勃起をしましたが、勃起しながら感動して泣いてしまったのは「愛してる!」であった。
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