「DRONE ドローン」短い時間の中に楽しい見せ場を盛り込んだ、ホラーコメディの良作【人間食べ食べカエルのホラー映画コラム】
2022年9月3日 20:00
Twitterのホラー界隈で知らぬ者はいない人間食べ食べカエル氏(@TABECHAUYO)によるホラー映画コラム「人間食べ食べカエル テラー小屋」では、“人喰いツイッタラー”が、ホラー映画専門の動画配信サービス「オソレゾーン」の配信中のオススメ作品を厳選し、その見どころを語り尽くす! 今回は、食べ食べ氏が、「突飛なアイデアを1つの物語として仕上げる手腕に長けている」と評価するジョーダン・ルビン監督の「DRONE ドローン」をご紹介。
「チャイルド・プレイ」が与えたインパクトは凄まじかった。殺人鬼の魂が乗り移ったグッドガイ人形が恐ろしい表情をして動き出し、小さな子供を執拗に襲う様は、十分すぎる恐怖を植え付けてくれた。2作目以降はギャグ方面に振り切れていくが、それでもどの作品も面白く、ホラー界を代表する大人気シリーズとなった。そして現代。人形はもう古いし、今ならこれに乗り移るのはどうすかね!?というノリで作られたかどうかは分からないが、「チャイルド・プレイ」の人形をドローンに置き換えた無茶苦茶な映画が誕生した。それが本作「DRONE ドローン」である。
SWAT部隊によって古びた建物の屋上に追い詰められた連続殺人鬼は、そこで雷に打たれてしまう。だが彼は死ななかった。落雷の影響によって、殺人鬼の意識は手に持っていたドローンにインストールされたのだ! こうして意志を持った殺人ドローンが誕生してしまった! そして、新たなターゲットに狙いを定め、再び惨劇を起こそうと動き出す……。
ゾンビのビーバーが暴れる出オチみたいな映画「ゾンビーバー」で、ホラー好きにその名を知らしめたジョーダン・ルービン監督。彼が新たに手掛けたのは、ドローンが意思を持って人を襲う、というこれまた出オチみたいな作品だ。しかし、この監督は単なる出オチ職人ではない。「ゾンビーバー」では、ただ腐れビーバーを出すだけでなく、げっ歯類の木を噛む特性をうまく活用し、逃げ場のない水上で木のいかだに追い詰められた若者たちが次第に追い詰められていく絶望的な展開を作り上げた。それだけでなく、ゾンビーバー人間やゾンビーバー熊なども投入して、素晴らしい盛り上がりを生み出し、ちゃんと1本の作品として見事に成立させていた。彼は、突飛なアイデアを1つの物語として仕上げる手腕に長けているのである。
今回も、ドローンを適当に暴れさせて「ハイ、終わり!」という事はせず、ちゃんとそのフォルムや機能を活かした見せ場を盛り込んでくれている。ブイーンと飛んで、プールサイドで寝転ぶ女性を空から盗撮するハイテクスケベシーンでドローンの機能性をアピール。人を襲う際は、高速回転するプロペラで人を切りつけてダメージを与えまくる。その特性を活かした襲撃方法がユニークで面白い。殺人ドローンが物語の中心となるように話が組み立てられており、一体なんでこんなにしつこく襲ってくるのかという疑問にも理由付けがされている。思った以上にちゃんと作りこまれているという印象を受ける。
そして後半、大きなダメージを受けた殺人ドローンが兄に助けを求めるのだが、ここでなんと、機体を改造されて修復どころか更にパワーアップ! ただのドローンからトランスフォームして、究極完全体に進化する展開までやってくれるのだから頭が上がらない。優れたストーリーテリングだけでなく、特盛のサービス精神で楽しませてくれるのが、この監督の好きなところだ。
本作は、80年代ホラーを現代のハイテク機器を主役にすることで、新鮮な面白さを生み出した秀作だ。よくある殺人鬼視点で標的を追いかける演出をドローンのカメラで再現したり、チープなシンセ音楽に乗ってドローンがフヨ~と飛んだりと、本作ならではのシュールで楽しいシーンが満載。グッドガイ人形と違って、こっちは見た目が完全に機械だが、これが次第に人の意思があるように見えてくるのが凄い。
「チャイルド・プレイ」をドローンでやる。下手すれば超ダダ滑りしそうな無謀にも思えるチャレンジだが、ルビン監督は「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」をビーバーに置き換えた前作に引き続き、今回も見事にやり切った。80分という短い時間の中に楽しい見せ場を盛り込んだ、ホラーコメディの良作である。