ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド ゾンビの誕生 : 映画評論・批評

2020年4月14日更新

※ここは「新作映画評論」のページですが、新型コロナウイルスの影響で新作映画の公開が激減してしまったため、「映画.comオールタイム・ベスト」に選ばれた作品(近日一覧を発表予定)の映画評論を掲載しております。

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史上初の人肉食い描写にとどまらない、深い示唆に富んだゾンビ映画の原点

ご存じゾンビ映画の帝王、今は亡きジョージ・A・ロメロ監督の長編デビュー作である。1960年代半ば、米ピッツバーグで小さなCMプロダクションを営んでいたロメロは、大学時代からの夢である映画製作を実現させるため、仲間とともに一念発起。予算上の制約ゆえに白黒16ミリのホラーを考えた彼らは、観客をとことん震え上がらせる映画を撮ろうと工夫を凝らした。公開後に大反響を呼んだ本作は、公民権運動やベトナム戦争などの世相になぞらえた批評も散見されたが、ロメロ本人にそうした意図はなく、彼が本格的に文明風刺を取り入れたのは「ゾンビ」(78)からだった。

それまでのヴードゥー教の呪術によって操られたゾンビではなく、墓場や遺体安置所から蘇った死者たちの恐怖を描いた本作は、映画史上初めて人肉食いのシーンを直接映像化した作品だ。それゆえにモダンなゾンビ映画の原点と呼ばれるわけだが、それ以上に重要なポイントがある。実は、怪物の群れに取り囲まれた人間が一軒家に立てこもって絶望的なサバイバルを繰り広げるという状況は、リチャード・マシスン原作の吸血鬼映画「地球最後の男」(64)から拝借したもの。それだけでなく、吸血鬼に噛まれた者は誰しも吸血鬼になるという設定をそのままゾンビに適用したアイデアが、その後のこのジャンルを決定づける礎となった。

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そう、ひとたびゾンビが発生するとクラスター、パンデミックが連鎖し、たちまち生者はマイノリティへと押しやられていく。人格がなく無感情であるゾンビは、無差別に人を襲ってゾンビ・ウイルスに感染させる。今まさに新型コロナウイルスの脅威にさらされている私たちは“ステイ・ホーム”、すなわち外出の自粛によって感染爆発を抑えようと苦心しているが、その点、本作には興味深いエピソードが盛り込まれている。知的で頼もしい黒人のベンは家を捨てて車での脱出を主張するが、自己中心的な白人のハリーは地下室にとどまろうとして激しく対立する。通常の娯楽映画ではベンの果敢な行動が報われるはずだが、本作にはそのセオリーが通用しない。なぜなら敵はウイルスのメタファーであるゾンビだからだ。

むろん製作当時のロメロは、のちにウイルス感染系と呼ばれるゾンビ映画が大流行し、ましてや現実世界がこれほど破壊的なパンデミックに見舞われるとは想像していなかっただろう。しかし今見直すと、実に示唆に富んだ映画である。主人公ベンがたどる衝撃的な末路と、その先のラスト・シーンをじっくりと見てほしい。銃器を携えた傲慢な人間たちがゾンビ/ウイルスの大厄災を“収束”させたかに思えるエンディングに、恐ろしくリアルな皮肉がこめられているように映るのだ。

高橋諭治

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