コロナ禍を乗り越えたニューヨーク・アジアン映画祭 “20周年”の節目を現地レポート【NY発コラム】
2022年8月2日 10:00
ニューヨークで注目されている映画・ドラマとは? 現地在住のライター・細木信宏が、スタッフやキャストのインタビュー、イベント取材を通じて、日本未公開作品や良質な独立系映画を紹介していきます。
2022年、ニューヨーク・アジアン映画祭が20周年の節目を迎えた。02年からスタートした同映画祭は、今では北米最大のアジア映画祭へと成長。日本、韓国、香港、中国、台湾といった東アジアの国々、フィリピン、タイ、インドネシア、シンガポールなどの東南アジア諸国から、幅広いジャンルの作品が毎年出品されている。
ニューヨークだけでなく、アメリカ国内のさまざまな州からも訪れる人々がいるほど、優れたアジア映画が集う映画祭として注目を集めてきた。今年はコロナの影響も少なく、対面形式での開催。60本の新作、クラシック作品が披露された。日本からは「シン・ウルトラマン」「Ribbon」「牛首村」「死刑にいたる病」「親密な他人」「わたし達はおとな」「破戒」「異動辞令は音楽隊!」「世界は僕らに気づかない」の合計9作品が選出。9作のうちの大半が北米プレミア上映となり、「異動辞令は音楽隊!」は、日本公開に先駆けたワールドプレミアとなった。
コロナの影響によって、これまではニューヨークを訪れることができなかった日本の俳優&監督陣も、今年は大勢参加することになった。「牛首村」の清水崇監督、「親密な他人」の中村真夕監督、「異動辞令は音楽隊!」の阿部寛と内田英治監督、「シン・ウルトラマン」の樋口真嗣監督とプロデューサーの西野智也、「世界は僕らに気づかない」の飯塚花笑監督がステージに登壇。Q&Aに参加することで、アメリカの観客に興味を持ってもらえたようだ。清水監督にいたっては、生涯功労賞を受賞。マスタークラスに参加し、同イベントに訪れた観客の質問を受けて、直接答える場も設けられていた。
今回、私が運営する「Cinema Daily US」を通じて、同映画祭の最高責任者でエグゼクティブ・ディレクターのサミュエル・ジャミエに単独インタビューを行った。そこでは、20周年を迎える同映画祭についての思いを吐露してくれた。
ジャミエ「僕自身は映画祭の設立メンバーではなくて、関わるようになったのはニューヨークのリンカーン・センターで行われるようになった2010年からなんだ(それまではアンソロジー・フィルム・アーカイブス、ザ・イマジンアジアン、IFCセンター、ジャパン・ソサエティーなどで行われていた)。その時はジャッキー・チェンが参加してくれたことで、規模が拡大できた年だった。当初は、香港のプロダクション・カンパニー『Milkyway Image』の作品や、ジョニー・トー監督作を紹介していたが、徐々に将来を見つめるようになった。ここ数年のコロナ渦では、オンラインで映画作品を見る機会が増え、あらゆる形で映画へのアクセスが可能になっている。映画祭として、何が観客に適しているのかを考えさせられる機会にもなった」
コロナ禍を乗り越え、再び対面形式で行われたニューヨーク・アジアン映画祭。今回の開催についての“本音”も明かしてくれた。
「今や多くの映画祭がオンラインでバーチャル・スクリーニングを取り入れ、ハイブリッドな形態(対面型+バーチャル型)をとることが増えている。僕らも生き残るためにコロナ禍当初は、バーチャルを行なっていた時期もあった。でも、映画祭のDNA(=核になるもの)は、僕らが選考した好きなアジア映画を観客と共有し、議論し、今どんなアジア映画が注目されているのかを、ファンに伝えること。だから、対面型で行えることが、本当に喜ばしいことだと思っている。もちろん、バーチャルにも利点はある。ニューヨーク以外にも、より世界にアジアの映画を知ってもらうことで、観客(=視聴者)を増やすこともできた。しかし、対面型で行うことこそが映画祭の醍醐味。例えば、ベネチア国際映画祭だ。このような開催都市と関係性の強い映画祭の魅力は、実際に訪れなければ楽しめないことにあると思う」
これまでさまざまなアジア諸国の映画を上映してきた。その点については「これまでよりも、良いアプローチができると思う。より多くのアジア諸国から、さまざまなジャンルの映画を上映できたらと思っている。特に東南アジア諸国の作品は、より良いセレクトができるはず。僕らはそのなかでもフィリピンの作品を支持してきた。2018年には、エリック・マッティ監督の映画「BUYBUST バイバスト」をクロージングナイト上映している。僕自身も、上映できたことを誇りに思っている作品だ」と語る。
では、ここ数年でアジア作品への人々の観点はどのように変化したのか。「自然に変化してきている感じだ。もともと僕らはファンの声を聞きながら開催してきている。この20年間、ファンとして参加した人々が、映画祭の関係者グループとして、経営にも携わっている。メンバーの大半は、アジア系アメリカ人で、そのことが選考にもしっかり反映されている。これからは、アジア人のフィルムメイカーの声を聞き、彼らの育成、アメリカと母国への橋渡しができたら良いなとも思っている。この映画祭へ“母国代表”として参加することに、誇りを持ってほしい」と語ってくれた。
映画祭に参加した日本のクリエイターたちにも話を聞くことができた。清水監督は、生涯功労賞の受賞について、思いの丈を述べてくれた。
「運良く20代から監督をやらせて頂き、そこからずっと続けてきて、こんなにもホラー映画を撮り続けるとは思っていませんでした。これは、何か呪いなんじゃないかと思っています(笑)。ホラー映画は過小評価されがちだし、差別されてなんぼのジャンルだと思っているんです。もちろん、ちゃんとしたドラマ、ヒューマンドラマには敵わなくても良いと思っている。そういう僕でも、こういった賞を頂けるのはすごく光栄ですし、日本国内ではむしろこういうことはない。やっとこういう賞をもらえる歳なのかなぁと思いますし、逆にたった50歳でもらっていいのかなぁとも思ってます。なぜなら日本国内だと、まだまだ年功序列があって、マスターとか、巨匠と言われるにはまだ若いような気がしています。でも、ありがたいことですね。こういうことがきっかけとなって、国内に戻っても、企画が通りやすく、モノを言いやすくなると良いですよね」
阿部は、アジアで最も活躍する俳優に与えられる「Star Asia Award」を獲得。日本人では初めての受賞となった。
阿部「『異動辞令は音楽隊!』で賞を頂けて、すごく嬉しいです。これまでアメリカで評価されることはなかったので、実際、お客さんの前に立ってみて、(今作での)昭和の男みたいなキャラクターが、どういう風に受け入れられるのか――その反応を見られるのがとても楽しみです。コロナ禍でアジア人に対する風当たりが強くなったということを、先ほどジャーナリストの方が言っていました。僕はコロナ渦になってから初めてのニューヨーク。だから、そう言ったことも含めて、短い滞在の間に『本当にそうなのか?』と考えながら見ていきたいです」
「シン・ウルトラマン」の樋口監督には、こんな質問をぶつけてみた。それは「日本の『ウルトラマン』にあって、アメリカのスーパーヒーローにないものは?』というものだ。
樋口監督「それは、ヒーローのアイデンティティが2つあることですね。アメリカのヒーローのアイデンティティは一つ。地球に生まれた人間が特異な運命を辿る場合か、もしくは地球外からやってきて、アメリカの世界の中でどういう風に分かりあっていくかという物語が多いんです。けれども『ウルトラマン』は、一つの体の中に宇宙から来た生命と、人間の生命が同居している。その点が、一番違うところだという気がします」
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