トライベッカ映画祭で鑑賞した注目の5作品! あらすじ&見どころを一挙紹介
2022年7月7日 14:00
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アメリカ同時多発テロ(2001年)以降、ニューヨークの復興を願って02年にスタートしたトライベッカ映画祭。20周年の節目となった今年は、6月8~19日の期間で開催され、世界中から選りすぐりの作品が集結した。そんな出品作品の中から、長年ニューヨークで暮らしている筆者が注目した5作品を紹介しよう。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
まずは、ドキュメンタリー映画。ザ・ビートルズのジョン・レノンと、オノ・ヨーコの秘書だったメイ・パンの不倫関係をとらえた作品となっており、メイ・パン本人の視点やナレーション、アーカイブ映像、当時の写真が織り込まれていく。
ニューヨークのスパニッシュ・ハーレムで育ったメイは、大学を中退し、仕事を求めてタイムズ・スクエアを訪れていた。やがて、ザ・ビートルズが設立した「アップル・レコード」の名前を目にしたことで、当時ジョンのマネジャーだったアレン・ クレインのもとで働くことになる。彼女は、ジョンとヨーコが手掛けた映画「Up your Legs Forever」「Flyo」などにスタッフとして参加することに。メイは、ヨーコに率直な性格が気に入られ、彼らの専属の秘書になっていく。
普通の女性が夢のような仕事を手にするストーリー……ではなく、ここからが興味深い。当時のジョンは、ある女性と浮気をしており、ヨーコがその現場を目撃。新たに浮気されることを恐れたヨーコが頼ったのは、その性格の良さを認めていたメイだった。メイはヨーコの願いによって、しばらくの間、ジョンと同じ時間を過ごすことになった。この期間、音楽業界では「The Lost Weekend」と言われている。ジョンとメイの関係は、ロサンゼルスへの旅行をきっかけに、恋仲へと発展してしまうのだ。
ちなみに「The Lost Weekend」には、こんな補足のエピソードも。ジョンは、しばらく疎遠だった息子ジュリアン、元妻シンシアとの関係を修復。そして、ザ・ビートルズ解散以降、亀裂が生じていたポール・マッカートニーとセッションし、歌を披露している。
リンゴ・スターのソロ・アルバム「リンゴ」に参加し、自身のアルバム「マインド・ゲームス」なども手がけるなど、ミュージシャンとしても充実した期間となっており、ジョン自身も「この時期は、最も楽しかった時期のひとつ」と振り返っている。結局、ジョンは、妻ヨーコのもとに戻ることに。本作では、ザ・ビートルズの活動で行動範囲が制限されていたジョンが“心から楽しんでいる姿”が鑑賞できる。
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次に紹介するのは、ニューヨークの伝説的ホテル「チェルシー・ホテル」を描いたドキュメンタリー。同ホテルは、ボブ・ディラン、パティ・スミス、ジャニス・ ジョプリン、レナード・コーエン、イギー・ポップといった歌手から、「2001年宇宙の旅」の原作者アーサー・C・クラークが長期滞在していたことで知られている。
本作は、常宿にしていたアーティストや著名人が多数出演したり、同ホテルを通してアメリカの文化を描くような作品とは異なったテイスト。同ホテルが改装されていた時期に、長期滞在していた人々に焦点を当てているのだ。長期滞在したアーティストの視点から、ニューヨークの芸術や文化、アーティストのオアシスだったホテルの変化をとらえている。
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製作のきっかけとなったのは、メガホンをとった女性監督Maya DuverdierとAmelie van Elmbtが目撃した光景。Amelieの前作「The Elephant and the Butterfly」がニューヨークで上映された際、試写を行った場所が、たまたま改築のために足場が設置されていた「チェルシー・ホテル」に隣接していた。やがて彼女たちは、ホテルに滞在していた老女メル・イースターに出会うことに。イースターは、やがて長期滞在していた人々を紹介。そこから「チェルシー・ホテル」で暮らすさまざまなアーティストを、映画としてとらえることになった。
劇中に登場するのは、ホテルの屋上にガーデンを作った人物、多くの動物を育てている人物、そして多種多様のアーティスト。そんな長期滞在者を快く受け入れたのが、同ホテルの前経営者スタンリー・バードだった。バードが父親から同ホテルの経営を引き継いだことで、70~80年代に多くのアーティストを輩出した“伝説のホテル”に変化していったのだ。そんなホテルの価値が、近代化の進むニューヨークで改めて問われているという点にも注目してほしい。
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被写体は、カナダのシンガーソングライター、レナード・コーエン。カルト的な人気を誇るクリスチャン・スレイター出演作「今夜はトーク・ハード」の楽曲「Everybody Knows」、代表曲「ハレルヤ」などで知られている。本作では、カナダの名門マギル大学に入学し、詩人として活動した頃から、世界各国で精力的に活動する晩年の姿などをとらえている。
大学時代から詩人だったコーエン。1960年代には、小説家として「嘆きの壁」を出版したものの、売れなかった。そこから、30歳で歌手に転身。しばらくすると、歌手ジュディ・コリンズがカバーした楽曲「スザンヌ」が、ボブ・ディランの楽曲をプロデュースしていたジョン・ハモンドの目に留まり、コロンビア・レコードと契約することになった。
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しかし、ハモンドは多忙だったため、別のプロデューサーがコーエンを担当することに。アメリカでは「コーエンは、ボブ・ディランの2番煎じみたいだ」と解釈され、商業的なヒットには恵まれなかった。興味深いのは、代表曲「ハレルヤ」が、世界的に評価されている点だ。歌手のジェフ・バックリィやk・d・ラング、「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」のジョン・ケイルらにカバーされている。
劇中では、楽曲をカバーした歌手との比較、コーエンが他の歌手に与えた影響なども描かれている。また、禅僧として6年間仕えていた時期の映像なども含まれおり、歌手を題材とした典型的な伝記映画とは一線を画している。晩年のコンサート映像も含まれており、ファンも満足する内容になっている。
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ハーベイ・ワインスタインを告発したジャーナリスト、ローナン・ファローが製作総指揮を務めた本作は、メディアの「Freedom of Speech」(表現の自由)が危ぶまれている状況を活写したドキュメンタリー。
ドナルド・トランプ政権下でフェイク・ニュースの発信者として扱われた者、ブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領から名指しで侮辱されたジャーナリスト、ギャングやドラッグが蔓延るメキシコでレイプされた女性たちの暴動をとらえるフォトグラファー、ブラック・ライブズ・マタ―の抗議運動に参加した人々を取材するなかで警官に逮捕された人物が映し出されている。また、世界中のジャーナリストの安全性、取材現地の状況を監視する「Committee to Protect Journalists」を介し、各国のジャーナリストと連絡を取り合いながら真実を追求した記事を提供する機関なども紹介されている。
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最も目を見張るのは、2020年に行われたアメリカの大統領選の光景。各地の共和党支持者は、ジャーナリストに対して、民主党を支持するメディアの記事、テレビの報道は一切見ないと語る。その“現場の声”によって、アメリカが完全に分断されているという事実を突きつけてくる。アメリカ国民のリベラル派と保守派の価値観の違いが浮き彫りになっているのだ。
もしもイーロン・マスクのツイッター社買収が実現すれば、「表現の自由」を後ろ盾にしたトランプ元大統領が、再びツイッター上で暴言を吐き、フェイクニュースだと指摘し始める――そんな未来も予測できる。情報がますます錯綜していく世の中において、本作はジャーナリズムの意義を問い質した内容となっている。
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最後に紹介するのは、Paramount+のオリジナル映画。ブライアン・クランストン、アネット・ベニングが共演し、「プラダを着た悪魔」のデビッド・フランケルが監督を務めている。州営宝くじに設けられたルールの穴に気づき、地元コミュニティを活性化させたミシガン州の夫婦ジェリー&マージの実話に着想を得た物語となっている。
地元工場で長年働きながらも強制的に退職させられたジェリー(クランストン)。余生を過ごすための趣味を持っていなかった彼は、ある日、たまたまやってみた宝くじが高確率で当たる“必勝法”を見つける。当初は密かに宝くじを買っていたジェリーだったが、妻のマージ(ベニング)、地元の友人や仲間と喜びを分かち合うことに決める。コミュニティを通じて、宝くじを購入することで、より高額な賞金を合法で得ていく――そんな夢のような展開が、ジェリーとマージを待ち受けていた。しかし、ハーバード大学の生徒タイラーが、同様の必勝法を発見。ジェリーたちは、彼と争うことになっていく。
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富を独占せず、コミュニティに賞金を分配・還元するジェリー。自らの欲望を満たすために、他の生徒たちを誘って賞金を稼ぐタイラー。彼らの対比から「何が大事なことなのか?」という部分を探求していく点も見どころのひとつ。さらに、円熟の演技で魅せるクランストンとベニング。コメディ調の掛け合いも面白い映画となっている。
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