「コーダ あいのうた」トロイ・コッツァー&マーリー・マトリンが明かす舞台裏「ある意味、歴史が作られた」

2022年3月2日 09:00


「コーダ あいのうた」
「コーダ あいのうた」

2021年4月に行われたサンダンス映画祭で、観客賞、審査員賞、監督賞、アンサンブルキャスト賞の4冠に輝き、同映画祭史上最高額の約26億円で配給権が落札された「コーダ あいのうた」(公開中)。第94回アカデミー賞では、作品賞、助演男優賞、脚色賞にノミネートを果たしている。

2月27日(現地時間)に米ロサンゼルスで行われた、全米俳優組合(SAG)の所属会員が選考するSAG賞の映画部門では、作品賞にあたるアンサンブル演技賞、助演男優賞を獲得。アカデミー会員における俳優の割合が高いため、SAG賞はアカデミー賞の前哨戦として重要な賞として知られている。

このほど、SAG賞の助演男優賞を獲得したトロイ・コッツァー、共演のマーリー・マトリン(第59回アカデミー賞では「愛は静けさの中に」で主演女優賞を獲得)が、ニューヨークのディレクターズ・ギルド・シアターで行われた特別上映に登壇。コッツァーとマトリンは、ともにろう者の俳優だ。Q&Aは手話で回答し、専門の通訳を介して、作品について語ってくれていた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)

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本作は、2014年製作のフランス映画「エール!」のリメイク。海の町で両親と兄と暮らす高校生のルビー(エミリア・ジョーンズ)。彼女は家族の中で1人だけ耳が聞こえる。幼い頃から家族の耳となったルビーは家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。新学期、合唱クラブに入部したルビーの歌の才能に気づいた顧問の先生は、都会の名門音楽大学の受験を強く勧めるが、 ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられずにいた。家業の方が大事だと大反対する両親に、ルビーは自分の夢よりも家族の助けを続けることを決意するのだが……。

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コッツァーは、ルビーの父・フランクを演じ、第94回アカデミー賞助演男優賞にノミネート。本作の脚本を読んだ際には「手話の人々を、ようやく映画の大画面で見られると思った」という。

コッツァー「多くの健常者による映画では、下品な言葉を字幕で見てきた。実は、当初『コーダ』にはR-指定がつけられていたんだが、レーティングを決めるMPAA(アメリカ映画製作者配給協会)に何度か内容を確認してもらいながら、その判定を下げてもらったんだ。もともと聴覚障害者の文化の一部には“下品な手話”が存在している。そのような“下品な手話”も描いていることが、今作のクールな点であり、脚本の魅力でもある。僕ら聴覚障害者には、長い歴史がある。(マトリンが『愛は静けさの中に』でオスカーを獲得して以来)常にひとつの映画にたいして、(主要キャストでは)ひとりの聴覚障害者しか登場しなかった。しかし、本作には息子レオ役のダニエル・デュラントを含め、(主要キャストとして)聴覚障害者が3人も出演している。ある意味『コーダ』で歴史が作られた。3人の聴覚障害者によって、真実味のある物語が展開していくんだ」

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本作が撮影されたのは、マサチューセッツ州。ルビーの母・ジャッキー役を務めたマトリンによれば、本作に登場する家は実在のものだそうだ。

マトリン「美しい海外沿いにある家で、プロダクションチームが発見しました。ロケーション・マネジャーが、マサチーセッツのグロスターで見つけたものでした。今にも崩壊しそうで、家具もどこにでもあるようなありふれたものばかり。家の構造的に多くの人を収容できませんでした。一度に家に入れるのは、数人のクルーと数人の俳優だけ(苦笑)。それが(漁師が暮らす家としての)真実味をもたらしました。家自体が個性的だったと思います」

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コッツァーは、漁船にも乗ることになった漁師という役どころについて、こう語る。

コッツァー「生まれ育ったアリゾナ州には湖しかなく、鯨を見たことがなかった。湖の柔らかな波だけを見てきたので、漁船にぶつかるような荒波には慣れていなかったんだ。まずは船酔いをどうにしかしなければならなかった。漁師の仕事は深夜の2時に起き、餌を与えると魚が活発に動く時間帯に、漁網で引き上げるのがベストだ。そして、陽が差す頃、その明るさで、ロブスター、イカ、アンコウなどを仕分けする。最初はぎこちなかったが、2週間以上も釣り船でトレーニングをしたら、その経験がフランクになるための糧となったんだ」と説明。さらに「船内では重いゴムの長靴と服、重い手袋を着用しなければいけなかった。彼らは仕事が終わると、朝10時にバーへ行く。彼らにとっては、それが酒を飲む時間帯だからね」

ちなみに、監督を務めたシアン・ヘダーに関するエピソードも明かされた。聴覚障害者が目でコミュニケーションを図ることを知ったヘダー監督は、セット内での家具の配置に気を払ったようだ。また、コッツァーには、5カ月間も髭を剃ったり、髪を切らないように依頼。「フランク=父親の死で高校を中退。その後、漁師になった」という設定も話していたそうだ。

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話題は、ルビーとフランクが登場するシーンに転じる。トラックの荷台で話し合い、やがてルビーが歌を披露する場面について、コッツァーが語り始めた。

コッツァー「ルビーとフランクは、大体30センチぐらいの間隔を空けて座っていた。フランクが、ルビーに歌うように指示すると、2人はさらに近づくことになる。でも、フランクはルビーの歌が聞こえない。だから、彼女の表情を通じて、感情を読みとろうとするんだ。その時、フランクは、普段とは全く異なったルビーの表情を見ることになる。そこで、彼女の歌がどんな感じなのかを知りたくなった。ルビーの声帯は、(触ると)少し柔らかかったので、声量をあげるように頼む。そして、目を閉じ、その他全てのことを切り離して、ルビーの音楽への情熱を理解しようとするんだ。声帯の振動が止まると同時に、フランクは自分に欠けている部分を認識することになる。それは、ルビーが漁師の仕事を手伝うということを当然だと思い、彼女の才能を無視していたというものだ。さらに自分が利己的で、娘を手放すことに苦労していたということを理解する。フランクにとっては、厳しい瞬間なんだ」

フランクの複雑な内面を明かしたコッツァー。すると、マトリンは「(同シーンは)わずか1時間で撮影したんです」と補足してくれた

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マトリンが言及したのは、ルビーとジャッキーがベッドルームで会話をするシーンについて。ルビーは「自分も聴覚障害者として生まれてくることを望んだのか?」とジャッキーに問う。母としては複雑な心境だろう。マトリンは、同シーンの撮影を振り返りつつ、ルビーに扮したジョーンズの芝居を絶賛する。

マトリン「ジャッキーは、ルビーにどのように話しかけていいのわからないでしょうし、私自身もジャッキーの心にどうやって入り込んでいくのかを想像しなければなりませんでした。母として何を感じ、何を恐れ、どのような背景が、彼女にそのような行動をとらせるのかを考えなければいけませんでした。実生活での私は、4人の子どもを育てており、全員が健常者です。子どもたちからは『聴覚障害者として生まれてくることを望んだことがある?』とは聞かれたことがありません。彼らはそう思っていたのかもしれない。でも、声にしたことはなかった。だからこそ、ジャッキーという役柄に飛び込んで、自分なりに表現しなければなりませんでした。でも、これから女優として大輪の花を咲かせようとしている彼女(=ジョーンズ)の演技が、私の恐怖を打ち消し、ただ演じることができたんです」

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