「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」は、成長し続ける日本のアニメ映画の答えの一つ!【コラム/細野真宏の試写室日記】
2022年6月11日 17:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」が6月11日(土)に公開を迎えました。
「ドラゴンボール」は週刊少年ジャンプで1984年から10年半にわたって連載された大人気マンガ。連載終了後もアニメ化、ゲーム化などで展開し、すでに40年近くも世界中で愛され続けているコンテンツになっています。
このような長寿アニメーションの代表的なものには、日本では「名探偵コナン」「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」「ちびまる子ちゃん」「サザエさん」などがあります。
実は「ドラゴンボール」は、これらの代表的な作品とは大きく異なる設定となっているのをご存じでしょうか?
それは、他の長寿アニメーションとは違って、「ドラゴンボール」は“時間が経過し、登場人物の年齢が変わる物語”となっているのです!
別の言い方をすると、他の長寿アニメーションの場合は、基本的に「年齢が止まったまま」の状態になっています。
例えば、「名探偵コナン」では主人公コナンが「小学1年生」、「ドラえもん」では主人公のび太が「小学5年生」(原作マンガでは基本、小学4年生)。
そして「クレヨンしんちゃん」では主人公しんのすけが「5歳児」、「ちびまる子ちゃん」では主人公まる子が「小学3年生」となっています。
また、「サザエさん」にいたっては、1969年から続く“世界で最も長く放映されているテレビアニメ番組”で「ギネス世界記録」を保持しているだけあって、磯野家の3姉弟(サザエ、カツオ、ワカメ)の父である磯野波平は「永遠の54歳」となっています。
この54歳という年齢は、今となっては“見た目とのギャップ”がありますが、戦後から1970年代の途中までは55歳で「定年退職」をする時代でした。そのため、今の長寿化の時代から見ると違和感も出てくるわけです。
このように、長寿アニメーションが成立する大きな背景には、「年齢を止める手法」があるのです。
ところが、今回の「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」を見て実感したのは、「ドラゴンボール」では、時が現実社会のように流れている、ということでした。
例えば、主人公の「孫悟空」は誰もが知っている存在でしょう。
でも、本作では「孫悟空に“孫”がいる」ことを改めて実感できました。
ここで、「えっ、そうなの?」と思った人のために、簡単に人物紹介をしておきます。
まず、「孫悟空」と「チチ」が結婚して、長男「孫悟飯」が生まれ、次男「孫悟天」も生まれています。
次に、「ベジータ」と「ブルマ」が結婚して、長男「トランクス」が生まれ、長女「ブラ」も生まれています。
さらに、「孫悟飯」と「ビーデル」(ミスター・サタンの娘)が結婚して、長女「パン」が生まれています。
ちなみに、前作の「ドラゴンボール超 ブロリー」では「ブルマ」の娘「ブラ」は赤ちゃんだったので、設定を考えると、本作は「ブラ」が2歳になった状態でしょうか。
そして、本作に登場する「孫悟飯」の長女「パン」は3歳になっています。
このように、「ドラゴンボール」は、時がどんどん流れていくので主要な登場キャラクターが増えていくのです!
これは、「孫悟空」を筆頭にサイヤ人という設定が大きく関係していて、地球人の年齢より長寿なので、特に大人の場合は見た目が変わらない、という特性を上手く利用した芸当と言えるでしょう。
さて、本作では、かつて「孫悟飯」の師匠だった「ピッコロ」は、今では「パン」に修業をつけています。
と、ここまでくると、人物関係において「?」が浮かぶのかもしれませんが、そこは本作の原作・キャラクターデザインも務める鳥山明による脚本が光っています!
本編を見てみると、上手く会話の中で位置関係が分かるように整理されているのです。
そもそも、「ドラゴンボール」の映画は2013年に(17年ぶりに!)第18作目の映画「DRAGON BALL Z 神と神」が作られました。それがヒット&復活した背景には、原作者・鳥山明が脚本の段階から深く関わったことが関係しています。
2015年の第19作目「ドラゴンボールZ 復活の『F』」では鳥山明が脚本とキャラクターデザインを手がけ、興行収入37.4憶円を記録。
そして、2018年の第20作目「ドラゴンボール超 ブロリー」へと続くのですが、特に後半の「孫悟空」×「ベジータ」VS「ブロリー」の戦闘シーンの作画のクオリティーが“必見レベル”で凄まじい完成度になっていました。興行収入40億円を記録し、世界興行収入では135億円を突破しています!
ただ、この圧倒的な作画を見ていて思っていたのは、「長時間にわたる激しいアクションシーンが増えるほど手間が膨大に増えていき、作画の統一性に問題が生じ得る構造になっている」ということでした。
ところが、日本のアニメ制作会社で最も長い歴史をもつ東映アニメーションが、これまでの試行錯誤の結果、遂に“最新鋭の映像表現”により、映像のクオリティーを最高密度の状態で維持することに成功したのです!
私は前作の「ドラゴンボール超 ブロリー」の作画の凄さに驚きましたが、本作でもまた別の意味で驚かされました。
アクションシーンが多くあっても、映像のクオリティーの高さを維持しつつ、統一性の問題もクリアしていたのです!
おそらく本作が、成長し続ける日本のアニメーション映画における表現手法の答えの一つになると感じています。
本作は、日本のアニメーションにおいて転機となるような大作なのですが、当初は今年の4月22日にGW公開する予定でした。ところが「不正アクセス」問題が発生し東映アニメーションの制作の一部が止まる事態に発展し、公開日が今週末6月11日となった経緯があります。
そのため、GWという映画の繁忙期を逃してしまうことになったわけです。
本来であれば、興行収入40億円クラスが期待できますが、繁忙期を逃しているため、まずは興行収入30億円突破が最初の目標になると思われます。
しかも、本作では、これまでのメインのキャラクターにもちょっとした変化があって、これはこれで「ドラゴンボール」の世界観を広げられる面白い試みだと感じました。
なお、エンドロール後にも映像が流れるので、最後まで席を立たないようにしましょう!
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