作者と作品は切り分けられるのか?――論争を巻き起こすもベネチア受賞、本国100万人超のヒット「オフィサー・アンド・スパイ」 ポランスキーが歴史的冤罪事件を撮った理由を語る
2022年6月3日 15:00
2019年・第76回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞したロマン・ポランスキー監督の最新作で、19世紀のフランスで起きた歴史的冤罪事件“ドレフュス事件”を映画化した「オフィサー・アンド・スパイ」が公開された。
「ローズマリーの赤ちゃん」「チャイナタウン」「戦場のピアニスト」など数々の名作を世に残したポランスキー監督だが、77年に少女への淫行でアメリカの裁判所から有罪判決を受け、仮釈放中にヨーロッパへ脱出。その後も複数の女性が性的被害を受けたと名乗り出て、今も米国当局はポランスキー監督の身柄引き渡しを求めている。
#metoo運動の高まりとともに、ポランスキー監督の過去が再び物議を醸す中、フランスで公開された本作は、観客動員100万人を超える大ヒットを記録。セザール賞では12ノミネート、3部門受賞(監督賞、脚色賞、衣装デザイン賞)。映画のテーマ性やクオリティの高さが絶賛される一方、フェミニスト団体がノミネーション発表の段階から抗議運動を繰り広げ、授賞式では「燃ゆる女の肖像」のアデル・エネルが、ポランスキー監督に「恥を知れ」と叫び退場。「作者自身と、作品は切り分けられるのか?」という論争を巻き起こした。
もちろん自身の問題については言及していないが、ポランスキーが作品を語るインタビューが公開された。
映画は、作家ロバート・ハリスの同名小説が原作。1894年、ユダヤ系のフランス陸軍大尉ドレフュスが、ドイツに軍事機密を漏洩したスパイ容疑で終身刑を言い渡された。対敵情報活動を率いるピカール中佐はドレフュスの無実を示す証拠を発見し上官に対処を迫るが、隠蔽を図ろうとする上層部から左遷を命じられてしまう。ピカールは作家ゾラらに支援を求め、腐敗した権力や反ユダヤ勢力との過酷な闘いに身を投じていく。
大事件を元にした優れた映画は多くありますが、ドレフュス事件は傑出した物語性があると思います。“冤罪をかけられた男”というのは話として魅力がありますし、反ユダヤの動きが活発化している現代にも通じる問題です。まだ若かった頃、エミール・ゾラの半生を描いたアメリカ映画でドレフュス大尉が失脚するシーンを見て、打ち震えました。その時、いつかこの忌まわしい事件を映画化すると自分に言い聞かせました。
ドレフュス事件について取り上げるというと、誰もが好意的な反応でした。しかし、実際にどんな事件なのか知っている人は、少ないことが分かってきました。実体が知られないままに、みんなが知っていると思ってしまっている歴史上の出来事のひとつです。(制作については)「7年前に企画を話した時、アメリカの支援を受けるには英語での制作が必須と言われました。でも、フランスの軍人たちが揃って英語を話す姿は想像できません。リアルさを再現するためにフランス語でこの映画を作りたかったんです。それから、2018年にプロデューサーからフランス語での制作を打診され、ついに撮影をスタートすることができました。
ジャン・デュジャルダンは対敵情報活動を率いるジョルジュ・ピカール役にぴったりだと思いました。ピカールにそっくりだし、年齢も同じで、素晴らしい俳優です。映画にはスターが必要で、アカデミー俳優のデュジャルダンは適任です。彼を選んだのは当然の流れで、彼は喜んで引き受けてくれました。
ピカールは自分の信念に従い、軍の考えに服従するより真実を知ること選まびした。ドレフュスがスパイとされたことに疑念を持ち、ピカールは軍の制止を振り切り捜査を続け、真犯人を示す証拠を見つけるのですが、核心に迫るほど、軍の過ちがもたらした問題の渦中に自分がいることを畏れるようになります。
現代のテクノロジーでは筆跡鑑定の不備で有罪になるようなケースはありえないでしょう。昔は軍隊が無限の権力を持っていましたが、もはや神聖な存在なんてありえません。今日の私たちは軍隊を含め全てに対して批判することを許されています。しかし、別の事件が起こる可能性は十分あります。冤罪、ひどい裁判、腐敗した裁判官、そして、ソーシャルメディア。事件が起こりうる要素はすでに揃っています。
私にとってこの映画はスリラーです。ピカールの主観的な視点で語られている。観客は彼とともに捜査を進めている感覚になります。また、重要な出来事やセリフの多くは、当時の記録から事実を忠実に描いています。
いや、そんなことはありません。私の作品はセラピーではないです。ただこの映画で描かれている迫害の多くを知っているのは認めざるを得ないし、それが僕を奮い立たせたのは事実です。
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