登場人物の安全を守るため、アニメ制作されたドキュメンタリー オスカー3部門ノミネート作「FLEE」予告
2022年5月4日 13:00

第94回アカデミー賞で、史上初となる国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー映画賞、長編アニメーション映画賞の3部門への同時ノミネートを果たした「FLEE フリー」の日本版予告編がお披露目。映像の冒頭には、「紛争や迫害により故郷を追われている人は8400万人を超える」「この映画は登場人物の安全を守るためアニメーションで制作された」という言葉が、重々しく映し出されている。
本作は、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フランスの合作映画。難民やアフガニスタンをめぐる恐ろしい現実、祖国から逃れて生き延びるために奮闘する人々の過酷な日々、ゲイである青年が、自身の未来を救うために過去のトラウマと向き合うさまを描く。2021年のサンダンス映画祭のワールド・シネマ・ドキュメンタリー部門では最高賞にあたるグランプリ、同年のアヌシー国際アニメーション映画祭では最高賞となるクリスタル賞を含む3部門で受賞に輝いた。ドキュメンタリー、アニメという表現の垣根を越え、ジャンル横断的に高い評価を受け、各国の映画祭で136部門ノミネート、82受賞を達成している(4月12日時点)。
アフガニスタンで生まれたアミンは幼い頃、父が連行されたまま戻らず、残った家族とともに命がけで祖国を脱出した。やがて家族とも離ればなれになり、数年後、アミンはたったひとりでデンマークへと亡命。時は流れ、30代半ばとなった彼は研究者として成功をおさめ、恋人の男性と結婚を果たそうとしていた。しかし、彼には20年以上抱え続ける秘密があった。あまりに過酷な半生を、彼は親友である映画監督(本作のヨナス・ポヘール・ラスムセン監督)の前で、静かに語り始める。

予告編では、アミンが誰にも明かしたことのなかった自身の過去を、ラスムーセン監督に語り始める。幼少期の壮絶な過去や、恋人にさえ自身の経験を話すことができていないという現在の苦悩も切り取られている。一方で、「変わるべき時だ」「これが僕の物語の始まりだ」など、自身のトラウマと向き合った上で、一歩踏み出そうとするアミンの強い覚悟の言葉もおさめられ、未来への希望も感じさせる映像となった。
映像には、本作を絶賛する歴代のアカデミー賞受賞監督によるコメントも収録。アルフォンソ・キュアロン監督(「ROMA ローマ」)は、「人を立ち止まらせ、考えさせる。この映画は愛で出来ているのだ」と賛辞をおくる。ポン・ジュノ監督(「パラサイト 半地下の家族」)は、「今年見た中で、最も感動した映画。涙が出た」とコメントを寄せ、21年のベスト映画の1本にも選出している。
アミンがデンマークに亡命を果たした直後、16歳の頃からの旧友だったラスムセン監督。若い頃、好奇心からアミンに過去について尋ねたが、彼は何も語ろうとしなかったという。それから約20年の時を経て、アミンは心境の変化もあり、本作の製作に同意。ラスムセン監督は、アミン本人の声と記憶を通して彼の物語を聞きたいと考え、彼の心のペースに寄り添いながら、約4年をかけて断続的にインタビューを敢行した。
ラスムセン監督は、「ラジオドキュメンタリー制作で長年培ってきたインタビューの手法を用いました。取材対象に、横たわって目を閉じ、かつて目にした光景や匂い、感触を思い出してもらいます。そうすることで、記憶がより強く直接的なものになり、まるで今まさに展開していることのように感じられるのです」と解説。その上で「初めて話す」という行為が持つエネルギーを重視し、事前に聞いた内容を改めて語ってもらう“再現”は一切行っていないと明かした。
「FLEE フリー」は、6月10日に東京の新宿バルト9、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国で順次公開。
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