「劇場版ラジエーションハウス」は、第2の「コード・ブルー」になれるか?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2022年4月29日 09:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
高齢化などで医療に関心が集まる中、医療を題材とするテレビの連続ドラマが増える傾向にあります。
そして、視聴率も好評なことが多く、定番になりつつあります。
これは、専門的な医療の知識や課題などを、楽しみながら知ることができるので良い傾向だと思います。
ただ、この医療を題材とするドラマは好評でも、実は日本(いや世界?)で大ヒットした医療系の映画というのは、ほぼ存在しないのです。
それは、映画ならではのダイナミックな展開を医療サイドの面からエンターテイメントとして見せることの難しさがあるようです。
そんな構造がある中、2018年に日本で初めての成功事例が出てきました。
2008年にフジテレビのオリジナルの連ドラで登場した「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」は平均世帯視聴率が15.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区。以下同)と好評を博し、「ドクターヘリ」の存在を一般常識にまで高めることに成功しました。
そして、2010年に「月9」に昇格し2nd seasonが放送され、 平均世帯視聴率が16.6%と、さらにアップしました。
2017年には「月9」枠で3rd seasonが放送され、平均世帯視聴率が14.8%となっていました。
この流れで2018年7月27日に「劇場版 コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」が公開されます。
私は、連ドラ版を見たことがなく、試写室で初めて「劇場版 コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」から見たのですが、一言でいうと「面白い!」という感想でした。
ただ、それまでも医療系に関する映画はいくつか登場していましたが、出来が良いものも含めて興行収入はパッとしない現実がありました。
それを考えると、どうしても悲観的に考えざるを得ない面がありましたが、それでも「劇場版 コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」はスケール感も含めて「映画」として成立していて、高いポテンシャルを感じました。
そこで、公開前段階で「興行収入50億円は狙えるのでは」と強めの想定をしましたが、公開するとその想定を大きく上回り、興行収入93億円という異例の大ヒットを記録しました!
「これで医療の問題や課題などが広く伝わるようになる」と期待を持ちましたが、あまりに異例すぎる大ヒットだったためか、「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」をプロデュースした中心人物がフジテレビから独立してしまうなど、続編の見通しが立ちにくい状態になってしまいました。
その後もフジテレビに限らず、各局で医療系のドラマが作られ続けています。
そんな中で登場したのが、 2019年からフジテレビの「月9」で放送された「ラジエーションハウス 放射線科の診断レポート」です。
この作品は原作マンガが存在し、X線撮影などを駆使し病変を写す「診療放射線技師」と、その画像診断や放射線治療をしたりする「放射線科医」の活躍を描くという興味深い医療系の作品になっていました。
この連ドラも私は見てはいませんが、窪田正孝の「月9」初主演作となっていて、放送前の感触では「少し弱いかも」と感じていました。
ところが、「ラジエーションハウス 放射線科の診断レポート」の放送が始まると、この窪田正孝主演が功を奏したようで、トレンドワードに「窪田正孝の腕の筋肉と血管」が上がっていました。
それは、作中で自然に、痩せ型の窪田正孝の腕の筋肉と血管が強調されることになり、それに魅せられる視聴者が殺到したのです。
まさに窪田正孝のハマり役となり、ここからブレイクが始まったように感じました。
「ラジエーションハウス 放射線科の診断レポート」の平均世帯視聴率は12.1%となっていて、現在のテレビ離れが進む状況では「好調」と言える結果でした。
そして、2021年に続編となる「ラジエーションハウスII 放射線科の診断レポート」も「月9」で放送され、平均世帯視聴率は10.7%と2桁維持になっています。
この流れを受け、今週末の4月29日(金)から満を持して「劇場版ラジエーションハウス」が公開されます!
実は、 2019年に「ラジエーションハウス 放射線科の診断レポート」が初めて放送された段階から、私には1つの大きな興味がありました。
それは、第1話放送直後のトレンドワードに「コード・ブルー」という言葉が出ていたからです。
つまり、視聴者の側も、第2の「コード・ブルー」を欲していた面があったようなのです。
以上の予備知識を基に「劇場版ラジエーションハウス」の考察をしてみたいと思います。
まず、ドラマ版を全く見たことのない私でも、登場人物などの関係が分かり、すぐに作品の世界感に入り込むことができました。
その点では、「劇場版 コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」と同様でした。
そして、確かに共に「月9」枠のドラマの映画化ということなのか、「劇場版ラジエーションハウス」と「劇場版 コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」は構造が似ていました。
ただ、私は「劇場版ラジエーションハウス」を見ながら、もう1つの作品も思い浮かべていました。
これは、映画のエンドロールを見た際に納得したのですが、メガホンをとったのは「HERO」の鈴木雅之監督で、しかも音楽も「HERO」の服部隆之でした。
つまり、「劇場版ラジエーションハウス」を一言でいうと、「HERO」×「コード・ブルー」のような作品となります!
しかも、「コード・ブルー」と同様に医療の監修陣がしっかりサポートしていて、医療面での物語もかなり面白くなっていました。
予告編では「謎の感染症」というものが出ていて、それは今だと新型コロナを思い浮かべてしまう面もあるでしょう。
ただ、映画は「令和5年という設定」で、良い意味で医療現場におけるリアリティーのある物語となっていました。
「劇場版 コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」と同様に、舞台は様々な場所に移りますが「一連の流れ」はかなり上手く構築されていて、スケール感も含めて「映画」として非常に良く出来ています。
「HERO」と「コード・ブルー」にも共通する「チーム感」と「恋愛模様」もキチンと描かれていて、予備知識が無くても「医療の面白さや重要性も体感できる作品」だと思います。
さて、最後に肝心の興行収入についてですが、コロナ禍は、医療系の映画には逆風状況とも言える面があります。そのため、「劇場版 コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」の時のようには強気になれません。
本来は興行収入20億円は行ってほしいところですが、興行収入15億円くらいになってしまう予感もあります。
医療系の映画は、医療現場の現状や課題などを知るために非常に重要なツールだと思うので何とかヒットしてほしいところですが、コロナ禍という特殊な環境が心理にどのような影響を及ぼすのか注目したいと思います。
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