横浜流星に託した主演の座 「線は、僕を描く」製作背景を解説【映画プロデューサー・北島直明を知ってるか!? 第9回】
2022年3月23日 12:00
「ちはやふる」3部作を成功に導いた小泉徳宏監督が、砥上裕將氏の「線は、僕を描く」(講談社刊)を実写映画化し、横浜流星が主演を務めていることが3月23日に発表された。映画.comでは、今作のプロデューサーである北島直明氏に密着する不定期連載の第9回としてインタビューを敢行し、今作を映画化するに至った経緯、主演に横浜を起用した理由に迫った。(取材・文/大塚史貴)
「ちはやふる 上の句」「ちはやふる 下の句」「ちはやふる 結び」で競技かるたの世界を描いた小泉監督と北島氏が、再タッグで描くのは「水墨画」の世界。横浜が演じる大学生の青山霜介は、家族を不慮の事故で失った喪失感を抱えながら生きてきたが、ある日、絵画展設営のアルバイト中に、「水墨画」に出合う。白と黒のみで表現された画のはずなのに、色鮮やかな世界が広がることに目を奪われた霜介に「弟子になって、水墨画をやってみない?」と声をかけたのは、水墨画の巨匠・篠田湖山。初めての世界に戸惑いながらも、湖山の孫や弟子たちと共に、その世界に魅了されていく……。
北島氏は「ちはやふる 結び」の公開後、小泉監督と次回作の開発に着手したが、互いのスケジュールの都合などで調整がつかなかったという。そんななか、紆余曲折を経て今作に巡り合ったそうで、「新型コロナウイルスの影響などもあり、スケジュールを1年飛ばすことにしたのですが、本当は2020年に撮影するつもりで動いていた作品でした」
水墨画の世界を描くに至った経緯を聞いてみると、興味深い話が返ってきた。
「水墨画を題材に選んだというよりは、この原作を選んだら、それが水墨画だったということです。原作を読んだとき、主人公の青年が解決しようのない悩みを抱えたまま、それでも頑張って生きようとする精神性に惚れたというのは間違いありません。水墨画って勉強すればするほど面白いことが分かりました。水彩画や油絵みたいに写実的に描くものではないんです。水墨画って線で描くものだから、色を塗らない。塗っているように見えても、それは太いか細いかの違いで、線で描くんです。使うのは墨、水、紙だけ。その日の気温、湿度、室温などによって環境が変わるので、どんなに大作でもすぐに書き切らなければならない。対象となる自然、木や花から漂う命というものを自分で解釈して転写していくさまが、映画ではきちんと描けていると思います」
“線を描く”という一瞬を切り取るということでいうと、それは小泉監督の真骨頂といえるかもしれない。「ちはやふる」で見せた広瀬すず、松岡茉優らが奏でた奇跡的なかるたシーンを漏れなく逃さなかったことは、記憶に新しい。
喪失感を抱えた主人公の内面について、開発期間を使ってどのように深堀りしていったのか聞いてみた。
「監督は、『大切な人の死をトラウマとして抱えながら生きている人を、暗いキャラクターとして描きたくない』という考えを持っていました。トラウマを乗り越えたからといって、大切な人の死を忘れるわけではない。その死を抱えながら生きることになるわけです。実際にそういう思いを抱えて生きている方にお話をうかがった際にも、『そのことばかりを考えてしまうと気持ちがそっちへ行ってしまうから、『忘れる』のではなくて、『いまやるべき事』を考えながら生活しています』という言葉を聞き、この作品は、そう描くべきだという思いで製作しました」
湖山に弟子入りした霜介だが、その“悲しい記憶”が成長を阻んでしまう。だが、家族を失って以来、「からっぽ」だった霜介の中に、水墨画の世界を通して“命”が流れ込んでくる。本編でも、横浜が息吹を注いだ霜介の成長過程は、見どころのひとつと言い切ることが出来るだろう。
「小泉監督のすごいところは、余分な説明を全くしなくても映像から登場人物の成長しているさまが確実に見て取れるんです。霜介の成長ぶりが見事に描かれているから、そのあとの説明も一切いらないんですね」
そして、主演の座を託した横浜についても、北島氏にたっぷりと話をしてもらった。北島氏にとっては、「オオカミ少女と黒王子」以来、2度目の作品となる。
「ある時、横浜さんの芝居を久しぶりに目の前で見て、“めちゃめちゃ凄い!”と驚いたんです。それから、『いずれは……』という思いで機会を探っていました。最近の活躍ぶりを見ても、きっと色々な作品で経験を積み、色々な芝居を身に付けて、ずっと勉強をし続けてきたからの結果なんだろうな、と思っていました。この原作を見つけたとき、これこそ横浜流星という役者に託すべき役だと感じましたし、『一緒に戦ってほしい』という願いを込めました」
製作サイドのそれだけの思いに応えるだけの芝居を、横浜が体現していると期待していいか確認すると、「今の横浜流星さんだったら、どの監督、プロデューサーだって自分の作品に参加してもらいたいと思うほどに実力も兼ね備えた役者だといえます。本当に良い顔をしていますよ。格好いい! そして一番の魅力は芝居に真面目なところだと思います」と太鼓判を押している。
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