【映画プロデューサー・北島直明を知ってるか!? 第8回】廣木隆一監督という才能に惚れるこれだけの根拠

2022年1月23日 11:00


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ちはやふる」シリーズ、「キングダム」「AI崩壊」「新解釈・三國志」など、精力的に映画製作を続けるほか、連続ドラマ「ネメシス」のプロデュースも手掛けた北島直明氏に密着する不定期連載の第8回。今回は、「デスノート」シリーズを大ヒットに導いた藤原竜也松山ケンイチが再共演を果たした「ノイズ」について。メガホンをとった廣木隆一監督とは実に4度目のタッグとなったわけだが、どのような時間軸を経て今作に至ったのか、2人の対談という形でお届けする。(取材・文・写真/大塚史貴)

ノイズ」の舞台は、絶海にぽつりと浮かぶ猪狩島。過疎化に苦しんでいたが、泉圭太(藤原)が生産する“黒イチジク”が高く評価され、地方創生推進特別交付金5億円の支給がほぼ決まり、島民たちには復活という希望の兆しが見えていた。そんな島にある日、元受刑者でサイコキラーの小御坂睦雄(渡辺大知)がやってくる。そうとは知らない圭太と幼なじみの猟師・田辺純(松山)、新米警察官の守屋真一郎は、小御坂の不審な言動に違和感を覚えて追いつめるが、圭太の娘の失踪を機に、誤って小御坂を殺してしまう--。

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――北島さんは同じ監督と間隔を空けながら二度、三度と仕事を共にしながら濃度を深めていく印象が強いのですが、廣木監督とは「オオカミ少女と黒王子」「PとJK」「ママレード・ボーイ」に続き、4度目のタッグとなりましたね。

北島:そうですね、4本目になります。ただ、これまでの3作品は僕が監督にオファーをしたものではなく、他のプロデューサーと一緒に作ったもの。今回は監督とゼロから作り上げた初めての企画になりました。今までは少女漫画原作という商業ベースのものを作ってきたわけですが、そもそも監督とサスペンスの相性がすごく良いとずっと思っていたんです。それに以前、監督が「『スリー・ビルボード』が面白いねえ」と話をされているのを覚えていたこともあって、今回の企画をご一緒したいとご提案しました。

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廣木:北島さんと飲んでいて、何がやりたいのか聞かれたから、具体的な話ではなく「サスペンスがいいかな」と話したのを忘れないでいてくれたんですよ。

ふたりが話題に挙げた「スリー・ビルボード」は、第90回アカデミー賞で主演女優賞と助演男優賞の2部門を受賞したマーティン・マクドナー監督作。米ミズーリの片田舎の町で何者かに娘を殺された母親が、犯人を逮捕できない警察に業を煮やし、抗議のために巨大な3枚の広告看板を設置する。その看板をきっかけに、住民や警察の間に諍いが生まれ、事態は思わぬ方向へと転がっていく……というストーリーだ。

――「ノイズ」を選んだのは、どちらだったのですか?

北島: 設定がすごく面白くて、僕の方から提案をさせてもらいました。廣木監督とサスペンス、というテーマで題材を捜していたんです。監督もおっしゃっていますが、SNS社会って非常に閉鎖的だと思うんです。一部の事象に対し、顔の見えない人たちが集中砲火するという……。「ノイズ」の場合は、実際にリアルなところでそれが繰り広げられていく。しかも、最初から犯人が分かった状態で物語が進行していくのも面白い。閉鎖された島の話なので、登場人物の芝居がじっくりと見られると思ったんです。「スリー・ビルボード」の話もありましたから、監督はきっと引き受けてくださるんじゃないかという確証を持ちながらお持ちした感じです。

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廣木:閉鎖された社会というか地方を舞台にしているところが、現在の日本っぽいなとも思いました。脚本を作るうえでこの着地点を見つけられれば、この映画はうまくいくんじゃないかという気がしたのを覚えています。

――廣木監督は北島さんと4作品を共にして、プロデューサーとして最大のストロングポイントはどんなところだと感じられましたか? 一方の北島さんは、廣木監督の“魔力”を言語化してもらえますか?

廣木:やっぱり鍛えられていますよ。疑問をぶつければ明確な答えが返ってくるから、すごく安心していられましたね。僕らは作品のクオリティのことだけを考えていればいいなと思わせてくれて、すごく楽な態勢でした。

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北島:現場でサプライズがあるんですよ。脚本って設計図だからその通りやっていくんですが、一方で机上の空論でもあるわけです。現場で生まれるものを監督は大事にされているから、『このシーンをこんな風に撮るんですか?』と驚かされる面白さはあります。それは魔力というより監督の演出の狙いなんでしょうが、『この脚本を監督だったらどう撮ってくれるんだろう?』という期待が大きくなるんですよ。

監督は僕のストロングポイントを話してくれましたが、僕ひとりでは無理なんです。里吉優也さんという何本も一緒に組んでいるプロデューサーはじめ、廣木組のサプライズを構築するためには、スタッフと撮影環境を整えないことには監督のやりたいことが実現できません。最初にご一緒した「オオカミ少女と黒王子」の時だって、初日にいきなり食らいましたから。

廣木:何かしましたっけ?

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北島:オープニングのシーン、渋谷の街で1カット長回しの撮影したじゃないですか。「ここまでしか撮影しちゃダメですよ」というエリアを平気で越えちゃって(笑)。あの作品は、山崎賢人さんと二階堂ふみさんが出会うシーンをいかにドラマティックに撮るかが肝になるなかで、あれを渋谷の街中でいきなり1カットでやるわけですよ。「すごいなあ」と思うとともに、笑いが込み上げてきますよね。

――企画の成り立ちが異なるにせよ、過去3作とは随分と趣の異なる作品になりましたね。そういえば何年も前、地方の映画祭で監督とお会いした際、『北島さんとはいずれ違うタイプの作品で勝負してみたいね』とおっしゃっていたのを思い出しました。今作は、そういう意味合いも含まれているんですね。

北島:ありがたい話ですね。僕はよく「表の廣木、裏の廣木」と言っているんです。「ヴァイブレータ」や「軽蔑」「彼女」などを“表”と分類していますが、どちらが良い悪いという話ではありません。商業映画をきちんと撮りながら、映画然とした作品も両輪で走らせている監督って好きなんです。今回も商業ベースの作品ではありますが、トレンド的なものではないところで勝負したいとずっと思っていましたから、引き受けてくださって嬉しかったんです。

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――北島さんは主演の藤原さんと何本もご一緒されていますよね。今回は父親としての眼差しという、新たな表情も見せてくれました。

北島:最初の仕事は、AP時代の「カイジ2 人生奪回ゲーム」だったんですよ。キャスティングで初めてご一緒したのは「藁の楯 わらのたて」。その後、協力プロデューサーの「MONSTERZ モンスターズ」を経て、「22年目の告白 私が殺人犯です」と声優として参加してもらった「ルパン三世 THE FIRST」もありましたから、今回が6本目なんですよ。

廣木:すごい! 僕はふたり(藤原と松山)とも初めてでした。芝居の立ち位置と映画の向かうべき場所とをちゃんと考えられる人だとは思っていましたけれど、今回ご一緒してみて改めてそう思いましたね。藤原さん特有のお芝居に関しては、このままでいくのがいいのか、それを変えた方がいいのか。そこについては悩んだところです。

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北島:藤原さんに初めて会った時、僕は31歳で彼はまだ20代だった。年齢を重ねれば、互いに変わっていくじゃないですか。「22年目の告白」は彼のフィルモグラフィーを逆手にとった企画でした。藤原竜也=殺人犯役という皆の想像を逆手にとったわけです。もともとサスペンスの相性がいいうえに、新たに父親としての目線が加わることで藤原さんの人間的な成長を観客に届けられる。また廣木監督とこれまでご一緒してきて、家族の距離感とか描き方をすごく緻密に考えられていた印象があったので、この組み合わせは面白いんじゃないかと感じました。

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――さらに、藤原さんと松山さんがいたからこそ、神木隆之介さんの芝居が伸びやかで素晴らしかったですね。彼が上手なのは、もはや言うまでもないことですが……。

北島:主演を張ってきた方が、主演じゃないときってすごく楽しそうですよね。主演としての責任やプレッシャーから解放されて、監督が芝居をするうえで自由に泳がせてくれる。しかもどんなに自由にやっても頼りがいのある兄さんが2人いて、トメには永瀬正敏さんもいてくれる。こんなに楽しい現場はないと思いますよ。

廣木:そうだよねえ。立ち位置が本当にいいところにいたから。あるシーンの時も、『こんな役、僕やったことありませんよ』みたいな顔をして楽しそうにやっていました。あとは、とにかくしっかりしている。そして、周囲をよく見ている。現場で台本を開いているのを見た事がないし、大事なシーンの時も何事もなかったかのように普通に現場に入ってくる。その感覚は、長いキャリアによるものなのかね。

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――詳述は避けますが、猪狩島町長・庄司華江役の余貴美子さんと島民・横田庄吉役の柄本明さんのシーンはすさまじかったですね。試写室でも爆笑が起こりました。余さんと柄本さんは、どんなテンションで臨まれていたのですか?

廣木:すごいシーンでしたよね。そう言ってもらえて嬉しいです。「やってね!」というオーラを僕も出していたんですが(笑)、ふたりとは何本か撮っているので、それは感じてくれていたんじゃないかな。だから僕としては楽でした。テンションでいうと淡々と、それでいて嬉々としていた感じでしょうか(笑)。

北島:最初からエンジンかかっていましたよね。あれだけのキャリアを誇るおふたりが、こんなテンションで来るのか! という驚きはありました。ヤンキー映画でケンカシーンを撮る前みたいな(笑)。本番前のテストから、監督はオーダーとか出していませんでしたよね?

廣木:出していないです。ちょっと段取りをやりましょうか……と言ったら、いきなりトップギアでくるから「はい、それでいきましょう!」って(笑)。ふたりは俳優座の先輩・後輩だし、舞台経験も豊富。どんなキャリアの人でも、あのシーンを嫌いな人はいないでしょうね。

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――あのシーンの柄本さんは、廣木監督がメガホンをとられた「雷桜」の切腹シーンを思い出させるものでしたね。

廣木:確かにそうかもしれません。あれも「見とけー!」という気迫がこもっていましたよね(笑)。本当に面白いシーンになったなあ。1番の“ノイズ”は一体誰なのかっていうのを考えさせられますから。

――最後になりますが、今作を観てしまうと、おふたりのタッグが次回はどのようなものになるのか期待してしまうのですが……。

北島:実は2本ほどあります。1本は監督も興味を持ってくださっているので、これは何とかしたいです。もう1本は、監督がまだ手がけていない題材のものをご提案したいと思っているんです。でも監督、めちゃめちゃ仕事を受けるからスケジュールが……。今年なんて公開本数6本ですから(笑)。

廣木:いやいや、そんなに忙しくないですよ。

北島:僕の方が急がないと、監督のスケジュールが埋まっちゃうんですよ。監督は役者からとにかく愛されているので、プロデューサーからするとこんなに楽なことはないんです。神木さんも役者仲間から「廣木組は楽しいよ」と聞いていたみたいで、撮影を終えて「意味がわかった」と言っていましたから。とにかく企画を進められるように頑張ります!

コロナ禍の厳戒態勢下で暗中模索しながらの撮影を乗り切った廣木監督と北島プロデューサーが、どのような作品で5度目の対峙を果たすのか、そしてその現場にはどういった俳優陣が結集するのか思いを馳せずにはいられない映画ファンも多いはずだ。

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