松岡茉優、私が演じ続ける決定的な理由
2022年3月2日 10:00
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女優の松岡茉優が、国民的人気アニメシリーズの劇場版41作「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ) 2021」にゲスト声優として出演している。幼少期から親しみ、子役時代には「ドラえもんの感動的なシーンを思い浮かべて涙を呼び込んだこともある」と話すほど精通。2月の誕生日で27歳になった松岡は、どのような思いを抱いてドラえもんと対峙したのか。それは、演じることの本質的な意味を自らに改めて問いかけ、見つめ直すきっかけとなった。(取材・文/大塚史貴)
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松岡にとって劇場アニメで声優を務めるのは、2016年の「ポケモン・ザ・ムービー」を皮切りに「聲の形」「バースデー・ワンダーランド」「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」に続き5作目(洋画の吹き替えは除外)。今回は、同じくアニメ声優経験の豊富な香川照之とともに、「映画ドラえもん」に初参戦となった。
「すごいところまで来てしまいましたね(笑)。でも、難しさという点では1回目と何も変わっていないと思います。ドラえもんって既に幅広い世代の方々に愛されていますし、レギュラー声優の方やスタッフの皆さんもゲスト声優をお祭りのように受け入れてくださる。そこに甘えはあったかもしれません。甘えているのは私だけで、香川さんは変わらず素晴らしいのですが。香川さんとは初共演となりまして、まだお会いできていませんが機会をいただいてありがたかったです」
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今作は、1985年に公開されたシリーズ6作目「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争」を新たな脚本で描くリメイク作品。夏休みのある日、のび太が拾った小さなロケットの中から、手のひらサイズの宇宙人・パピが現れる。のび太たちが、宇宙の彼方にあるピリカ星の大統領であるというパピと親交を深めるなか、パピを追って反乱軍が襲来。のび太たちは、パピとその故郷を守るため“宇宙小戦争”に身を投じていく。
松岡は、今作で登場するオリジナルキャラクター、パピの姉・ピイナに息吹を注いだ。山口晋監督、脚本の佐藤大の意図を考えるところから役作りを始めていったようだ。
「自分がどういう役割なのかを最初に考えました。オリジナルキャラクターとして、どうして追加されたのか。パピくんには他者に見せられない顔があるので、ピイナはその感情を引き出すのが役割かなと思いました。唯一の家族だからこそ見せ合う表情、声色は大事にしなければいけないと感じました。ふたりきりのシーンは2つしかないのですが、とても素敵なシーンです。実年齢よりもずっと大人でいようとしてきたふたりだからこそクライマックスは胸が熱くなるシーンで、一番テイク数を重ねました。全然OKが出なかったのですが、粘ってもらって愛を感じましたし、諦めないでくださって嬉しかったです」
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松岡のドラえもん愛は留まるところがなく、過去作では「映画ドラえもん のび太と銀河超特急」が好きだという。「あの作品で、恐竜と戯れるシーンがあって、見た目はマーブルチョコみたいなんだけど、実はサラミというご飯をジャイアンが食べてしまうんです。あれを食べたいなあってずっと思っていました。子どもの頃からおつまみ系の食べ物が好きだから(笑)」と、想定していなかった好きなシーンを解説してくれた。
今作についても、「パピくんは何でも出来るけど、パピくんが出来ないことを僕には出来るかもしれない」というのび太のセリフを挙げる。
「多くの人に届けたい言葉だなって思うんです。誰かが10個出来ても、11個目は私にしか出来ないかもしれない。あのセリフで励まされるのは、大人かもしれないなと感じています。どんなに憧れの人であっても、きっとその人に出来ないこと、ひとつくらいは私が出来るはずだと思えば、ポジティブになれるんじゃないかなって。すごく大好きなシーンです。台本を読んだときはそこまで深く感じることはありませんでしたが、映像を見て感じ入りました。アニメーションの力と声優さんたちの命を吹き込む力なんでしょうね」
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確かに、大人になってから観ると、子どもの頃とは違った観点でストーリーを解釈するようになるのは必然で、いわば「疲れ切った脳との会話を楽しむ」側面があるように感じられる。松岡は今回、どのような思いで作品と対峙したのだろうか。
「ドラえもんは、子どもの頃から『僕らは味方だから諦めないで!』と言ってくれていたと思うんです。それは、テレビシリーズのいわゆる日常回と言われるものであっても。諦めない、負けない、仲間がいるんだということを伝えてくれていた。それをうっかり忘れていて、今回も諦めないのび太に思い出させてもらいました。子どもたちに観てもらいたいのはもちろんですが、もう一度、ドラえもんとともに育った大人たちにも観ていただきたいです。ドラえもんに背中をトンって押してもらえるような作品になったと思います。それに、3世代で観に行ってもらえるような時代に突入したんじゃないでしょうか。私よりも年長の、人生の先輩方はまた異なる視点で観られると思います」
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今作は、公開延期を経て1年越しの劇場公開となる。コロナ禍という難局を模索しながら、誰もが必死に日々の生活をおくってきた。2月16日に27歳の誕生日を迎えた松岡がこれまで、10代の頃から常にチャレンジを続けてきたことは誰の目にも明らか。そんななか、これからの1年はどのような景色を見ようとしているのだろうか。
「去年は、自分がどうして芝居という不確定な仕事をしているんだろう? ということを自問自答していました。何もしていない、何もできない。エッセンシャルワーカーと呼ばれる人たちと比べて、何をしているんだろう……って。そんなとき、ドラマ『コウノドリ』の監修をされた先生と話したことを思い出しました。『わたしは誰の命も救ったことがない。お医者様ってすごい』と言ったら、『僕たちは人の命を物理的に救っているけれど、それはひとりずつなんです。どうしてもひとりずつ。でも、あなたたちは500人、1000人、1万人という規模の人たちが“もうちょっと生きてみよう”って思えるような仕事をしているんですよ』とおっしゃってくださったんです」
松岡は、立ち止まったからこそ自分の立ち位置を再確認することができたようだ。それも、明確に。
「先生から言われたとき、自分もそうだなあって思ったんです。『あの映画の公開が楽しみだから期末テスト頑張るぞ』とか、『あの連ドラの次回放送までにケンカしている友達と仲直りしよう』とか……。楽しみにしてもらえたり、励みにしてもらえたり、多くの人がエンタメとして受け入れてくれている映画、ドラマ、アニメなどのお仕事の現場にいるからこそ、やりたいことが鮮やかになりました。立ち止まった分、そもそもこの仕事をしているのは自分のためだけではないよねって思い直せた。20代後半に差し掛かってくると、求められる役も変わってきます。作品の中で青春とか眩しいパートにいたはずなのに、そことは違うところで呼ばれるようになってきました。その年齢でしかやれない役というのはあるので、それを掴み損ねないように狙いを定めてやっていきたいです」。
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近年は、かつて作品の中で切磋琢磨してきた役者仲間たちと再共演する機会も見受けられるようになってきた。松岡にとっていま、原動力となっているのは“求められること”だという。
「この人のこれが見たい! と思ってもらえなければお仕事がなくなるわけなので、『この人をこうさせてみたい』と思ってもらえるような人でいなければならないですよね。それに、自分が好きだと思っている人に好きと言ってもらえることは、原動力になります。ある音楽番組で、自分がすごく好きだった方が私のお芝居を好きだと言ってくださったのですが、特に私が思い入れのある作品をほめてくれました。その方は、私がその方を知る前からお芝居を見てくれていたっていうのが……。こんな事ってあるんですね。自分が好きだと思う人に好きって言ってもらえるように、恥ずかしくないようにしなきゃ。なんか80年代のキャッチコピーみたいですね(笑)」
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気付けば、「演じる」という表現手段が多く存在する中で、松岡の映画出演本数も30本に到達した。地道に、丁寧にキャリアを構築してきたからこそ、松岡にとって飛躍の大きなきっかけとなった「桐島、部活やめるってよ」に抜てきしてくれた吉田大八監督との“再タッグ”になった「騙し絵の牙」は、忘れがたい光景をもたらしたと明かす。
「クランクアップのとき、大八さんが手を広げて、ちょっと目を潤ませて抱き締めてくれたんです。『桐島』では誰も知るはずのない私に大役を与えてくれて、8年後にヒロインをやらせてくださった。それはそれは嬉しかったです。遠回りもしたはずだし、つまずきもしたし、色々な方に迷惑もいっぱいかけたけれど、大八さんはこんな顔をしてくれるということは、そこまで大きく間違わずにここに来られたんじゃないかなって思えました。私のなかで多少脚色されて、大八さんに後光が差しているんですけどね(笑)」
照れ笑いを浮かべながら、愛おしそうに話す松岡の5年後、10年後にはどのような“出会い”が待ち受けているのだろうか。出演映画の本数が50本、100本を数えても、きっといまと変わらずどの現場でも愛される役者として、躍動を続けているのだろう。
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