【「ドリームプラン」評論】テニスファン案件からオスカー案件に化けた、ウィル・スミス渾身の一作
2022年2月26日 19:30
この映画を見て、自分が高校生だった1970年代後半を思い出しました。当時、今のようなサッカー人気やメジャーリーグ人気はまったくなく、オリンピック以外で、世界の一流アスリートがプレーする姿をテレビで見られるのは、テニスだけだった記憶があります。1980年のウィンブルドンの決勝、ボルグ対マッケンローの試合を、授業をサボってクラスメートたちと近くの焼きそば屋で興奮しながら見ていたのを鮮明に覚えています。NHKでのウィンブルドン観戦は、年に一度の絶対的なスポーツイベントでした。
この映画の主人公、キング・リチャードは、そんな時代に自分と家族が億万長者になる方法を思いつきました。「娘をテニスの世界チャンピオンにする」という方法を。つまり、スポーツで世界的に有名になって経済的な成功をつかむには、年代的に「テニス一択」だったということです。女子の場合は特に。
そんなリチャードの「ドリームプラン」に則って、姉ヴィーナス、妹セリーナは、幼少の頃から父の特訓を受けるようになります。「巨人の星」の星一徹も顔負けのスパルタ練習ですが、悲壮感はまったくありません。とにかく家族全員がポジティブなのです。
ポジティブすぎるがゆえに、「ボヘミアン・ラプソディ」鑑賞時と同様の違和感は禁じ得ません。家族(メンバー)のダークサイドはあまり描かれず、終始甘口なのです。これは、ヴィーナス・ウィリアムズとセリーナ・ウィリアムズがエグゼクティブ・プロデューサーとしてこの映画に参加している事実を知って納得しました。「ボヘミアン・ラプソディ」にクイーンのメンバーがプロデューサーとして参加しているのと同じ構図です。物語は、ディテールまで事実に基づいている。しかし、見せたくないところは隠してありますよ、と。
信仰のこととか、近隣から通報された件とか、食い足りないところはそれなりにあります。しかし、そんな小さな懸念を吹き飛ばすほど、ウィリアムズ一家の成し遂げたことの偉大さは圧倒的です。しかもその偉業は奇跡とか幸運とかの類ではなく、すべてリチャードの「計画に基づいていた」という衝撃。
この映画は、間違いなく、ウィル・スミスがアカデミー賞の主演男優賞を獲りに行った映画です。先日(2022年2月8日)ノミネートが発表されましたが、主演男優賞はもちろん、それ以外にも、作品賞、助演女優賞(アーンジャニュー・エリス)、脚本賞、編集賞、主題歌賞(ビヨンセ)など堂々6部門のノミネートを成し遂げました。「パワー・オブ・ザ・ドッグ」や「ウェスト・サイド・ストーリー」などに次いで、トップ5のノミネート数です。正直、驚きました。
WOWOWと契約してテニス見ている人たち(私もそうです)が見ればOKな映画かなと思っていたのが、オスカー6部門ノミネートをもって、全映画ファン必見作に堂々の昇格です。映画ファンを自認する皆さまにあっては、是非、本作を映画館でお楽しみいただきたいと思います。
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