身柄拘束に製作禁止も 過酷なイランの映画事情を経験しながらも、どうしても描きたかった物語
2022年2月7日 11:00

第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品された「白い牛のバラッド」が、2月18日から公開される。イランの厳罰的な法制度を背景に、冤罪による死刑で夫を失ったシングルマザーの姿を通し、社会の不条理と人間の闇をあぶり出したサスペンスドラマ。監督を務めたマリヤム・モガッダムとベタシュ・サナイハが、イランの厳しい映画事情を明かすとともに、主人公の役柄に込めた思いを語った。

中国に次いで死刑執行数が多いイランは、反政府的な抗議活動者や少数民族を「政治的に弾圧する武器」として死刑にし、未成年も死刑になる。また、イスラーム法でキサースという同害報復刑があり、2016年には4歳の少女の顔に石灰をかけて視力を奪ったとして有罪判決を受けた男に対し、両目を失明させる刑が執行されたという事実もある。被害に相応した報復または制裁ができるもので、犯罪被害者は加害者からの賠償金と引き換えに刑罰を免除することもできる。こうしたイランの厳罰的な法制度を背景に、本作の冤罪で夫を失ったシングルマザーのミナは、2億7千万トマン(日本円で2500万円程度)が賠償金として支払われると提示を受けるが、誤審をした判事にただひとつ“謝罪”を求め続けた。

本作は、第71回ベルリン国際映画祭金熊賞&観客賞ノミネートし世界的に高い評価を得たにも関わらず、本国ではファジル国際映画祭で数回上映された以降、劇場公開されていない。イランの映画事情については、第70回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した「悪は存在せず」のモハマド・ラスロフ監督が、政府から身柄を拘束され授賞式を欠席したことが記憶に新しい。
反体制的な作風で政府から映画製作20年禁止令を受けながらも「人生タクシー」(15)で第65回ベルリン国際映画祭金熊賞に輝いたジャファル・パナヒ監督作「閉ざされたカーテン」(13)には、本作のモガッダム監督も出演。当局にパスポートを没収され、同作の海外での宣伝活動が禁じられ、身を以てイランの映画製作の厳しさを経験している。

そんなモガッダム監督が作り上げた本作も、他作と同様検閲にひっかかり、上映するためには本編のシーンを20分削除しろと命じられた。そのため、同映画祭で上映された本編は、日本をはじめ世界で公開されているものとは内容が異なると、サナイハ監督とモガッダム監督は明かす。

20分の削除とまではいかないが、映画自体が変わらない程度に、セリフなどを検閲に通るよう変更した箇所があるという。映画祭で評論家から好評を得て記事になり話題となったが、それも国内では上映禁止に至った理由の一つなのかもしれない、と検閲の厳しさを垣間見せるエピソードを語った。

続けて監督たちは、他国で作品を作らないのかという質問を多く受けると明かしながら、「イラン国内に多種多様な物語が存在しているため、自分たちの国の物語を語ることが大事なんだ」と語り、本作の主人公ミナのキャラクターについては、「多くの困難を抱えたミナの、社会との闘いの物語には、世界中の女性観客が共感しうる普遍性と、イラン特有の問題が入り混じっている」と役柄に込めた思いを説明した。
あわせてショート予告が披露され、西川美和監督、瀬々敬久監督、森達也監督らから寄せられた絶賛のコメントらを収めている。
「白い牛のバラッド」は2月18日から、TOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。
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