「この映画のすべてが踊り」犬童一心監督が捉えた田中泯の生き方と“踊り”
2022年1月29日 18:00
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即興の身体表現でその空間とともに“場踊り”を作りあげ、世界的に評価されるダンサーであり、「たそがれ清兵衛」(02)の出演から今日まで、俳優としても日本映画界で唯一無二の存在感を放つ田中泯を映した映画「名付けようのない踊り」。
本作は、「メゾン・ド・ヒミコ」(05)で田中を起用した犬童一心監督が、田中の国内外の公演から“農作業で踊りの体を作る”という日常まで肉薄したドキュメント。劇中では山村浩二による独創的なアニメーションも用い、田中泯という存在と踊りを様々な角度から体感する映画だ。全国公開を前に、ふたりに話を聞いた。(取材・文/編集部、撮影/松蔭浩之)
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俳優の感じが全くなくて、映画の業界の何かの人なんじゃないかと思っていたんです。周りがみんな俳優だから、余計に異質に見えた。そうしたら、助演男優賞のプレゼンターでいらっしゃっていて、その時に「たそがれ清兵衛」のあの方だとわかって。その後すぐ出演交渉してもらいました。ダンサーだとか俳優だとか関係なく、あの圧倒的な感じが欲しくて、勝手に僕が泯さんを見つけたという感じです。
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あとは農業です。泯さんがどれぐらいの重要度でやっているかが、一緒に居るとよくわかるんです。今、山梨に帰らなくてもいいんじゃないかって思う時も農業のためにちゃんと帰る。農作業を撮影に行くとそこでまたその真剣さに新たに感じるものがある。それらを映画の中でどう扱うか……撮影と編集の中で考えていきました。全体像としては、僕が公演に通って見た泯さんの踊り、その時体験した時間感覚にできるだけ近い感じを出そうと試みました。
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そういった意味では、これを一般の人たちが見た時に、どんな感想があるのかと興味津々です。一番嬉しいのは「犬童さんが見た踊りの映画」にしたいということを貫徹してくださっていること。僕が現場で踊っている踊りをそのまま映像で見せたところで面白いわけがないんです。毎回、全く違う条件の中で見るわけですから。ですから、新たに犬童さんが提供する条件の中で、踊りを作り直して見ていただくというのが、なにより僕の踊りらしいと思います。僕から言わせればそれは「犬童さんの踊り」になっているということです。
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お芝居を頼まれて、特に「メゾン・ド・ヒミコ」の時に気がついたのは、演じる役そのものが僕自身と齟齬なく成立しているということ。もちろん細かな意味での技術というのはあって、皆さん苦労して俳優になっているその時間が僕は抜け落ちているわけです。遅まきながら、少しずつ少しずつ、ああ、演技とはこういうことなのかなと分かってきて。でも、それを支えているのは、踊りであることは間違いないんです。だから演技をするとしたら、僕は踊りの演技論しかできないだろうと。
芝居という物語がある中でのひとりの人間の身体から出てくる声、見えない思い、そういうものは、セリフがあろうがなかろうが、表現することがものすごく面白い。ただ、僕の場合はやれないことだらけだと思いますので、そこも加味して見ていただきたいです。やはり演技する、ということは大変な仕事だと思います。
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あと、言葉に準ずる気ももちろんありません。言葉というのは、やっぱりその時の体から出るというのが1番表現的なことだと思います。何かの言葉を頭の図書館から出して、ページを繰る、開くようなことも僕にはないです。そういう言語記憶をできる人間ではないので。
田中:30代の後半ですね。たった1回の人生を生きるにあたって、自分というものは確かに大事で、この大事な自分をどうしたらいいんだろう? と思って。そして、自分は自分にとっての例題として、その例題である自分と、夢をふくらませている自分を闘わせればよいと考えたのです。例題である私を自分で蹴っ飛ばしたり、踏んだり、汚辱にまみれても構わない、そういう関係を作りました。私は私にとっての例題である。そこから、私の中にある多数の田中泯、その群れの中の一素材である、たったひとり分いるだけじゃ一生っていうのはもったいなさすぎると考えています。
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そのこと自体が表現だと、自分で締め付けるようなことはしていませんでしたが、楽しかったですね。井戸掘りをしていて、井戸の水がどうして動いているのかとか、そんなことまで考えると全く飽きることがなくて。そういった経験が未だに影響しています。
継承すべきは僕の外側だと思います。空気があまりにひどくなったらとか、それと地球を意識できなくなったら、踊りは必要ないんじゃないかとか。でもそれは私のためではなくて踊りのためです。異常な暑さの時代がやってきた時に、踊りのための空間をわざわざ作るとしたら、それは間違っていると思います。もちろん、人の住むところ、地球上であれば踊りはどこでも発生し得ると思いたいですけどね。
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そして、この映画は自主映画なので、自分の望む本当に純粋培養の映画。普通、映画に入らなくていいものって、いっぱい入っているのですが、それがない映画。今、映画を作る若い人にも、こういう映画が作れて映画館で上映できることを知ってほしい。あと、泯さんの生の踊りを見てほしいです。僕は、泯さんの踊りを見ると浄化されたような気分になります。物語に浸るとか、そういったことではないんです。身体と心のバランスが取れる。今回、田中泯の踊りを再現するために音と映像に細かく注意を図りました。本当にこれは今までに作った作品の中で、一番映画館で見てほしいと思った映画です。
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例えば、海辺の大きい石の前に泯さんが立っているところをロングショットで撮る、それはすごくかっこいいんです。でも、視覚障がい者の方には、そういう技術、思い込みが通用しない。だから、それが自分でいい画だと思っているのがバレてしまうのがダサいと感じるようになって。目が見えない方にとっては、波の音と、泯さんがそこで手をクロスさせていることだけが説明される。ストーリーがないので、それぞれが頭の中で、サイズもニュアンスも違う映像を見ることになる。そのことのから、技術ってどうなのか?という自分自身への問いかけにもなりました。
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(C)2021「名付けようのない踊り」製作委員会
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