有村架純が貫く「心」の繋がり方、「弱さ」との向き合い方
2022年1月22日 11:00
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「前科者」という言葉の響きに、人は何を思うだろうか……。有村架純が岸善幸監督と初めてタッグを組んだ「前科者」は、物々しいタイトルとは裏腹に、どこまでも観る者に寄り添い続けてくれる稀有な作品に仕上がった。有村にとって寄り添うことの意味、そして自らの弱さとどう向き合ってきたのか話を聞いた。(取材・文/大塚史貴、写真/根田拓也)
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有村が今作で息吹を注いだ阿川佳代は、コンビニ店員と保護司という、ふたつの仕事を掛け持ちしている。犯罪者の更生を助ける保護司は非常勤の国家公務員だが、ボランティアのため報酬が一切ないからだ。
この保護司を主人公に据えた同名漫画(原作・香川まさひと/作画・月島冬二)を映像化するに際し、製作サイドは映画の平均的な尺(2時間)では保護司の仕事についてきちんと描けないのではないかと懸念を抱き、テレビドラマと映画を連動させる形で企画を始動させた。主人公の佳代が新人保護司として奮闘し、成長する姿を描く連続ドラマ版「前科者-新米保護司・阿川佳代-」(全6話)は、昨年11月にWOWOWで放送。映画では、佳代のその後の姿が原作にはないオリジナルストーリーとして紡がれる。
映画では、保護司を始めて3年になる佳代は、担当する物静かな前科者の工藤誠(森田剛)が順調な更生生活を送り、社会人として自立する日を楽しみにしていた。だが、最後の定期報告の日、約束の時間になっても工藤が現れず、忽然と姿を消してしまう。一方、時期を同じくして連続殺人事件が発生する。警察の捜査が進むにつれ、佳代の過去や保護司という仕事に人生を捧げる理由が明らかになっていく。
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「目は口ほどに物を言う」というが、本編で有村の瞳はどこまでも雄弁に実に多くのことを語りかけてくる。喜怒哀楽という表現では形容しきれない眼差しの変化は、見ていて飽きることがない。今作のコピーに「寄り添えば、救えるのか?」とあるが、有村は佳代という人物にどう寄り添い、どう生き切ったのか聞いてみた。
「オファーをいただいた時に、自分が今まで演じてきた役どころではない保護司というところに興味を持ちました。前科のある人の更生を手助けするって、一体どういうことなんだろうって、そこに関心があったんです。原作漫画を読んでみたら面白くて、佳代という人物も正義のヒーローでも熱血教師でもなかった。ちゃんと痛みを抱えている人間だったからこそ、きちんと寄り添うということが体現できる人なんだろうなと感じました」
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岸監督が執筆したオリジナル脚本を読み進め、体に染み込ませていく過程で思い至ることがあったという。
「誠って、佳代があそこまで感情移入して介入していった初めての人物だと思うんです。岸さんは『母性とも取れるけれど、恋愛感情があるのかな? って見えてもいい』と仰っていて。演じている時に好きという恋愛感情は持っていませんでしたが、そう見えるくらいその人に対して一生懸命になっている姿が映ればいいなと思って、あまり計算とかはしなかったです。その人のためにと言うと偽善的に聞こえるかもしれませんが、怒ったり泣いたり笑ったり、そういう全力で走っている姿を映せればいいなと思いながらやっていました」
有村が全身全霊で対峙した誠に扮したのが、6年ぶりの映画出演となる森田だ。長年にわたり演劇界でも活躍しているが、映画単独初主演を務めた吉田恵輔監督作「ヒメアノ~ル」での圧倒的な演技力からも、その実力は誰もが認めるところ。森田は、誠を演じていくうちに佳代に対して母親的存在として感じるようになっていったと明かしている。
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劇中で佳代は「更生ってもう一度、人間として生き返るって意味なんですよ」と口にしているが、その言葉を信じて疑わぬ姿勢で誠と相対している。佳代お手製の牛丼をふたりで頬張るシーンなどは、その代表例と言って良いかもしれない。実に興味深いことに、如何なるシチュエーションでも、ふたりが対峙するシーンは目を逸らすことが出来ないほどに“喧噪”と“静謐”という、相反する感情が交差していく。
「森田さんとは役の設定もあったので、ほとんど話をしなかったんですよ。残り2日くらいになって、山場の撮影が終わったところでようやく笑って話せるようになったんです。それまでは緊張感もありましたし、それがいい空気感になったのでしょうね。会話って、別にしなくても心さえ繋がっていたら良いと思うんです。それは限られた期間のなかでどれだけ相手を信頼して芝居をするかということなんですが、私はそれを大切にしています。役を通して向き合うことが、本人とも向き合っていることになると思っているので、無理してその場を取り繕うように話をしなくても、プラトニックなところで繋がったものさえあればいいパフォーマンスが出来る。森田さんとも、そういう感じでした」
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今作に限った話ではないが、登場するキャラクター全員にそれなりに過去があり、何かを乗り越えながら、それぞれの歩調で新たな一歩を踏み出していく。人間は等しく失敗を繰り返して成長する生き物で、魔が差すこともあれば我に返って引き返してくることもある。極端な話、誰もが被害者にも加害者にもなりえる。有村に“失敗”の定義を問いかけてみると、「オーディションに受からないことにも言えることですが、それは失敗であって、結局のところ失敗ではないと思うんです。自分の学びになるし、成長に繋がるものなのだから。失敗で終わることってないんじゃないかと感じているんです」と微笑を浮かべながら、穏やかな口調で話す。
こういった役に対する向き合い方、仕事への考え方こそが、多くの監督から愛される所以ではないだろうか。筆者はこれまで撮影現場や取材の場で、有村について朗らかな笑顔を浮かべながら話をする監督や俳優の顔を幾つも思い出すことが出来る。呼び名は「有村」「有村くん」「有村さん」など様々だが、皆一様にかけがえのない“同志”として身内のように扱っていることが強く印象に残っている。
有村といえど、デビュー当時から現在と同じ姿だったわけではない。周囲にいる身近な人たちからの愛ある叱咤激励を受けながら、地道な努力を惜しまなかった。
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「この仕事を始めるまで、こんなに人と向き合ったり、向き合ってもらえることってありませんでした。17年間、地元で普通の生活をしていて、周りに身を任せて生きてきたわけですから。この仕事で生きていくんだと決めたとき、もう学生気分ではいられないし、初めて自分の人生というものを考えたんです。思い出すのは最初に5年間ついてくださったマネージャーさんのことで、よく叱られましたね。怒る、ではなく、叱る。あの時間がなかったら、いま私はここにいないと思います。人と向き合うのって大変ですが、たくさん叱ってくれて本当にありがたかったですね」
有村に寄り添える存在がいるのと同様に、劇中で佳代に寄り添うのが石橋静河演じる斉藤みどりだ。ドラマ版で、佳代の初めての保護観察対象者として登場し、現在は便利屋を営んでいるという設定。保護司と前科者という関係を越えて友情を育み、今作では逆に佳代を支える重要な役割を担っている。「佳代ちゃんの弱さは武器だから」と伝えるシーンは、じんわりと心がほだされていく。そしてラストシーンでは、その弱さを内包したとびきりの表情を披露している。有村はこれまで、自らの弱さとどう向き合ってきたのだろうか。
「どうやって向き合ってきたんだろう……(笑)。自分の苦手なことや弱点について、まず自分自身で気づくことが大事ですよね。人に指摘されたところで、自分で気づかないことには多分何も変われないと思いますから。その弱さを払拭するには、向き合い続けることしか私は方法を知らないだけなんですけどね(笑)」
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昨年は「花束みたいな恋をした」が大ヒットしたほか、大友啓史監督作「るろうに剣心 最終章 The Final」「るろうに剣心 最終章 The Beginning」では佐藤健扮する剣心の妻・雪代巴の儚げな面持ちの芝居が絶賛された。筆者は、ある監督から「彼女と仕事をしていると、映画の神様に祝福されているようなシーンを撮れることがあるんだ」とかみ締めるような口調で聞かされたことがある。有村にとって、映画の原体験はどのようなものだったのか探ってみたくなった。
「そんなことを言ってくださるなんて、嬉しい。誰だろう(笑)。映画は中学生の頃に友だちと映画館へ観に行った頃を思い出しますね。貴重なお小遣いでしたけれど、映画館で映画を観るって中学生にとってはアトラクションみたいな感覚で、すごく楽しかったんです。大きなスクリーンで、その瞬間だけは物語の中に自分も入り込んだような感覚になれる。その時の記憶って鮮明で、いつその作品を観ても自分の過ごしてきた背景まで思い浮かんできたりするじゃないですか。エンタメって、そういう要素がある。人生を作ってくれているというか、メモリアルなものだと思うんです」
昨年も多くの人々にメモリアルな作品を届けてきたが、今年も有村の挑戦は続く。「今年参加させていただく作品も、今まで演じたことのない役柄なので、必然的に挑戦せざるをえないですね。今まで自分が大事にしてきたものに加えて、何かしらの形で観てくださる方に伝えるということを意識したお芝居をすると、またひとつ形が変わるのかなあ。変わってくれたらいいなと思っています」。
23年のNHK大河ドラマ「どうする家康」への出演も決まり、ファンの期待値は増すばかり。2月13日の誕生日で29歳となる有村が、自らにどう寄り添いながら20代ラストイヤーを駆け抜けるのか今後も目を離すことができそうにない。
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執筆者紹介
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大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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