【ハリウッドコラムvol.316】「ウエスト・サイド・ストーリー」が教えてくれた傑作をリメイクする必要性
2022年1月14日 20:00

ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。
映画を見る前は、なるべく先入観を持たないように心がけている。でも、「ウエスト・サイド・ストーリー」に関しては、中立的な立場でいることなんて不可能だった。
この作品に関しては、すでに「ウエスト・サイド物語」というオリジナルが存在する。動画配信サービスが乱立し、コンテンツであふれるいま、知名度のまったくないオリジナル作品に多額の製作費をつぎ込むことが難しくなっていることは理解できる。だが、大ヒットした映画の続編を延々と作り続けたり、小説やコミックやゲーム、果てはテーマパークのアトラクションまで映画の題材とするなかで、米アカデミー賞10冠の傑作をリメイクするのは、さすがに冒涜ではないだろうか?
しかも、メガホンをとるのはスティーブン・スピルバーグ監督である。巨匠の貴重な才能と時間をリメイクに費やすのは、不毛の極みに思われた。
だが、オリジナルの「ウエスト・サイド物語」を見直して、考えを改めた。リメイクは必然だし、スピルバーグ監督ほどの才能が手がけてくれたことは、むしろ僥倖であるといまでは思っている。

「ウエスト・サイド物語」(1961)は、1950年代のニューヨークを舞台に、白人系の不良グループ「ジェッツ」と、プエルトリコ系の不良グループ「シャークス」の対立に巻き込まれる、若い男女の悲哀を描いている。1957年に公演されたブロードウェイ劇の映画化で、シェークスピアの「ロミオとジュリエット」が下敷きになっている。
1961年に公開された「ウエスト・サイド物語」は、アカデミー賞で作品賞を含む10冠に輝いている。だが、現代の視点で見直してみると、傑作とはとても呼べないほど、著しく劣化していた。
まず、映像表現が古い。カメラはほとんど動かないし、それぞれのカットが長く、いかにも作り物のセットばかりだ。つまり、舞台劇をそのまま映像に収めたような作りになっている。
次に、感情移入がしづらい。主人公たちが置かれた立場や心境の描写がないがしろにされているため、共感しづらいのだ。当時の観客なら共通認識として理解できたのかもしれないが、現代の観客、しかも、アメリカ以外で暮らしている人にとってはあまりに説明不足だ。

最後に──これが最大の問題だが──当時のステレオタイプであふれている。プエルトリコ系の人物描写が偏見に満ちていて、しかも、大半を白人が演じている。肌を茶色に着色する「ブラウンフェイス」という手法を採用しているのだ。「ティファニーで朝食を」でも白人コメディアンのミッキー・ルーニーが、出っ歯にメガネの日系人役を演じていたり、こうした措置は当時の米映画界では珍しくない。だが、人種問題が作品のテーマになっているのに、偏見や差別を助長する紋切り型の描写ばかりなのは、矛盾と言わざるを得ない。少なくとも2020年代の観客で、この点に目を瞑ることができる人は多くないだろう。
だが、掛け値なしの魅力も存在する。レナード・バーンスタインとスティーブン・ソンドハイムの楽曲の素晴らしさは色褪せないし、禁じられているからこそ燃え上がる若い男女の恋愛ストーリーも普遍的だ。人種対立というテーマも不幸なことに現代のほうが響く。つまり、一部が腐っているからといって、そのまま葬りさるのはあまりにももったいない。

おそらくスピルバーグ監督もそう考えたに違いない。今回、スピルバーグ監督が下敷きにしたのは、1961年の映画版ではない。11歳のときから、サントラを愛聴してきたというブロードウェイ版である。「リンカーン」や「ミュンヘン」などでタッグを組んだトニー・クシュナーが脚色を手がけた本作は、問題点がすべて改善され、いまの観客が心から楽しめる極上のエンターテイメントとなっている。
同時に、「ウエスト・サイド・ストーリー」は、映画の新たな可能性に気づかせてくれた。映画とは、撮影や美術、演劇、ファッション、音楽などを取り込んだ、総合芸術である。各部門を担当するスタッフたちが、独自の美学や当時の流行や技術を反映させて、作品に貢献している。構成要素が多いからこそ、時間の経過による劣化の可能性が高くなってしまう。音楽だけならある程度の時間が経過しても輝きを放ち続けるのに、そのミュージックビデオとなると、すぐに古くさく感じられるようになるのと同じだ。
大衆に迎合した映画は劣化が早く、過去を舞台にした時代劇やオーソン・ウェルズやスタンリー・キューブリックのような完璧主義者が手がけた作品は時代遅れになりにくい傾向にある。

だが、作品の一部が腐ってしまっても、その核に魅力が残っていれば、時代に合わせてアップデートしていってもいいのではないだろうか。考えてみれば、シェークスピアの戯曲だって、時代を超えて、異なる劇団、異なる演出で数えきれないほどの公演が行われている。映画だって、同様のことがあってもいい。
「ウエスト・サイド・ストーリー」は、60年前の「ウエスト・サイド物語」の完璧なアップデートだ。これから長きにわたり多くの人々を魅了していくに違いない──次のアップデート版が作られるまでのあいだは。

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