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【「The Hand of God」評論】マラドーナと自らの青春を重ねたソレンティーノ渾身の一作

2021年12月12日 16:00

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「The Hand of God」
「The Hand of God」
⼀部劇場にて12月3日(金)公開 Netflix映画「The Hand of God」 12月15日(水)よりNetflixにて全世界独占配信開始

ヴェネツィア映画祭で銀獅子賞とマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞、オスカー国際長編映画のイタリア代表に選出されたパオロ・ソレンティーノ監督待望の新作。これまで実在の人物をモデルにした作品を多く手がけてきたソレンティーノだが、今回は自らの青春を題材にした映画になっている。

マラドーナがナポリに移籍した1984年の夏。家族や親戚たちに囲まれて育ったサッカー好きのファビエットは、17歳になり将来に対する夢と不安を抱えていた。仲睦まじい両親、俳優を目指す兄と引きこもりの姉、美しくはかなげな叔母、大切な友人たちや知り合った映画監督など、周辺の人々の影響や身近に起こる悲劇を通して、少しずつ大人になっていくファビエット。その青春のきらめきを描いた人間ドラマ。

グレート・ビューティー 追憶のローマ」でオスカー受賞の際に壇上から命の恩人としてマラドーナに感謝を捧げた監督だが、本作ではそれにまつわるエピソードがリアルに描かれる。当時弱小だったナポリを優勝に導いたスター選手は、日本なら鹿島のジーコか、神戸のイニエスタ、あるいは今話題の新庄監督か。劇中でもナポリの街ぐるみの熱狂ぶりが描かれる。

16年の「グランドフィナーレ」では晩年のマラドーナを彷彿とさせるキャラクターを登場させたソレンティーノ、満を持した本作では影の主役に据えての撮影を開始したところ、肖像権の問題があると聞きつけたマラドーナ側からクレームが付くトラブルが発生。リリース元のネットフリックスがコメントを出すなど事態の収拾に動いていた20年11月、今度はマラドーナの訃報が突如発表される。世界に衝撃が駆け巡るなか、(おそらく)編集作業中だった監督たちにとっては何とも整理の付かない幕切れになったに違いない。

監督のもう1人のアイドルがフェリーニであることはよく知られているが、青年の精神的・肉体的な目覚めを描いたという面では、否応なしに「フェリーニのアマルコルド」を思い起こさせ、フェリーニ作品のオーディション場面まで飛び出す。登場する逆さ吊りの男は「8 1/2」の出だし、あるいは今も陰謀論がささやかれるムッソリーニの遺体を想起させ、イタリアならでは要素満載にも見えるが、冒頭の流麗なカメラとかすかな照明で映し出される朽ち果てた屋敷のシーンだけで、ソレンティーノ映画としか表現出来ない映像が続く。前半の幸福感と一転して重苦しい後半部分が不思議な一体感を奏で、人生の波乱を感じさせる。

すでに国内外で高い評価を得ている作品だが、女性の肉体や障がい者の表現には、時代観やオマージュを超えた違和感は否めない。反応には個人差もあるので、今後の賛否にも注目したい作品だ。

(本田敬)

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