新たな歴史への布石、東京国際映画祭が踏み出した改革への第一歩 安藤裕康チェアマンに聞く
2021年11月15日 18:00
東京国際映画祭が大きな転換期を迎えている。10月30日~11月8日に開催された第34回大会は会場を六本木から日比谷、有楽町、銀座地区に移し、プログラミングディレクターも交代。これに加え、安藤裕康チェアマンは「国際色の強化」を命題に掲げた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、2年連続で有観客とオンラインを融合させる形式を余儀なくされたが、安藤氏の目にはどのように映ったのか。来年以降に向けた戦略も含めうかがった。
TOHOシネマズ六本木を拠点に17年開催された六本木からの移転は、相当な覚悟と決断が必要だったことは想像に難くない。
「とても心苦しかったのですが、映画祭をより広い客層にアピールする観点から別の場所に移りたいと思っていました。日比谷、有楽町、銀座は昔から映画の街としての伝統があるし、ホテルやレストランなどの関連施設もたくさんある。交通の便もいいし、いろいろな所から来ていただけるメリットがあると考えました」
会場はTOHOシネマズ シャンテ、よみうりホール、角川シネマ有楽町、シネスイッチ銀座など。徒歩圏内ではあるが分散した印象は否めない。メインとなるような大劇場もなく、結果、スクリーン数、上映本数とも減少。街を歩いていても映画祭が開催されている雰囲気は乏しかった。
「カンヌ(リュミエール)やベネチア(サラ・グランデ)は大きな核となる劇場が中心になっていますが、街の中でいくつかに分かれているベルリンに近い形と言えると思います。確かに分散はしているけれど、有楽町駅前に情報センターとチケットカウンターを設置し、そこでどの映画館でどの映画が上映されているかが分かる。逆に街との一体性が出て、地区一体を大きなものととらえれば広がりが出たと思います」
プログラミングディレクターには、昨年まで東京フィルメックスのディレクターを務めていた市山尚三氏が就任。全部門を統括する立場で、特に特別招待部門をガラ・セレクションと名称を変更し、年末に向けて日本で公開される作品のプロモーション要素が強かったショーケース部分の排除に踏み切った。
「ガラ・セレクションは今回の改革の大きな柱です。今年を代表する世界の優秀な作品を集めて日本の観客に見ていただくという哲学の下に並べたのは意義のあること。(全体的に)作品の質が良くなったという話も聞きますし、市山さんの個性が出たラインナップになったと思います。ただ、作品を見た皆さんが映画祭についてどういう評価を下すのかはシビアに見てみたい。それを踏まえ必要であれば市山さんと話し合いたい」
だが、大きな目標としていた国際色の強化については、コロナ禍で外国からゲストを呼べず無念さをにじませる。
「映画祭の本質として、映画の上映と同等あるいはそれ以上に重要なのは映画人が交流すること。日本人だけではなく外国の人たちとも対話をして映画の未来を語り、具体的に映画を作る構想を進めるということもある。春先には10月は大丈夫かなと思っていたけれど、どんどん状況が悪化して思うに任せなかった。国際的な交流を深めることが十分にできなかったことは残念。来年以降は、元に戻っていることを願っています」
その中にあって、是枝裕和監督の提唱で昨年スタートしたアジア交流ラウンジのトークセッションはどれも内容が充実していて好評だったといえる。コンペティション部門の審査委員長として来日した仏女優イザベル・ユペールは濱口竜介監督と対談した。
「ユペールさんの存在は大きかったですね。世界的な大女優で、世界各地の映画祭で審査員をされている大変知的な方。オープニングセレモニーでも『私たちは映画を必要としている。映画は私たちを必要としている』というスピーチは素晴らしかった。そういう方が審査委員長を務めてくれことで、コンペの重みができたと思います」
スタッフも初めて経験することが多く試行錯誤を繰り返しながらの運営となったが、自身も各会場を回り気になった点をメモに残している。今後、各グループでヒアリングを行い全体会議で課題をあぶり出していく意向だ。
「本拠地を移して、これが完成形だから来年もそっくりそのままとは考えていません。今年はやるべきことの半分もできていないと思っています。今年は来年、再来年に向けての布石だと思っていただければ。スクリーン数、上映本数とも増やし地元の協力も得ながら街全体が映画祭を祝福してくれるような形に築き上げていきたいと思っています」
新たな歴史への道程は、その一歩を踏み出したばかりだ。
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