【「イースタン・プロミス」製作秘話】V・モーテンセンが語るタトゥーの意味、全裸ファイトの裏側

2021年11月12日 09:00


「イースタン・プロミス」
「イースタン・プロミス」

超大作の「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズから「グリーンブック」といった独立系映画など、幅広いジャンルの作品に出演してきた俳優ビゴ・モーテンセン。本日11月12日には、監督デビュー作となった「フォーリング 50年間の想い出」が公開された。モーテンセンを語るうえで欠かせない存在といえば、デビッド・クローネンバーグ監督だろう。

ヒストリー・オブ・バイオレンス」「イースタン・プロミス」「危険なメソッド」を世に放ち、新作となるSFスリラー「Crimes of the Future(原題)」で4度目のタッグを果たすモーテンセンとクローネンバーグ監督。第46回トロント国際映画祭では、モーテンセンが「イースタン・プロミス」について振り返っている。彼の言葉からにじむのは、クローネンバーグ監督への信頼と敬意だった。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)

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ロンドンで助産師として働くアンナ(ナオミ・ワッツ)の病院に身元不明の少女が運び込まれた。少女は赤ん坊を産んで死亡してしまったため、アンナは少女が残したロシア語の日記を頼りに身元を調べようとする。やがて彼女は、謎めいた男ニコライ(モーテンセン)と出会ったことで、ロシアンマフィアによる人身売買、売春の実態を目の当たりにする。

タイトルの「イースタン・プロミス」とは「人身売買」を示し、東欧から犯罪組織によって、娼婦として売り買いされる女性たちの“売買契約”を意味する。第32回トロント国際映画祭では観客賞を受賞。モーテンセンは、第80回アカデミー賞主演男優賞、第65回ゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネートされた。

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モーテンセンが演じたニコライは、非常に独特で個性的なキャラクターだった。モーテンセンは、スティーブン・ナイトによる脚本を「非常によく構成されていた」と評する。では、その脚本からどのように人物像を膨らませたのだろうか。

「『ヒストリー・オブ・バイオレンス』でデビッド・クローネンバーグ監督と親しくなり、定期的にコンタクトをとっていて、映画のことだけでなく、さまざまなことを話していた。『イースタン・プロミス』のリサーチを始めた頃、僕はロサンゼルスに住んでいたんだ。クローネンバーグ監督とは、当時のロシアの状況や犯罪組織の歴史、文化や政治についても語り合った。まず最初に着手したのは、脚本のセリフを翻訳できるロシア人を探すこと。ニコライはロシア語をずっと話しているというわけではなかったが、クローネンバーグ監督と話した結果、脚本に記されているものよりもロシア語が追加されると予測したんだ。当初の脚本に書かれていたのは、2、3場面だけだったからね。僕自身は単に準備していたかっただけで、良いエクササイズになったと思う。その翻訳家を通じて、ロシアのユーモア、キャラクターの感情的な側面について話し合った。ロシア人は何に笑うのか? 何によって自分を表現するのか? 人々はどのように守られているのか? そんなことを話し合ったんだ」

このリサーチによって、モーテンセンは「ロシア人はダークなユーモアが好き」ということも知ったそう。ちなみに、国営放送でスピーチを行うプーチン大統領の姿も参考になっている。消音にして観察したボディ・ランゲージが、ニコライの動きに反映されているのだ。

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また、ロシアンマフィアのタトゥーについても調べ上げたという。キーパーソンになったのは、映画「7 Imperrsonation of Viggo(原題)」でタッグを組んだアリックス・ランバートだ。

「いくつかのドキュメンタリー映画に製作・監督として携わったランバートが、伝統的なロシアの犯罪タトゥーの実態をとらえた『The Mark of Cain(原題)』に着手している時、重犯罪者の刑務所を訪れ、男女の殺人者、強盗犯などに『ロシアのタトゥーは、何を示し、どんな意味があるのか?』と聞いたことがあったんだ。今、若者の犯罪者の間では、ポリネシア風のタトゥーを使用しているそうだが、当時のロシアでは、コードを示すという名残のあるタトゥーがあった、そのタトゥーによって、どのような犯罪を犯し、どれくらいの刑を受けたのかがわかるそうだ。例えば、ニコライに刻まれているタトゥーは『教会』だ。その教会の塔(タワー)の数によって、刑務所での服役期間の長さを示している。そのほかにも、殺人、強盗、レイプなどを意味するタトゥーの存在を、アリックスの映画で知ったんだ」

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劇中で鮮烈な印象を残す光景がある。それは“全裸ファイトシーン”だ。

「あれは、すごいファイトシーンだった。実はロシアにいた頃、接近戦での戦いを写真を交えて記した軍事用のマニュアルを、ある古本屋で見つけたんだ。その本を、このファイトシーンで共演し、軍隊の経験のあるグルジア人(現:ジョージア)に見せた。すると、彼は『ああ、そうだ。これは、僕らが軍隊でトレーニングしたものだよ」と言ってきたので、僕らはその内容をファイトシーンに取り入れたんだ。もうひとりの敵を演じた俳優は、トルコ系のヘビー級ボクサーだ。彼らはとても良い俳優で、スタントマンでもある。このファイトシーンがよりリアルになったのは、事前にファイトシーンの振り付けを把握できたこと。そして、不快ではあったものの、全裸になることが理にかなっていると理解できたからだ。あのような戦いでは、タオルがずっと腰に巻きついたままであることはないからね。撮影では、打撲傷を負いながらも、リアルでオリジナルなファイトシーンを目指すことに集中していた」

クローネンバーグ監督と撮影監督ピーター・サシツキーは効率よく撮影を進行していたそうだが、このファイトシーンに関しては、1日で撮り終えられず、翌日、クロスアップのショットを撮っている。なお、ファイトシーンで生じた痣(あざ)を隠すことに苦労したらしい。

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話題は、クローネンバーグ監督の演出力に及んだ。「まず初めに、彼はキャスティングが素晴らしい。良い映画には、それが重要なんだ。彼自身、良いパフォーマンスを引き出すためには、キャスティングが、少なくとも仕事の半分を占めていると信じている。だからこそ、キャスティングの段階でも、かなりの注意を払っているんだ」とモーテンセンは語る。

「脚本を読んでいるところを見るというよりも、俳優に話しかけ、自分の質問に対するボディ・ランゲージ、反応を観察しているんだ。クローネンバーグ監督自身も良い俳優ですし、演技の過程も把握している。だからこそ、俳優が、さまざまな演技スタイルに適応するための方法を知っている。彼は俳優だけでなく、スタッフの質問や懸念にも寛容的だ。リハーサル自体には興味をもっていないが、俳優やスタッフとの会話や提案には常にオープンなんだ。また、俳優による最小限のジェスチャー、演技上でのギアの変更を注視している。しかし、一旦俳優を信用すれば、必要でない限り、演技に口を出したり正そうとするようなことはしないんだ」

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