危険なメソッド
劇場公開日 2012年10月27日
解説
「ヴィデオドローム」「ザ・フライ」の鬼才デビッド・クローネンバーグが、「ヒストリー・オブ・バイオレンス」「イースタン・プロミス」に続き、ビゴ・モーテンセンとコンビを組んだ歴史心理ドラマ。若き心理学者カール・ユングは、恩師である精神分析学者ジークムント・フロイトとともにひとりのロシア人女性患者の研究を進めていくが、やがて彼女の存在がユングとフロイトの関係に変化をもたらす。主演はキーラ・ナイトレイ。モーテンセンがフロイトを演じ、「イングロリアス・バスターズ」のマイケル・ファスベンダーがユングに扮する。
2011年製作/99分/PG12/イギリス・ドイツ・カナダ・スイス合作
原題:A Dangerous Method
配給:ブロードメディア・スタジオ
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2021年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
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ユングとザビーナ(ユングの愛人)が関係性を中心に物語は進む。二人の関係性の変遷がリアルに描かれ、感情移入をそそる。終始冷ややかに見えるほど理知的なユングが物語後半で愛人ザビーナに見せた感情の吐露にカタルシスを感じた。ユングとフロイトの手紙のやり取りが理性を保ちながらも熱を帯びていく様子も良い。精神医学の発展は医者と患者の双方の協力によって成り立ったことを思わせる。今作品を見ることにより、自分はユング派かフロイト派かどちらかを考えてみるとユング派となった(もちろんそれぞれの学問を全く知らないので感覚として)。具体的理由は、フロイトが精神的病状の原因をすべて性的な事に結びつけるのは自分も違うだろと思っていたことと、ユングが心霊や超心理学にも興味を持っていること(フロイトは非科学と断じている)。この作品を通じて、ユングの研究した内容を調べてみたいと思った。
さらに、この作品を見て意外に感じたのは、彼らが自分の夢の内容を分析していたこと。そのどこを意外に感じたかというと、夢占いという言葉があるように夢に意味を見出す向きは科学のない時代から占いという形であり、スピリチュアル的に夢の解釈をし自分の人生に活かすという事があるため、科学者としての彼らが夢を議論している様子は科学にこじつけて占うスピリチュアリストのように感じたからだ(私的な立場で夢を占う事を私は批判していない)。
物語中で印象的に語られるキーワード、モチーフ、シンボル的な事柄として、「ジークフリート伝説では純粋なものも近親相姦のような罪から生まれる」というような事象がある。これは作品を見終わった後もその具体例は思いつかずとも心の中で浮遊し、そうなんだろうなと思った。
最後に、ラスト、元愛人となったザビーナにユングが告白した言葉はとても印象的。「妻は家の土台で、彼女は漂う香りだ 君への愛は大切だった 自分自身を理解できたから」。この言葉を聞いて、不倫をする理由と意味を理解した気がした。
自分がこういうふうに感想を書き終わって気づいたのは、この作品を見れば、不倫を肯定的に捉えるようになる人間もいるだろうなという発見で、それは進められないなとは思いつつ、そういうふうにこの作品の影響には批判的な意識を持ちつつも結構楽しんだんだなということに気づかされた。
2019年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
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1904年、チューリッヒのブルクヘルツ病院 8月17日
一人の若い女性が激しく抗いながら、精神病院に担ぎ込まれるところから始まります。
クローネンバーグの映画だと気付かず観てしまいました。
クローネンバーグにしては、独特なクセもなく。ちょっと地味で実話に忠実で普通という感じがしました。
自分は心理学などに少し興味があり、放送大学で何個か心理学関係の講義を受講したことがありますので、そこそこ、興味深く観ることができましたが、フロイトやユングなどに全く興味のない人にとっては、退屈な映画かもしれません。
キーラ・ナイトレイの神経症患者(おそらく、いわゆるヒステリー患者)の演技はなかなかのものでした。顔をゆがめて、アゴを突き出し苦しそうにする姿が印象的。お尻をむち打たれることに快感を覚えるとは、マゾヒズムなのか。このザビーナ・シュピールラインという女性の存在は知りませんでした。後で調べたら実在して、ユングと恋愛関係になったことも事実のようでした。
フロイトとユングが仲違いをした話は有名ですが、フロイトという人は、自分と違う意見を持つ人や自分の考えに共鳴しない人などをとことん責めて、その人の精神が病んでしまうほどの鋭い影響力を持った人のようでした。ユングもフロイトと決別した後は、やはり精神を病みますが、この映画では、フロイトはマイルドに描かれているように思います。本当のフロイトはもっと、もっと面倒くさいおっさんやったと思います。
ユングがフロイトから離れていったのは、フロイトが何もかも、「性的」解釈することに疑問を抱いていたからですが、映画ではそのあたりのことをリビドーの話もまじえて、一般人が理解できるようにうまく描かれていたと思います。
全体的に淡々と物語は進んでいきますが、出番は少ないけれどグロスというやんちゃな医師の存在でハッとしました。ユングが「フロイトによる神経症は性衝動に起因する」といったら、
グロスが「彼は自分がヤれないから性に執着するのさ」
などとひどいことを・・・笑 でも、エンディングの説明でグロスはベルリンで餓死とあって、淋しい最期だなと思いました。
実話に基づいた精神臨床(ヒステリー患者を治療する)を描いている作品に『博士と私の危険な関係』(2012)というフランス映画があります。これは、フロイトの師である精神科医シャルコーとその患者の恋愛(転移)が軸になっています。タイトルは俗物的ですが、内容は古典的な精神療法の話。こちらも、女優さんは熱演でした。
キーらナイトレイのしゃくれ演技やヌードが堪能できる作品。ただ、この映画でそんな体張る必要性があったのかは微妙。再度きちんと鑑賞し直す必要は大いにある。
2018年10月21日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
心理学の巨星・フロイトとユングを描く映画。
ユングは、フロイトと別れてから、自身も精神疾患を患ったと言われるほどの心の危機を乗り越えて、ユング心理学(臨床心理士・河合隼雄先生が学んだ心理学)を打ち立てた。
心理療法で、転移・逆転移の取り扱いはとても難しく、心理療法の成功・失敗を左右するものであり、倫理の一つの性的接触や二重関係にも関わる要件であり(それこそ身の破滅)、心理療法を学ぶ時にスーパーヴィジョンを受けながらの訓練が必要になっている要点でもある。
なんて知識から、フロイト、ユング、ザビーナの心理的ダイナミックを期待して鑑賞したのだが…。
なんだこりゃ。
出だしこそ、キーラさんの好演もあって、ワクワクドキドキの始まり。ザビーネと対照的なエマの描き方もあり、暮らし等での人間にとって大切な安らぎを与えてくれるエマと、知的好奇心を分かち合い、高め合うことができるザビーネの二人を必要とし、その間で葛藤するユングとなるのかと思ったら、あっさり。肩透かし。
フロイトとのやり取りも、映画の粗筋紹介だとザビーネを巡る三角関係みたいな書き方をしているけれど、理論支持とかの面では取り合いあったかもしれないけれど、フロイトがザビーネに”恋”するのかは疑問。だって、フロイトはその粘着気質もあってフロイト夫人への執着すごかったから。
お話療法は、フロイトの共同治療者であるヨーゼフ・ブロイアーの発案。ところが、ブロイアーの患者が「ブロイアーの子を妊娠した」という妄想にとりつかれ、ブロイラーは恐れをなして撤退。でもフロイトはそれ以後も改良・研究を続ける。元々、裕福な商人の息子として産まれたフロイトだけれど、神経心理学者として才能もあったけれどユダヤ人だったので大学に残れず、仕方なく開業医をしていた。そんなこともあって、業績を認められることへの執着が凄かった。
対してユングは、プロテスタント牧師の息子として産まれ、当時も今も著名な医師オイゲン・ブロイラーの元でチューリッヒ大学の助手を務め、将来を嘱望されていた人(フロイトが望んでも得られなかった職)。だから、そのユングが自分の研究に興味を示しているという事が、フロイトの業績を世に認めさせる近道としても、重要だった(ユングを息子とすることで、ユングの就いている憧れの職にフロイトは同一化できたという側面もあったのだろう)。
そんなふうに、フロイトはユングを大切にし、ザビーネからも影響を受け、自説をどんどん発展させていったけれど、フロイトの元には他にもたくさん集まっていた。
映画に出てくるオットー・グロス(=オットー・ラング)も、最後はとんでもない説を唱え世間からそっぽ向かれたけれど、一時は時代の寵児となり、今の研究につながる重要な論文を残している。
他には、映画には出てこないけれど、今のドライカースにつながるアドルフ・アドラーやフレンツィ、フロイトの末娘など。他にもサロンを訪れた著名人は枚挙にいとまなく、ナチスの侵攻に当たっては、著名人のつてでイギリスに亡命できている。
という風に、フロイト側にはたくさんの人がいるけれど、
ユングをとりまく人々もたくさんいたはずなのに、
(ユングの理論構築に関与した患者はザビーネだけじゃない)
なんで、ユングは、フロイトと決別した時に、心の危機に陥るほどとなったんだろう?
そこらへんの心の機微が描かれるのかと思っていた。
ふう。
それでも、役者の演技は”らしく”見せてくれたし、
フロイトの家、ユングの家や病院等、
文献を読んでいるだけではわからない空間の様式美が見られたのは収穫でした。
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