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ジェニファー・ハドソンが明かす、アレサ・フランクリンとの途絶えることなき強い絆

2021年11月9日 12:00

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ジェニファー・ハドソン
ジェニファー・ハドソン
(C)Stewart Cook

デビュー作のミュージカル映画「ドリームガールズ」で、いきなりオスカー助演女優賞を獲得したのは、2007年のこと。その翌年にリリースされたデビューアルバムもグラミーを受賞したが、その後はなぜか、ビッグスクリーンでジェニファー・ハドソンの美しい声を正しく聴く機会があまりないままだった(2019年の「キャッツ」はミュージカルではあるものの、酷評されたせいで埋もれてしまっている)。

しかし、「リスペクト」でようやくその時が訪れた。“ソウルの女王”アレサ・フランクリンの半生を描くこの映画で、ハドソンは、フランクリンがデビューする前の10代の頃からゴスペルのアルバム「アメイジング・グレイス」をリリースする30歳の頃までを演じる。現在40歳のハドソンは、実年齢ではやや離れているが、それは映画が実現するのに思いのほか時間がかかったからにすぎない。フランクリン本人がハドソンに「あなたに私を演じてほしい」と言ったのは、「ドリームガールズ」でオスカーを受賞した直後。しかも、ハドソンは、その2年前、新人歌手発掘コンテスト番組「アメリカン・アイドル」で落選した後に、すでにフランクリンに会っていたというのだ。この映画を作るのは、ハドソンにとっても、フランクリンにとっても、長年の念願だったのである。(取材・文/猿渡由紀)

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「インディアナ州でのアレサのコンサートに、前座で出ないかという依頼があったのよ。それが、アレサとの初めての出会い。自分がアレサの前座を務めさせてもらえるなんて、夢のようだったわ。しかも私は、彼女が歌うのをずっと目の前で見ることができた。そして私がオスカーを受賞した後に、彼女についての映画に私が主演するという話がきたの。以後ずっと、私たちはその話をしてきたのよ。今作はパンデミックで公開が遅れたけれど、『1年遅れて残念でしたね』と言われるたびに、『私は15年近くもこの時を待ってきたのよ! 1年なんてどうってことはない』と思ったわ(笑)」。

この映画では、無名だったフランクリンが世界的スターになっていく過程が描かれる。だが、それは決してバラ色の道のりとは言えない。映画の最初では、子役が演じる幼いフランクリンが、知り合いの大人の男性から性的虐待を受けたことが示唆される。そして役者がハドソンに切り替わった数年後のフランクリンには、10代で未婚であるにもかかわらず、複数の子どもがいる。

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そんな中でも、フランクリンは、影響力の強い教会の神父である父によって歌手への道を進みつつ、家族ぐるみで親しくしているマーティン・ルーサー・キング・Jr.とともに市民権運動にも深くかかわっていた。彼女は彼について各地を回り、集会で歌うことで、人種の平等を求める運動に大きな貢献をしていたのだ。

フランクリンの人生のこの部分は、ハドソンもよく知らなかったという。

「それを知って、だから彼女の歌はこんなに心に響くのだと強く納得したわ。彼女は、当時の人々を代弁していたのよ。私も、人々を愛するし、人生を愛している。何らかの才能に恵まれたならば、人を助けるために使わないと意味がない。彼女はまさにそれをしていたし、私も同じことをしようとしている。もしかしたら、アレサはそんなところも考えて私にやってほしいと思ったのかもしれないわね。彼女があのような活動をしていたと知ってからあらためて彼女の歌を聴くと、ものすごく深くなる。60年代の社会で、女性はほとんど意見を言えなかった。『リスペクト』はそんな時に書かれたのよ。そしてあの歌は、何かを変えるのに大きく貢献したの」。

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ハドソンは、「ヒットを出すまでに何枚ものレコードを出していたことも知らなかった」とも語る。苦労する中で、フランクリンが歌う曲も、歌い方も、少しずつ変化していった。それを描写するのは「決して容易くはなかった」という。

「この映画で私は17歳の彼女としても歌ってみせる必要があった。まだ若いその頃の彼女は、少しハイピッチな声で歌う。その後、彼女は少しずつ自分のスタイルを見つけていく。時間の流れに合わせて、私は歌い方を変えていかなければならなかった。でも、アレサは私に『あなた自身が持つ芸術性も失わないで』とも言ってくれたの。そこも、忘れないようにしたわ。そもそも彼女は、私の中に何かを見つけてくれて、私を選んでくれたのだしね。もうひとつずっと意識していたのは、神への強い信仰心が彼女の基盤であるという事実。そこは私も同じだから、すんなりと入っていけた」。

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飛び抜けた才能を持つにもかかわらず、フランクリンが苦戦したのには、彼女の最初の夫の影響が大きい。彼女のマネージャーとなり、すべてをコントロールしようとする彼は、自分のエゴのために良い話をつぶしたりしたどころか、彼女に暴力をふるったりもした。悲しいことに、同じような体験をした有名女性シンガーは少なくない。たとえばホイットニー・ヒューストンティナ・ターナーがそうだ。

「彼女たちも人間なのよ。それを忘れてはいけない。それらの人たちの伝記映画を見ると、私は自分の人生を見ているように感じる。世界に対して見せる側面のほかに、彼女らには別の側面があったの。アレサにも、同じ葛藤があった。そして彼女は克服してみせた。それは私を力付けてくれたわ」。

映画は、フランクリンがロサンゼルスで「アメイジング・グレイス」をライブレコーディングするところで終わる。このレコーディングの状況は、ドキュメンタリーにするという目的でビデオ録画もされていたが、その映像は埋もれてしまい、40年近く経ってようやく最近「アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン」として公開された。日本では今年5月に公開されたばかりとあって、あまりにも見事に再現されていることに感動する人も多いことだろう。ハドソンによれば、このシーンで映画を終えることは最初から決まっていたそうだ。

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「あれは彼女の人生においてとても重要な瞬間だから。あそこで彼女は真の意味の『ソウルの女王』になったのよ。彼女は、自分のルーツに戻った。もっとも、彼女がそこを離れたことは一度もなかったのだけれども。とにかく、あのライブレコーディングは、アレサ・フランクリンという人を象徴する出来事なの。それに、あの後の彼女について、私たちはもう十分知っているし」。

エンドロールでは、その後の人生で彼女が達成した数々のことが、写真とともに紹介されていく。そういったさまざまな功績を成し遂げる中で、フランクリンは、多くの黒人の少女たちに夢とインスピレーションを与えていったのだ。

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「アレサは幼い頃、教会のコーラスで歌っていた。私と同じように。教会のコーラスで歌う少女はみんな、自分もアレサ・フランクリンになりたいと思っていたものよ。そして、黒人女性である彼女は、さまざまな障害を乗り越えて、パワフルな人物になっていったの。クリスチャンとしての信仰を決して忘れることなくね。彼女は、ミュージシャンとしても、ひとりの黒人女性としても、私のお手本。『アメリカン・アイドル』のオーディションで私が歌ったのも、アレサの『Share Your Love With Me』だったのよ。将来、自分がその憧れの人を演じることになるとは、当時は夢にも思わなかったわ。しかも、彼女自身から指名されるなんて。それは、すごいプレッシャーで、怖くもあったけれど、最高にエキサイティングでもあった」。

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残念ながら、フランクリンは完成作を見ることなく、2018年に亡くなった。だが、ハドソンの心に、フランクリンはいつも、アイドルとして、そして友人として、存在し続ける。

「彼女が亡くなる直前も、私は毎週アレサと話をしていたの。彼女は私の息子のことも、よく気にかけてくれた。私の人生に彼女がいてくれたことを、心から嬉しく思う。彼女のことが恋しいわ」。

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