藤原竜也&松山ケンイチ&神木隆之介が結ぶ危うい共犯関係 「ノイズ」撮影現場レポート

2021年10月30日 12:00


日本を代表する豪華キャストの演技合戦を体感した撮影現場
日本を代表する豪華キャストの演技合戦を体感した撮影現場

藤原竜也松山ケンイチ。かつて大ヒットを記録した「デスノート」シリーズで、映画史に残るライバル、夜神月とLを演じたふたりが、孤島を舞台にしたサスペンススリラー「ノイズ」で、再び対峙する。今度はライバルではなく、殺人の隠ぺいを図る“共犯者”として――。

本作は、廣木隆一監督が、「予告犯」「マンホール」「有害都市」などで知られる筒井哲也氏の同名コミック(全3巻)を映画化するもの。2020年10月19日と20日の2日間、映画.comは愛知・知多半島の撮影現場を訪れた。

20年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、映画製作の中断や延期が余儀なくされた。4月7日を皮切りに、幾度も緊急事態宣言が発令される不安定な状況のなかで、知多半島でのロケを敢行した「ノイズ」チームにとっても、感染防止策を探りながらの撮影となった。

キャストとスタッフ滞在用のホテルを貸し切り、外部との接触を断ち、エキストラは名古屋の劇団関連の人々に依頼し、撮影参加5日前からの検温と行動履歴の記録を徹底。キャストやスタッフが食事をとる飲食店にも制限を設けた。本記事では、映画.comにとっても久々の現場取材となった、厳戒態勢のなかで行われた撮影の様子をレポートするとともに、廣木隆一監督、北島直明プロデューサーのインタビューを紹介する。

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物語の舞台は、絶海にぽつりと浮かぶ猪狩島。過疎化に苦しんでいたが、泉圭太(藤原)が生産する“黒イチジク”が高く評価され、地方創生推進特別交付金5億円の支給がほぼ決まり、島民たちには復活という希望の兆しが見えていた。そんな島にある日、元受刑者でサイコキラーの小御坂睦雄(渡辺大知)がやってくる。そうとは知らない圭太と幼なじみの猟師・田辺純(松山)、新米警察官の守屋真一郎は、小御坂の不審な言動に違和感を覚えて追いつめるが、圭太の娘の失踪を機に、誤って小御坂を殺してしまう。

「ちはやふる」シリーズや「キングダム」など、話題作を次々と世に送り出してきた北島プロデューサーは、第90回アカデミー賞の主演女優賞、助演男優賞の2部門を受賞した「スリー・ビルボード」に感銘を受けていた時期に、筒井氏の原作と出合った。「スリー・ビルボード」では、米ミズーリの片田舎の町で何者かに娘を殺された母親が、犯人を逮捕できない警察に業を煮やし、抗議のために巨大な3枚の広告看板を設置する。その看板をきっかけに、住民や警察の間に諍いが生まれ、事態は思わぬ方向へと転がっていく……というストーリーだ。

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ノイズ」の舞台もまた、時代の流れに取り残されたような場所・猪狩島。「スリー・ビルボード」の看板が小さな田舎町に波紋を広げたように、「ノイズ」では凶悪犯の小御坂という異分子がもたらした一滴の悪意(ノイズ)が、染みのように徐々に広がっていき、平和な島を飲みこんでいく。やがて観客は、一見平穏な島に暮らす人々の、ぎりぎりのところで均衡を保っていた危うい人間関係、それぞれが抱える、巨大な悪に変ぼうしうる爆発寸前の感情を、まざまざと見せつけられることになる。

北島プロデューサーは、「閉鎖的な社会で、誰しもが持っている悪意が蔓延していくさまを描きたかったんです。絶対的な悪人はひとりもいないんですよ。ただ、人は誰しも嘘をついてしまうんです」と、物語にこめた思いを語る。

北島プロデューサーが、人間の心の奥底にある悪意と闇が、ある出来事を機に表出していくドラマを託したのは、「娚(おとこ)の一生」「ここは退屈迎えに来て」などで知られる廣木監督。人間の内面をえぐり、ストレートな感情を撮ることに長けた廣木監督と、サスペンスというジャンルの相性の良さに着目したという。

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本作で藤原と松山が体現するのは、幼い頃に事故で家族を亡くし、強い絆で結ばれた圭太と純。ふたりの幼なじみであり、新米警察官として島に帰ってきた守屋真一郎役は、神木隆之介が担う。日本映画界を代表する実力派俳優3人をキャスティングした理由を、北島プロデューサーは次のように明かす。

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「まずは、『藁の楯 わらのたて』『22年目の告白 私が殺人犯です』などで一緒に仕事をさせてもらっていた藤原さんを主人公にと考えて、『では藤原さんとゴリゴリにぶつかり合って面白いのは誰だろう』と考えた時に思いついたのが、松山さんだったんです。おふたりが揃わなかったら、企画をやめようと思っていたくらいの覚悟でした。実際に撮影を進めるなかで、おふたりは脚本を作っている段階で『こうなればいいな』とイメージしていたものを表現してくれる。素晴らしいです。そして、このおふたりの圧に立ち向かい、対峙できる方として、神木さんに真一郎役をお願いしました。殺人を犯した時に絶望に打ちひしがれて、死体を見下ろしている3人の画が、すぐに思い浮かびましたね」

圭太と純とともに島民たちに見守られながら“島の子どもたち”として成長し、後に圭太の妻となる加奈役には、黒木華。圭太と娘とともに穏やかな生活を送りながらも、島復興の期待を一身に背負う圭太を心配し、島での生活にどこか息苦しさを感じている。

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メディアに公開された撮影1日目は、圭太と加奈が暮らす泉家のシーンが中心となった。ある事件が起こり、トラックに乗ってやってきた圭太が、泉家の前で加奈を抱きしめる場面。何も知らない加奈が、秘密を抱えているらしい圭太に不安を吐露するという重要なカットだ。

廣木監督は、「加奈が不安そうに家から出てきて、圭太に駆け寄る」という当初の流れを、「家の前で動けない加奈を、圭太が駆け寄って抱きしめる」という動きに変更。撮り方、視線、タイミングなどを細かく指示し、テイクを重ねていく。直前に起こった事件が加奈に与えた衝撃の強さ、揺らぎつつある夫婦の関係を、より強く感じられるシーンとなり、現場でのひらめきを大事にするという廣木監督のこだわりを垣間見ることができた。天候が心配されるなかでの撮影となったが、廣木組常連のスタッフが揃っているとあってスムーズに進行した。

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その後、天候が悪化したため、長い休憩を挟み撮影が再開された。続いては泉家のなかで、圭太と純が不測の事態が起こったことを知るシーン。藤原は、動揺し、苦悩するという演技を、さまざまなパターンで探っていく。リハーサルでは泣きそうな表情を浮かべていたが、本番では焦って何かを呟くような演技を見せた。松山も、藤原の演技の細かい変化にすぐに呼吸を合わせていく。同じサスペンスというジャンルでありながらも、「デスノート」とは真逆の役どころで演技をぶつけあうふたりのタッグに、ますます期待が高まる。

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一夜明け、2日目の早朝からは、圭太、純、真一郎が、島にやってきた愛知県警の刑事たちと対峙する、緊張感溢れる場面が撮影された。県警の敏腕刑事・畠山努を演じるのは、永瀬正敏。北島プロデューサーは、「プリズン・ブレイク」でウィリアム・フィクトナーが演じた、主人公の脱獄犯の前に立ちはだかる天才FBI捜査官マホーンをイメージしていたようで、優秀だが蛇のような執拗さを持つ、寡黙で威圧感が強い人物としている。その言葉の通り、劇中では鋭い観察力と時に強引とも思える捜査を押し進める行動力で、3人を徹底的に追いつめていく。

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2日目の撮影の舞台となったのは、圭太が経営するイズミ農園。まずは、丘の上からロングショットで、ビニールハウスや、その背後に広がる黒イチジク畑など、イズミ農園の全体像をカメラにおさめていく。

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そしていよいよ、劇中で圭太、純、真一郎が畠山と初対面する、ビニールハウス内部のシーンへ。小御坂を殺害し、死体を隠している3人は、警察から小御坂の行方を問われるも嘘をつき通す。平然と、冷静に嘘をつく圭太。硬い表情ながらも淡々と、圭太の言葉に合わせる純。動揺し、目が泳ぐ真一郎。それぞれが自分自身の罪、そして嘘とどのように向き合っているのか――少ないセリフながらも、その表情や視線から、危うい共犯関係が見てとれる。罪を分かち合う3人、そして鋭い眼光を向ける永瀬の、ハイレベルかつ繊細な演技合戦に圧倒される。

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息を吸うことすらはばかられるような張りつめたやりとりを、ビニールハウスの出口から全体を俯瞰するように、キャストたちに寄る。それぞれの表情をつぶさにとらえるように、さまざまなショットが重ねられた。ドリーを駆使したショットでは、黒イチジク栽培について説明する圭太、ハウスにずかずかと入ってくる畠山を追いかけ、ふたりの間に走る緊張感を、流れるようなカメラワークでとらえた。重要なシーンを撮り終えたキャストたちは、ハウスから少し離れた待機スペースで談笑しており、藤原と松山と神木は、まるで演じた幼なじみ3人組のように、熱心に話しこんでいた。

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2日間にわたる取材の最後に見学したのは、圭太が純、加奈、娘・恵里奈とともに黒イチジクの収穫を行う場面。娘を演じた子役には台本を渡しておらず、家族の団らんシーンなどはアドリブの部分も多いそう。畑のなかで圭太と加奈が深刻な相談をする一方、純と恵里奈が無邪気に収穫に興じている。松山がイチジクをとりながら、恵里奈役の少女と楽しげに語らう、ほほ笑ましい光景もあった。そして、そんな慌ただしい撮影の合間に、廣木監督がイチジク畑の前で、インタビューに応じてくれた。

「藤原さんと松山さんは、本当に違うタイプの役者さん。アプローチの仕方も芝居も違うので、一緒にやっていて楽しいですね。神木さんはいろんな人に気を配って、自分で溶け込んでいくタイプの役者さんで、神木さんがいると、皆が和んでいる気がします。今回のメインテーマは、犯人探しではなく、犯罪が連鎖して広がっていき、その先に何があるのかということ。『誰が(何が)ノイズなのか』ということは、人それぞれ感じ方が違う。ノイズ(悪意)が波及していく、伝播していくところが、いまの日本を象徴していて、面白いんじゃないかと思います」

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ノイズ」とは、どのような物語なのだろうか。当初は、まじりけのない白のなかに1滴の黒が交じり、周囲をどんどん汚染していく……というイメージを持っていた。しかし、まじりけのない白だったはずの島の内部に目を凝らしてみると、そうとも言い切れないグレーな部分が次々と見えてくる。後ろ暗い秘密や押し殺してきた感情、気付きながらも目を背けてきた思いが、島の人々のなかで渦巻いている。サイコキラーという“ノイズ”が、そんな人々のなかに眠る感情を増幅させ、不協和音を奏でる。静かだが確実に起こりつつあった変調。殺人を機に猛スピードで加速する崩壊。日本映画界を代表するキャストたちが身を委ねた、ある終焉を導く“激情”を目撃してほしい。

ノイズ」は、22年1月28日に全国公開。

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