版画的表現、マスクを被った表情の見えないキャラ…新感覚のSFアートアニメーション「COCOLORS」監督の発想の源は?
2021年10月27日 17:00
個性的な作品で知られるアニメーションスタジオの神風動画が自主制作し、カナダ・モントリオールで開催された第21回ファンタジア国際映画祭で、最優秀アニメーション賞にあたる「今敏賞」を受賞。国内でも第21回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞した、オリジナルの中編映画「COCOLORS」が、10月29日からシネマ映画.comで配信される。46分という中編だが、3DCGを用いた独創的な表現方法に息をのみ、終末的でありながらも希望の見える世界観に浸れる美しい物語だ。横嶋俊久監督に話を聞いた。
<あらすじ>人体を融解させるバクテリアを含んだ有害な灰が空と地上を覆い、人々が巨大なマスクと防護服で身を守りながら、地下深くに作った街で暮らす世界。そんな環境で育った2人の少年アキとフユは、いまだ見たことのない「空」に憧れを抱いていたが、やがて外の世界の現実を知り、成長していく。
SFアニメーション作品と言えども、設定や背景などについて説明的なセリフは少なく、キャラクターの表情も見ることができない。その一方で、限られた色の世界は刻々と美しく変化し、キャラクターの動作や見る者のイマジネーションでその余白を補い、登場人物たちの成長を見届けるような野心的な作品だ。
「実は個人的ないきさつで、会社を辞めようかなと思った時期があって。その時、辞める前に何か作ってからにしては?と話を持ちかけられたのがきっかけなんです」と意外な本企画の発端を明かす。「好きに作っていいと言われて、何を作るか悩みましたが、まずは『色』をテーマにしたいと思いました。あと、作業的な問題としては、3DCGでアニメーションを作る際、“表情を付けること”はすごくハードルが高く、当時の僕らのチームでは作り終えられないんじゃないか、という懸念があって」
「でも、いわゆる“顔色”と言うように、顔も色の一部だと思っていたんです。人の顔を見て、相手がどういう感情なのか判断するのも人間に与えられている能力の1つだと思うので、あえてそこを封じてみようと。そうしたら、どういう物語が生まれるだろうか、と逆算して設定を作っていきました」とハンデを逆手に取ったことで、無彩色の世界でマスクを被った“顔色の見えない”キャラクターが“色”を獲得していくという物語が生まれた。
表現に版画の手法を取り入れているのが、この作品のオリジナリティのひとつ。多色刷り版画の工程と3DCGアニメーションには共通点があるのだそう。
「僕らは3DCGでアニメーション作品を作っているのですが、その作り方は、ピクサーやディズニーとはまた違う手法です。コンピューター上にキャラクターを作って動かすのですが、最終的に出力するときに1つ1つの色を抽出しながら組み上げていくのが、とても版画的だなと。3DCGという最新技術を使っているけど、やっていることは非常にトラディショナルなこと。そこを結び付けられたら面白いだろう、という考えがありました」
「あと、版画は擦り直しがきくところが好きなんです。絵画は一度描くと朽ちていきますが、版画は昔の浮世絵のように、版さえ残っていればいつでも何度でも擦り直しがきく。もしかしたらそれがこの作品の、大きなテーマの1つになる可能性があるんじゃないかなとも思いました」
そのほか特徴的な表現や、見どころを聞いてみた。「僕も久々に見返したのですが、少し、不親切な映画だなと思います(笑)。全く商業的ではありませんし……」とやや自嘲気味に謙遜する。
「特に3DCGだから、と意識したカットはありませんが、アニメーションをつける際には、人間の重さや、心の機微の表現にはこだわりました。顔が見えない分、各キャラクター性を手の表現に託して、主人公のアキは、手を握って感情を押し込めてしまうようなところがあったり、フユは握った手で、絵を描いて表現したり、登場人物の一人ずつ、少しずつ違っています。そんなところも見てもらえると、物語がよりわかりやすくなるのではないでしょうか」
日本発の異色のアニメ映画として国内外で高い評価を得た本作だが、横嶋監督自身は神風動画入社前に、アニメーションを学校で専門的に学んだことはないのだという。「もともとアニメって大人数で作っているイメージがあって、まさか4人位で作れるものだとは思っていなくて。今の会社に応募して、初めてアニメーションの現場に入って1から勉強して、現場でたたき上げで学んだことばかりです」と自身のキャリアを振り返り、「20代の頃はなんだかやることなすこと、うまくいかなかったりして。僕自身が、主人公のアキみたいな人間だったと思う。恥ずかしながら、そこも物語に投影しているみたいです」と明かす。
これまでに見てきた映画作品からの影響を尋ねた。「幼い頃見て、その内容は全く理解していなかったのですが、ずっと心に残っていて。この作品を作りながらまた見返したら無意識のうちに本当にすごく影響を受けていた」というのが、杉井ギサブロー監督の「銀河鉄道の夜」(85)。実写映画では「閉塞感がある田舎町でロケット打ち上げを夢みる青年達の話。この仕事を始めて、いつかなんかああいう作品を作れたらいいなぁと思っていた」というジョー・ジョンストン監督の「遠い空の向こうに」(99)を挙げる。
本作はミニシアターでのロングラン上映後、期間限定でBlu-rayが発売。その後は再上映がないかぎり見ることができない“幻の作品”でもある。今回、配信で自宅で気軽に見られる貴重な機会だ。
「SF的な部分を期待されてしまうと、もしかしたら添えない部分があるかもしれません。ただ、46分の中で表現したかったのは、設定を語ることよりもキャラクターの感情の部分をどう描くか。マスクで顔が見えない彼らの感情を、背景の色や声色だったり、音色だったり、別の色で補完しながら想像してみて頂けるとありがたいです。」
コロナ禍の影響で人と人とのコミュニケーションの在り方も変化した今、日常生活のすきまで味わえる46分の非日常体験を是非楽しんでほしい。
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