ジョエル・コーエンが単独監督で挑んだ「マクベス」が世界初上映! 主演はデンゼル・ワシントン
2021年10月5日 16:00

ジョエル・コーエンが監督、脚本を務め、AppleとA24が共同製作した映画「The Tragedy of Macbeth(原題)」が、第59回ニューヨーク映画祭のオープニングナイト作品としてワールドプレミア上映された。同映画祭では、コーエン監督のほか、主演のデンゼル・ワシントン、フランシス・マクドーマンドが記者会見に出席。作品に込めた思いを語ってくれた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
「The Tragedy of Macbeth(原題)」の題材は、これまで何度も映画化されているシェイクスピアの四大悲劇のひとつ「マクベス」。スコットランドの武将マクベスが、魔女たちの予言に野心を掻き立てられて主君を暗殺し王位に就くが、重圧に耐えきれず錯乱して次々と罪を重ねていくさまを描き出す。ワシントンがマクベス役、マクドーマンドがマクベス夫人役に挑戦。弟のイーサンとともに“コーエン兄弟”として知られるジョエルが単独で監督を務めている。

マクドーマンドは、数年前、カリフォルニアのバークレー・レパートリー・シアターでマクベス夫人を演じている。当時、夫のジョエルとは、「マクベス」の映画化について話し合っていたのだろうか?
マクドーマンド「私は、ここ15年の間、ジョエルに『マクベス』の舞台化に興味はあるかと何度もたずねていました。でも、彼の答えは『全く興味がない』というもの。舞台には興味がないみたいで、私はもう諦めていました。だけど幸いなことに、バークレー・レパートリー・シアターで、シェイクスピアと舞台劇を熟知しているダン・サリバン演出のもと、舞台版『マクベス』を演じることができました。結局、その舞台がジョエルにインスピレーションを与えることになり、映画化を考えるきっかけになったと思います」
本作への出演を即決したというワシントン。「実は、ここ(=リンカーンセンター)から1000フィート(304.8メートル)離れたフォーダム大学で、20歳の時、シェイクスピアの『オセロ』を演じたことがあった」と明かす。
ワシントン「その時は、何をしているのかがよくわかっていなかった。本作では、ジョエルとフランシスが仲間として、我々出演者を導いてくれた。脚本の読み合わせの際、それぞれが自分の役とは異なった役柄を演じることがあったが、その試みによって仲間意識が芽生えたんだ。実は、ひとつのセリフしかないが、僕の娘も出演している。ジョエルは読み合わせの段階で、娘に『君が、王(マクベス)を読むんだ』と指示していた。俳優全員の演技を“自分の責任でできるか、できないか”を試していたんだ。ただ、僕ら俳優は、その瞬間のために生きている。だから、ジョエルとフランシスが僕の出演に対して『イエス』と言ってくれたことが、とても名誉で光栄なことだった」

本作には、さまざまなバックグラウンドを持つ米国俳優、英国俳優が出演している。「ブレンダン・グリーソンはアイルランド人、バーティ・カーベル、ハリー・メリング、アレックス・ハッセル、キャスリン・ハンターらは英国人、残りのほとんどは米国人だ。出演者たちは、ジュリアード出身のケイト・ウィルソンのもとで、アクセントのコーチを受けていた。その際、実験的にアクセントのトーンを落とそうと……」とコーエン監督が話すと、マクドーマンドが発言を遮った。
マクドーマンド「あれは実験的ではなかったはず。あなたがケイトに『明日は、米国のアクセントでやるように』と言ったんですから。次の日、俳優陣全員、米国のアクセントで見事に演じましたが、あなたは『やっぱり(英国のアクセントに)少し戻してみよう』と伝えていましたよね」
コーエン監督「米国のアクセントと、英国のアクセントが混ざっている方が良いと思ったんだ。それが本質的に、我々が作っている世界観を、観客が受け入れる際の障壁にはならないだろうと感じたからだ。そしてアクセントだけでなく、明らかに多様性のあるキャスト陣を示す意味があるとも思った。そういった点では、まず“マクベスを誰が演じるか”が重要だった。デンゼルのおかげで、それを短い期間で決められ、そこから前に進むことができたんだ」

ロマン・ポランスキー監督が70年代に発表した「マクベス(1971)」では、20代の若手俳優を起用。一方、「The Tragedy of Macbeth(原題)」では、ダイナミックな変化が生じている。
マクドーマンド「実は、14歳の頃、舞台劇『マクベス』でマクベス夫人が夢中歩行をしているシーンを演じました。それがきっかけとなって、残りの人生は俳優の道を歩んでいきたいと思ったんです。あれからの50年は、ある意味、今回の役を演じるための練習であり、リハーサルでした。そして、このような年齢になった際、新たな映画版『マクベス』が製作されることになったのは、色褪せた必然性だったのかもしれません。今だからこそ、完璧に演じられました。出演している年配の俳優4人のキャリアにおいても、今作がひとつの区切りになったと思います」
「The Tragedy of Macbeth(原題)」では、モノクロ撮影を敢行。これは、かつてシェイクスピア作品を手掛けたオーソン・ウェルズ、ローレンス・オリビエらに影響を受けたものなのだろうか。
コーエン監督「オーソン・ウェルズの監督作では『オーソン・ウェルズのフォルスタッフ』が、あらゆるシェイクスピア作品のなかでも特に美しい。彼が手掛けた『マクベス(1948)』は奇妙な映画だが、映像的には魅力的なものだった。多少、オーソン・ウェルズの影響はあったかもしれない。だが、本作に関しては、むしろ“全てを取り除いていくような手法”をとっていたカール・ドライヤーのモノクロ作品に影響を受けている」
また、照明については「ドイツ表現主義、F・W・ムルナウ監督作『サンライズ』に影響を受けている」と告白。「サウンドステージで大きな野外のスペースをどのように撮影するのか――彼の撮影の仕方は、誰にも真似できないほど美しいものだ。それらがインスピレーションであり、とてもシンプルで美しく、演劇的ものでもある」と語っていた。

Netflix映画「バスターのバラード」を経て、今回はApple TV+とのタッグ。コーエン監督は、ストリーミング・サービスとのコラボについて、自身の見解を述べてくれた。
コーエン監督「フィルムメイカーとして、観客には可能な限り最高で、最も洗練された最大のプラットホームで見てもらいたいと思っている。だからこそ、僕らは時間をかけて製作をしている。どんな映画監督にとっても“悪夢”と言えることがある。それは、誰かから『あなたの映画を飛行機で見た』と聞かされた時だ。だが、僕はストリーミング・サービスに関して、個人的な見解を持っている。映画界に入って40年が経過し、イーサンとともに仕事ができたり、キャリアを持つことができたのは、スタジオがリスキーな作品を手がけ、VHSのカセット、(本質的には)テレビである“ホームビデオ市場”があったからだ。そんなホームビデオの市場が、僕らのキャリアの責任を担っていた事実がある。だから、今になって急にストリーミング・サービスを非難したりはしないんだ」
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