【「テルマ&ルイーズ」公開30周年】脚本家が訴えた「女性と正義」の関係、ブラピが演じた役にまつわる秘話
2021年8月18日 10:00
今からさかのぼること30年前、まだ“男性中心”だったハリウッドの映画界に衝撃をもたらす映画が製作された。“90年代の女性版アメリカン・ニューシネマ”として名を馳せ、今でも色褪せない輝きを放つ「テルマ&ルイーズ」だ。同作の主演を務めたジーナ・デイビスと、脚本家のカーリー・クーリは、ベントンビル映画祭で開催された30周年記念特別上映会に出席。上映後のQ&Aで、当時の撮影を振り返った。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
本作は、第64回アカデミー賞において6部門ノミネートを果たし、脚本賞を受賞。犯罪者となった女ふたりの冒険と友情を描くロードムービーだ。夫から家政婦扱いされていた平凡な主婦テルマ(デイビス)と、気の強いウェイトレスのルイーズ(サランドン)は、週末のドライブ旅行に出発する。だが、バーの駐車場でテルマが男に襲われてしまう。助けに入ったルイーズは、侮辱的な言葉を放つ男を拳銃で射殺。ふたりは逃避行を続けながら、経験したことのない人生をおう歌していく。
公開当時も“特別な作品”として知られていた「テルマ&ルイーズ」だが、現在でもフェミニズム映画の歴史において重要視されている。クーリは、製作のきっかけを明かしてくれた。
クーリ「私自身、当時鑑賞していたあらゆる映画とも異なっているということを把握していましたし、この脚本は書かなければいけなかったんです。それまで、私自身、もしくは私の知る女性が映画を通して『体験したい』という気持ちを表現した作品を鑑賞したことがなかった。ほとんどの登場人物は、私と重ね合わせることができない女性ばかり。女性として映画を見に行くこと自体『恥ずかしい』と感じていたんです。自分の運命を支配し、生き生きとした姿を見せる女性。そのような女性が登場する、これまで見たことがない作品を切望していたんです」
テルマとルイーズは、2人とも魅力的な女性だ。特に、テルマは感情の起伏が激しく、徐々に変化を遂げていくキャラクター。デイビスは、テルマ役を演じることに「興奮していた」のだという。
デイビス「今まで演じてきたキャラクターのなかでも、最も複雑で、最も(感情の)起伏のある役。私は、そんな役柄を現実的で、真実味のあるものにしなければいけませんでした。彼女は、臆病な主婦から自殺願望のあるロードウォリアーに、わずか3、4日間で変わっていきます。私が考えている映画のポイントは『自分の人生を支配している限りは、間違いを起こしても問題はない』ということ。間違いを起こしても、自分の責任ですから。重要なのは、テルマも、ルイーズも、自分の運命を自身で支配していること。彼女たちは(道中で)教訓を学び、最後のシーン(グランド・キャニオンに車で飛び込む光景)では、自ら望んで最後の抵抗をしています。それが重要なんです」
劇中の逃走劇は、男にレイプされかけたテルマを、ルイーズが銃で守ったことから始まっていく。当時は「テルマがそのような男と踊らなければ、あのような事態にはならなかった」という被害者を非難する社会・文化が存在した。クーリは、このような社会・文化は「もちろん、今でもあります。若い女子大学生が(性的暴行などの)体験をして、それを表沙汰にした際『お酒を飲むべきではなかった』『あんなことをしなければ良かった』などです。人々は、女性たちが家でじっとしていることを望んでるみたいです」と指摘する。
クーリ「このような性的暴行の状況は、どんなにスマートな女性でも起こりえることです。ハーベイ・ワインスタイン、ビル・コスビーのケースもそうでした。実際に凶悪な性的暴行を犯している有名な男性がいて、我々の文化にはそういったストーリーがいまだに存在します。そして『女性には正義がもたらされない』ということがある。この映画を作った目的とは、その状況を訴えるためだったんです。当時、女性が被害に遭った性犯罪において、正義を見出すことは稀なことでした。それは悲しいことに、公開当時、そして今でも変わらないことなんです。これが『テルマ&ルイーズ』が、現代でも適切な映画と思われている所以なんです。しかし、実際のところ、今でも適切な映画であってはならないんです。なぜなら、このような問題は、本来ならば何十年も前に解決されるべきことだからです」
話題は、今でも語り継がれるラストシーンに。リドリー・スコット監督は、同エンディングに、どの程度関わっていたのだろうか。クーリは「スコット監督は、確かに大きな役割を果たしてくれました。彼の立場であれば、他の多くの監督と同じように『テストで上手くいかなかったら、エンディングは変えよう』と提案したり、他のライターを雇って『エンディングだけを変えよう』と言うこともできた。でも、スコット監督こそが、あのエンディングの力を強く信じてくれていたんです」と語り、同シーンへの思いを打ち明けた。
クーリ「私は、あのシーンを文字通りの“自殺”という風にはとらえていないんです。ある意味、この世では大きくなりすぎて収まらなくなった2人が、この世界を去って、今日における無意識な大衆の心へ飛び込んでいったと思っています。なぜなら、テルマとルイーズは、今でもずっと我々の中に生き続けているからです。だからこそ、私たちは、煙が立ち上った車の残骸を映すことはなかった。捕まって刑務所に入れられたわけではなく、誰からも罰を受けたわけでもない。ある意味、ハッピーエンディグのつもりです。2人は、自分たちが望んだ形で飛び去ったんです。それがすごくパワフルなんです」
本作には、ブラッド・ピットが演じるヒッチハイカー・JDが登場する。彼が登場するシーンは女性目線で描かれており、デイビスは「あれは画期的で素晴らしいシーンでした。スーザンからは『ハニー、私はたくさんのセックスシーンを経験してきたから、今回はあなたが楽しんでください』と言われました(笑)」と説明。さらに、ピットのキャスティングにまつわる逸話を語ってくれた。
デイビス「JD役のオーディションには、スコット監督、キャスティング・ディレクターが参加し、私と5人の候補の息が合うかを探るため、脚本の読み合わせをしたんです。皆素晴らしかったのですが、オーディションが終わった段階で、スコット監督とキャスティング・ディレクターは、ブラッドの話をしていませんでした。だから、私が『ブロンドの人(=ブラッド・ピット)は良いですね』と言ったんです」
また、同オーディションには、さらにユニークな秘話があった。
デイビス「飛行機に乗った時、偶然ジョージ・クルーニーと隣の席になったことがありました。すると彼が、突然『俺はブラッド・ピットが嫌いだよ』と言ってきたんです。私は『そんなはずはない。あなたたちは親友でしょ?』と切り返すと、ジョージは『だって、彼は『テルマ&ルイーズ』のJDの役柄を得たじゃないか』と。『そうなんだ。あの映画であの役を演じたかったの?』と聞き返すと、ジョージは『あなたは、僕とオーディションに臨んだ際に、それに気づかなかったのかい?』と言われたんです。実は5人の候補のなかに、ジョージもいたんですよ……(苦笑)」
ちなみに、ピット、クルーニーが参加したオーディションには、マーク・ラファロの姿もあったそうだ。
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