【「るろうに剣心」キャスト対談】“永遠のライバル”佐藤健×江口洋介 ともに歩んだ10年間を振り返る
2021年6月13日 10:30
10年続いた実写映画「るろうに剣心」シリーズを、支え続けた男たち。「永遠のライバル」である緋村剣心と斎藤一を演じた佐藤健×江口洋介は、最終作である第5作「るろうに剣心 最終章 The Beginning」の公開を、どのような心持で迎えたのだろうか?
本作で描かれるのは、幕末最強の「人斬り抜刀斎」として恐れられていた剣心と、勢力を拡大中の新選組の三番隊組長・斎藤。幕末の京都を舞台に両者が火花を散らすさまは、シリーズを追いかけてきたファンにとって、最高のご褒美といえるのではないだろうか。
映画.comでは、公開初日の6月4日に佐藤と江口に単独インタビュー。第1作「るろうに剣心」での雨中の対決シーンや、第3作「るろうに剣心 伝説の最期編」での共闘……印象的なシーンを中心に、これまでの全5作を振り返ってもらった。
奇しくも、取材当日は、2年前に最終章において江口がクランクアップを迎えたのと同じ日付け。そして何より、新型コロナウイルスの蔓延防止に伴う1年間の公開延期や、映画館の休業を乗り越えてシリーズ完結作「るろうに剣心 最終章 The Beginning」が劇場公開を迎えた「最後の初日」でもある。
記念すべき日の感慨も乗せつつ、シリーズの足跡をたどる旅に出かけよう。(取材・文/SYO、写真/間庭裕基)
江口:そうですね。「るろうに剣心 最終章 The Final」(以下、「The Final」)と続けて撮っていったのですが、最後は「The Beginning」です。ただ、どのシーンかまでは覚えていないなぁ……。というのも、僕の撮影が終わっても(佐藤)健の出番はまだまだ続くし、現場もずっと動いている。とりあえず「お先に」という感じで抜けましたが、「終わった!」という感覚はなかったんですよ。リテイクもあるかもしれないし(笑)。
佐藤:確かに、「ここで最後」という感じは特になかったですね。
江口:そう思います。いま、まさに感じていますね。初めて「あぁ、終わってしまうんだ」という寂しさを実感しています。
佐藤:僕はクランクアップの時に一度、そして作品が完成して、公開される今日もう一度「終わった」と実感しています。
佐藤:そうですね。ただ、その日は全体の撮影初日でもあったんですよ。だから僕はまだ、自分のことでいっぱいいっぱいになってしまっていました。
江口:現場全体も、まだどういう映画になるのか手探り状態でした。その瞬間の自分たちのベストを出すことに集中していた気がしますね。とにかく一所懸命やろう、と思っていた記憶があります。
佐藤:あのシーンは、雨が思いのほか強かったですね(笑)。まだアクションの撮り方もいまほどばっちり決まっていないタイミングで、余裕もなかったですし全員が探り探りの状態でした。経験を重ねるにつれて、どこに力を入れてどこの力を抜くかが見えてくるようになったのですが、当時はまだそんなことはわかっていなくて、全部が全部一生懸命やっていました。
佐藤:そうした話し合いは、その後も当たり前のようにしていましたね。
江口:そうだね。ただやはり、作品を重ねるごとにブラッシュアップされていった感覚はあります。そこに自分なりのアイデアを盛り込む余裕も生まれてきたし。最初は、僕が漫画原作ものをあまりやっていなかったこともあって、アクション映画で、しかも「るろう(るろうに剣心)」の映画化と聞いて、半信半疑だったんですよ。
でも、健やアクションチームのみんなが創っている姿を見ていたら、これをメインに見せていく映画なんだなということがわかってきた。だから、現場でどんどんイメージが固まっていったんですよね。
佐藤:最終日、全ての撮影を終えて家に帰り、「水を飲もう」と思ってペットボトルを手に取ったのですが、蓋を開けられなかったんですよ(笑)。それくらい憔悴していました。
江口:ええー、すごいな……。
江口:そう、僕は2、3カ月前からトレーニングを始めて、撮影が始まったときにはアクションの型が頭に入っている状態でした。「伝説の最期編」の1対4の戦いの撮影のときは「志々雄、どれだけ強いんだ……」と思っていましたね(笑)。全員相当強いメンバーなのに、志々雄に押されて……途中で「強すぎる! 俺たちはなんなんだ……」と訳が分からなくなりそうになった(笑)。
佐藤:(笑)。
江口:台本を読みながら、見る方に「こういう映画だから覚悟してください」と提示するようなシーンだと感じていましたね。責任重大ですし、心して「この世界を作るんだ」という想いで臨んでいました。自分としても、いちばん大きい見せ場でもあると思っていました。
「京都大火編」の冒頭シーンは、栃木県の大谷資料館の地下にある大谷石地下採掘場跡で撮影しているのですが、すごい空間なんですよ。地下の巨大な場所で冬の撮影ということもあって結構冷え込んだのですが、火が燃え盛るシーンなので焦げそうになっているという。「The Final」の駅や電車のシーンは、本物だと思っていたらセットと聞いて、驚きましたね。そうしたように、現場に行くと本格的なセットなので自然と役に入り込めるんです。
僕たち役者は、現場を作っていただいた後で最後に入ります。その場に立ったときに「何を要求されているか」がわかる。これだけ作り込んでくれたんだから、いいパフォーマンスをしないといけない、という気にもなってきますよね。「るろうに剣心」の現場は、特にそういう傾向が強かった。
佐藤:すべては、本番で力を発揮するための調整期間なんです。練習期間も、現場でのテストも、全部。そして過去の1、2、3作をやってきた経験があるので、どうすれば本番で100パーセントの状態に持っていけるか、わかっていたところが大きいと思います。
1作目のときはただただガムシャラに練習していましたが、今回はそうした「本番でベストを尽くすために調整していく」という意識で取り組んでいました。
江口:それでも、主役は周りのスタッフのぶんも背負ってやっていたから、大変だったと思いますよ。ただ、健がすごいなと思ったのは、本番中にも色々な要因があって「これはたぶん1回で決まらないな」というとき、それをいち早く察知して、あえて流しながらやるんです。それもひとつの「調整」ですよね。
佐藤:(笑)。
江口:「るろうに剣心」の現場は大変だから、全部フルパワーでやると一日もたないんですよ。やっていくうちにそうした「力の抜き方」もうまくなっていくし、言葉を交わさずとも阿吽の呼吸でわかるようになっていく。不思議ですよね。
佐藤:僕は第1作の打ち上げの時に、江口さんに言われた言葉をすごく覚えていて……。
江口:えっ、なんだろう……。
佐藤:打ち上げのときって、色々な方がいらっしゃるから僕が挨拶回りをしていたんですよ。そうしたら江口さんが「主役はドンと座っていればいいんだから、お前は立つな」と言ってくれたんです。それ以来、僕は江口さんの教えを実践しています(笑)。
江口:健はすごく気が利くし、視界が広い。第1作のときは20代なりたてだったと思うんだけど、自分のときと比べて「俺はふてぶてしかったな……」と反省するくらい、ちゃんとしているんです。すごく大人だからこそ、気を遣い過ぎないようにそういう言葉をかけたのかもしれないですね。
佐藤:今回、久々に会うキャストもいましたが、やっぱりみんな変わらないなと思いますね。
江口:(笑)。そうだよね、この10年、他の仕事をやっているときもあったとはいえ、信頼関係ができているからそんなに変わらない。役も変わらないし、僕らもどこかでその役を抱えながら接しているから。
佐藤:第1作からスタッフもみんな一緒ですしね。スタッフもキャストも、みんなずっと変わらないんですよね。
佐藤:今回は、剣心がずっと内に秘めていたものをむき出しにして演じるという意識でした。だから、新しいものを持ってくる・何かが変わるということではなく、これまでの剣心から削ぎ落していった結果、人斬り抜刀斎時代が立ち現れるという感覚ですね。
江口:これまでは警察の「藤田五郎」として演じていましたが、羽織姿になったときのギャップは大きかったですね。ただ、日本映画や書物も含めて描かれてきた「新選組」とは、ちょっと違っている。これまでは「儚い青年剣士の美学」として描かれることも多かったかと思いますが、関東あたりの剣術に自信のある10代くらいのやつらが集まって京都に向かい「国のために刀を持って、明日から戦うぞ」となったら、相当危なかったと思うんですよ(笑)。
大友啓史監督も同じイメージを持ってくれていて、見た目から「新選組」というより「その時代に生きていた、エネルギーが有り余ったやつら」として作っていきました。全員、人斬りですからね。その時代のにおいが、その時代に呼応した正義を作っていくと思うので、それを念頭に置きつつ「最初の斎藤一」を演じました。
江口:やっぱり、小さい画面ではなく映画館のスクリーンで見ていただきたいですね。現場のサイズ感も、映画館での上映に適していますし。映画館の休業要請が出ている間は「困ったな」と思いながら過ごしていたのですが、いまは「ようやく届けられる!」という嬉しさでいっぱいです。
佐藤:時代としては「The Beginning」が一番昔で、「The Final」が最後。最終章で2部作公開だから直線として「The Final」「The Beginning」があるかと思いますが、「The Beginning」によって「るろうに剣心」シリーズ全体が完成したと思うんです。そして、その完成形は直線ではなく円なんですよね。どこから始まり、どこで終わるというものではなく、全部がつながって循環していく。だから、ぜひシリーズ全体を楽しんでいただきたいです。