花に対する情熱を与えてくれた母に捧ぐ――「ローズメイカー」監督が語る
2021年5月27日 14:00

「大統領の料理人」「偉大なるマルグリット」などのカトリーヌ・フロが主演を務める「ローズメイカー 奇跡のバラ」が、5月28日から公開される。崖っぷちのバラ育種家が、素人3人と共にバラコンクールに挑む本作のメガホンをとったのは、長編監督2作目となったピエール・ピノー。脚本も務めたピノー監督が、本作について語った。
フランス郊外で、父に遺された小さなバラ園をひとりで経営する頑固者のエヴ。かつては優秀なバラ育種家として名を馳せていたが、今や愛するバラ園は倒産寸前だった。人を雇う余裕もなく、職業訓練所から派遣された3人の素人、フレッド、サミール、ナデージュがスタッフとして加わることに。バラのことを全く知らない彼らと共に、エヴは全てをかけてバラコンクールに挑む。
子ども時代から花や庭園に関心を持ってきました、それは私の母、祖母から受け継いできた情熱です。幼い頃、私と兄に母と祖母から庭をプレゼントされ、それを世話してきました。そうした情熱がずっと残っていたのです。
映画のテーマに選んだのは、数年前にバラの育種がフランスの専門であることを知ったためです。奇遇だと思い情報を集め、バラの育種といった未知の世界を発見したのです。独特の言葉や独特のツールがあり、その中で特に注目したのは、バラの育種の中にある競走の世界でした。バラであっても最高の父と母を選び、なるべく良いバラを作ろうとします。父と母のいいところだけを取ろうとするところが、西欧社会のエリート主義に呼応すると思い、シナリオを書けると思いました。

エヴは女性でバラの育種家。彼女は美の探求もそうですが、父の遺産である会社を続けると同時に、そのことで父をも生き続させなければならないという義務感を持っています。この義務感のために、女性としてあるべき部分、母としてあるべき部分などが全て、もっとも美しいバラを作ることに集中してしまっているのです。こうした設定に私はこだわっていました。人の環境はとても重要で、彼女は他の人間との繋がりをそれで全て決めてしまう複雑な人物だからです。
なぜカトリーヌ・フロを起用したかというと、彼女は女優としてフランス的なオーラを持っているからです。フランスでも外国でも、彼女が演じてきた役柄の洗練しているところによって、彼女を見ればフランスだと思うでしょう。特に日本の方々にとって印象的なのは「大統領の料理人」ではないでしょうか。あの役によって、彼女はフランス的なオーラを勝ち取ったと思います。
それと同時に、気まぐれでファンタジーなイメージも持ち合わせています。エヴという人物は本当に複雑で、様々な側面を持っているので、演じる女優は演技に広がりを持っていなければなりません。強い感情を出す部分もあれば、コミカルなシーンも演じる必要があります。彼女であれば、その難しい役柄をエネルギーを持ってこなせると思いました。

フレッドのキャスティングはとても難しかったです。若い俳優であり、不良で男性的なマッチョなところ、暴力的なところ、肉体的に印象なところを兼ね備えていなければなりませんでした。それと同時に、どこかに自分が捨てられたという苦しみを持っていて、そうした隠れた感性の両方を出せる必要がありました。この映画の中で、フレッドは大きな成長を遂げます。重要な人物として、あらゆる感情を表現できる俳優を見つける必要がありました。
そうした背景から、私はエージェントに登録してあるほとんどの俳優に会いました。素晴らしく感情が出せる俳優、不良っぽさを備えている俳優がいましたが、両方できる俳優は見つかりませんでした。そこである時、セザール賞の候補になった「私は冷たいものを食べる」という短編映画を見ていて、そこで彼の演技を初めて目の当たりにしました。それが素晴らしかったので、早速会ってカメラテストを実施して、その後カトリーヌ・フロと演技をしてもらいました。そこでもやはり素晴らしかったので、彼に決めました。
彼はラッパーで、言葉に対してとても敏感です。長編映画に初出演だったにも関わらず、言葉に対して独特のリズムをつけてしっかりセリフをいうことができるとわかりました。肉体的にもとても存在感があって、男性的なところがあります。完成した作品を見て、彼を起用して良かったと感じました。あの役自体が社会に再編入した役であり、それと同時に彼自身が長編映画に初出演しているという点でピッタリ呼応していると思ったからです。

脚本の執筆に3年かかりました。その執筆中に母が病気になり、亡くなるまで私はずっと付き添いました。母とこのプロジェクトについてたくさん話しましたし、母はこのプロジェクトを気に入ってくれて、実現するようにとずっと励ましてくれていました。
花や庭に対する情熱を与えてくれたのも母ですから、この作品を母に捧ぐというのは当然のことでした。実際に、脚本をちょうど描き終わったあたりで母は亡くなりました。
(C)2020 LA FINE FLEUR - ESTRELLA PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINEMA - AUVERGNE-RHONE-ALPES CINEMA
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